■光あるところにハゲがある

さて、今回の原点回帰のお話は光と影に付いて見てゆきます。

日本で見かける大衆文化系の絵の多くが、浮世絵と木版画、そしてと手塚治虫閣下(というかその元ネタの戦前のディズニー)の影響から、線だけで全てを描こうとする傾向が強くあります。歴史的な背景からして仕方のないところですが、同じ線画でも陰影を強調するアメコミや、日本の漫画の影響を受ける前のバンド・デシネ(Bande dessinée フランス語圏の漫画)が色の濃淡(グラエーション)で立体の表現を行っていたのに比べると、特徴的と言えば特徴的、奥行きが無い安っぽい絵が量産される最大原因の一つとなったと言えばなったのが、この辺りの傾向の問題です。

例外は川瀬巴水さんや吉田博さんといった明治以降の版画家の皆さんだけであり、それも後継者が無いまま終わっています。個人的にはこれがとても悲しく、よって今回の原点回帰の記事では陰影による効果を見てゆきます。

ちなみに再確認して置くと、当記事における「絵」は平面上に空間を、最低限でも立体を再現する事を意味し、記号を集めて造る絵、〇と△を組み合わせてワンちゃんが出来ました、といった「記号の寄せ集めとその延長線上のもの」は対象外となっております。すなわち世の中の「自称これは絵」の6割は対象に含まれない話です。

 

とりあえず話を簡単にするため、今回は「空間」では無く「立体」段階のお話で見てゆきましょう。
そもそも立方体を「描く」場合、二つの手法があります。まず左の1番のように面を組み合わせ、そこに濃淡(陰影)をつけて立体を表現するもの。昨年、2021の原点回帰犬作戦で御覧に入れたのがこれです。

もう一つは線を組み合わせる事で立体を表現するもので、右の2番がそれです。日本の漫画、アニメ、イラストの9割が右の線だけ表現とその延長線上である、というのが筆者の感じるところであり、ほんの少しだけ面の陰影を取り入れると、もうちょっと色々面白くなるんじゃないかしら、というのが今回のお話です。人間は基本的に立体を光(色)の濃淡で認識してるわけですし(全周から光を当て影を消した球体の写真を見て、被写体が平面の円盤なのか立体の球体なのか、人間には判別する事ができない)、これを線だけで表現しよう、というのはそもそも頭が悪すぎます。

この辺りの線画表現の旺盛ぶりは、江戸期までの日本にはテンペラや油彩のように色の濃淡で形状を表現する絵画技法が無かったのが根本的な原因の一つだと思うんですが、同じような環境にあったハズの中国人の皆さんの描く絵を見てると、どうもそれだけでは無いな、と思いつつあり。ただし、ではなぜ?と聞かれると未だによく判らん、という所ですが…。

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