■好事家の構図

年に一度のこの企画、今回は絵の構図についてのお話ザマス。筆者の場合、絵を描く労力と時間の7割がここに費やされるので、これをちょっと解説したいと思います。

最初に構図とはなんぞや、という点をハッキリさせて置くと「どの位置にどういった形で何を描き込むのか」という事であり、例えば「人が二人画面内に立っている」というだけの絵でも無限に近い構図の組み合わせが存在します。その中で最も「見ていて気分がいい形」、すなわちイカス構図を探し出すのが、私にとって絵を描くという作業なのです。この辺りはワイエスの「クリスティーナの世界」に衝撃を受け、川瀬巴水と吉田博の絵に影響を受けて絵を描くことにした筆者ならではの事情もありますが「考え抜かれた構図はイカスし気分爽快」というのは多くの人にも理解して貰えるんじゃないかな、という期待を持ってこの記事を書いておきます。

ついでにこれが映像として動く段階になると黒澤明、宮崎駿、と日本人の二人が突出した才能を示し、そこにスタンリー・キューブリックが絡んで来る、というのが持論なんですが、この点はまたいずれ。ちょっと話が変わって来ますしね。

■絵の始まり

今回は2023年の6月にサイトの看板絵として使ったこれをお題とします。



この絵が「イカスし気分爽快」と感じるか否かは個人差があると思われますし、本人も100%納得してるわけでは無いのですが、少なくとも何の創意工夫も無い絵よりはマシ、という前提で考えてください。でないと話が先に進まないので大人の妥協をよろしくお願いいたします。

この絵を描く前に考えていたのは、以下の点でした。

■ここ数カ月の看板絵は上から見下ろす構図が多いので、今回は避ける。
■ここ数カ月の看板絵は複数の人物の絵が多いので、今回は避ける。
■しばらく屋外、少なくとも人工構造物の外の絵ばかりだからタマには建物を何か描こうよ。

これらを考慮しながら、とにかくカッコいい構図を考えるのですが、それを直ぐに思いつくなら苦労しません。

何度か述べたように私は紙やキャンパスに絵が描けない、デジタル機材のお絵かき限定というのは、後からいくらでも構図を変えられる、という点がとても大きいからです。紙などに描く場合、最初の下書き段階から大きく変更する事は極めて困難ですし、ましてや後で見るように絵の大きさすら変えてしまう、といった荒業は不可能でしょう。ところがそれらが出来ないと自分の描きたい絵が描けない筆者は、デジタル機器を活用するしか無いわけです。逆に言えば、もしデジタル化による絵を描く機器が発達して無かったら、筆者はとっくに絵を描くのを止めていたでしょう。

といった辺りが大前提。要するに描きながら、より良い物を目指してどんどん変化を加えて行く、というのが筆者の絵の描き方なのです。よって以前も見たように最初の絵はかなり適当で、同時に完成形とはかなり異なる事になるのが普通です。そういった試行錯誤が有効なのがデジタルお絵かきの利点である、と筆者は考えているからでもあります。




まず最初に描いた下絵がこれ。
空間把握能力によるパースの無視とか、影による立体表現 とかは既に過去に説明したので今回はその辺りの話は無しでドンドン先に進みましょう。

私はまともに線が引けないのでお絵かきソフトウェアの描線機能で、まずはざっと構造物の線を引いてしまいます。もっと複雑な構造だと2021年の時 に見せたように図形を変形させて画面を造って行くのですが、今回はそこまで複雑では無いので、ざっと線で描いてしまいまいました。本人は灯台の上部のような、円筒形で閉鎖的な空間のつもりで描いてます。この段階では良し悪しは全く判断が付かないので、とりあえず少し作業を進めて、もうちょっと全体像が見える形にします。




筆者の頭の悪さに正比例するような単純な構図なので、恐らく人物の姿勢が大きな鍵になるな、と判断し先にこれを描いてしまいます。ちなみにこれで原寸、縮小無しの大きさです。人物像はただ立ってるだけの単純な姿勢が向いてる場合と、ちょっと凝った姿勢を取った方がいい場合があるんですが(どっちでもいい場合もあるが)、今回は構図が単純なので人物像をちょっと凝った姿勢としました。ただし上の下絵とはまるで違う物になってますが、この辺りはいつもの事なので気にしない。ちなみに深い理由があって変わったのではなく、描いてる内にこれがいい、と思われる方向に変更を加え続けた結果です。

これ、細かい部分が極めて適当ですが絵の中に入れてしまえばさして気にならないので、無駄な時間を掛けるのも細かい作業も苦手な筆者はこれでオシマイとします。



それを最初の絵に戻します。今年の春にPCを新型にしてから妙に気が大きくなっており、気前のいい大きさで絵を描くことが増えたため、今回はあの大きさの人物像を入れてもこんな感じになっています。

ちなみに細かい事を言うと構造物の直線、曲線はベクターデータで描かれてるので、紙の上に置いた黒い糸のような状態。よって下地に直接描き込む人物像等をどこに置いても影響は無く、線が一部消えたりする事もありません。さらにその線もまた自由に動かせます。対して人物像の方も周囲の不要部分を切り取り、切り絵のような形で画面に置いててあります。それによって自由に位置を動かし、最もカッコいい場所を探すのです。そういった基本的な部分すら、実際に描いて、いろいろな組み合わせを試して見ないと判らないので、私は最初から最後まで一気に描かねばならない紙やキャンパスに絵を描くことは出来ないのです。とりあえず、今回はこの辺りかな、という場所を決めます。



全体に着色し、簡単に影も付けて見ました。

ちょっと寂しかったので手前にイスを追加、外側の柱の位置も変えた上で、壁は全て撤去、青空にしていました。当初はただの壁のはずだったので、既に全然違う内容になりつつあります。ちなみにイスと影、人物とその影は別レイヤー(描画層)に置いてあるので後から自由に動かせます。

この段階で悪くは無い、と判断したため作業を続行する事に決定。ある程度形にしないと良し悪しの判断は難しいので、この段階まで進めたのに廃棄となる事もあります。ちなみにここまでの作業でざっと3〜4時間かかってます。絵を描くのって、意外に時間が掛かるのよ。

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