■第十章 ステルス機とF-22

 

■YF-23という機体

今回はF-22のライバルにして先進戦術戦闘機(Advanced Tactical Fighter (ATF))競作の敗者、そしてノースロップ式ステルス技術の集大成だったYF-23を少し見て行きましょう。
と言っても私は別段この機体に詳しいわけでは無く、単にアメリカ空軍博物館で撮って来た写真があるので、せっかくだから載せて置こう、といったセコイ魂胆による記事です。その辺りはご容赦を。それでも一脚にカメラを載せて持ち上げ、普段は見えないよう角度からも写真を撮ってますので、それなりの資料性はあるはず。

YF-23は試作された2機とも現存し、1号機がこの空軍博物館の機体、2号機はカリフォルニア州のWestern Museum of Flight にて展示中です。
ちなみに競作でYF-22に敗れた後、守秘義務の関係から破壊するように空軍は要求、それに抵抗したノースロップとの駆け引きがあったようです。このため、試験終了後、NASAに引き渡され、カリフォルニア州のドライデン研究所(というかその所在地であるエドワーズ空軍基地)で野ざらしになってました。ちなみにエンジンは回収されてしまっていたため飛ぶことはできず、NASAとしても使い道が無くて持て余していたそうな。しょうがないから地上での荷重実験でもやろうか、と考えていたようですが(おそらく破壊までやる気だった)、最後までそれは行われませんでした(一部で出回ってるNASAが実験機として採用する計画だった、という話は存在した事が無い)。
その後、1999年ごろにまずは2号機がカリフォルニアのWestern Museum of Flight に引き渡され、後に1号機が空軍博物館へと持ち込まれる事になります。

ただしノースロップ・グラマン社は21世紀に入ってから、空軍の新世代爆撃機計画(Next-Generation Bomber)に呼応して、YF-23をステルス戦術爆撃機として復活させようとしたことがあり、カリフォルニアの方の展示機を回収して改造をやってます。なので、厳密にYF-23の状態を維持してるのは、この空軍博物館の機体だけです。ちなみに新世代爆撃機計画は途中で要求仕様が変更になり、YF-23は再び不採用となってしまうのですが…
それでも最終的に長距離強襲爆撃計画(Long Range Strike Bomber program)に内容が変更された後、ノースロップ・グラマン社が勝者となってますから、ノースロップ式ステルスは死なず、という事でしょう(これがB-1、B-2、B-52まで全て置き換える予定の新型爆撃機B-21)。
ちなみにYF-23はノースロップとマクダネルダグラスのチームによる共同開発なので、表記としては、ノースロップ・マクダネルダグラス YF-23となりますが、機体形状の設計はほぼ全てノースロップであり、実際はノースロップYF-23だと考えて問題無いです。

余談ながら、アメリカ方面のサイトでは今でもYF-23設計技術の日本輸出の話を見ますが、この辺り、どうなんでしょうねえ…。個人的にはこの話に期待したいところです。今の基準で見ても、この機体、結構スゴイですから。

とりあえず、まずはそのヌメッとした全身像から。ちなみにこの滑らかな構造は空力的にも有利だったはずで、Western Museum of Flight が制作したドキュメンタリー番組では守秘義務により細部はコメントできない、としながらも、当時の関係者が超音速巡行(Super Cruise)でもアフターバーナーありの飛行でも、YF-22より高速だったと証言してます。










さてここで、ライバルだったロッキードのYF-22の写真も載せて置きます。
ちなみに現存する唯一のYF-22は2017年までアメリカ空軍博物館に展示されていたのですが、 現在はカリフォルニア州エドワーズ空軍基地内、NASAドライデン(アームストロング)研究所にある博物館( Air Force Flight Test Center Museum)に移されてしまってます。



まずは、ざっと両機を見比べてください。
多数の面とその繋ぎ目に出来る接合線の反射を計算、制御して造られたロッキード式と、 単純な面構成にして接合線を減らし全体を滑らかにまとめたノースロップ式の設計思想の違いがよく判ると思います (面と面を繋ぎ合わせて出来る直線部分のレーダー波反射制御が一番の難問になりやすい。 これをロッキード社は例のソ連の技術論文で解決、対してノースロップ社は面構造を単純化、 可能な限り直線の接合部を造らないようしてる。唯一避けることが出来ない胴体上下接合部は例のフチを造って対応した)。
この結果、カチっとしたYF-22、ヌメッとしてるYF-23という特徴が出て来ます。同世代機でも、そのステルス技術の思想はかなり異なるのです。

ここで両者の大きさを数字で比べると以下の通り。

   全長  全幅  乾燥重量 
  YF-23  20.6m  13.3m  13.1t
  YF-22  19.63m  13.1m  14.97t

全長はYF-23の方が1mほど大きいのですが(ただしYF-22は機首部にピトー管があるので本体はもう少し短い)、全幅はほぼ同じ、重量では実はYF-23の方が軽いとされます。この辺りの数字はいわゆる“世の中に出回ってる数字”でその信憑性は確実とは言えないのですが、 今さら機密にするようなものでは無いので、そう大きくは違わないと思われます。ちなみに全長20.6mはあのF-105よりも少し長く、アメリカ空軍が“飛ばした事がある”戦闘機としてはYF-12に次ぐ長さを持つ機体となっています。

数字を見る限り1.8t も軽いYF-23の方が機動性はずっと高かったはずで、世の中で言われてるようにステルス性能はYF-23、運動性はYF-22が上だった、という単純な話では無いような気もしますね。水平尾翼がない分、YF-23の方が機敏な動きが出来なかった可能性もありますが、 その辺りはフライバイワイアである程度解決できそうですし…。 実際、ノースロップのテストパイロットは操縦が楽な運動性のいいい乗ってて楽しい機体だったと証言してます。

数字はあくまで乾燥重量なので空中での重量では無いですが(実際はもっと重い)、仮にこの数字の重量差で7G掛けての戦闘旋回をやった場合、 両機体にかかる荷重の差は質量×加速度、すなわち1.8×7=12.6t とほぼ機体丸ごとに匹敵する“重量差(加速度(G)×質量=力)”が生じます。
つまりYF-22の方が機体重量丸ごと1機分も「重く」なってしまう事になり、同じ出力のエンジンを積んでいる以上(エンジンが同じなら単純比較が可能)、 YF-23が一方的に有利となるでしょう。これが8G、9Gの究極レベルの空戦になると、さらに1.8tの8倍、9倍もの重量差が付く事になります。同じエンジン出力でそれを支えるのは普通は無理ですから、やはりYF-23の敗因は機動性とかではない気がしますね。

ちなみに同じ事が基本的に同エンジンのF-16とF-2にも言え、乾燥重量で比べるとF-16C ブロック50 8.5tに対してF-2は9.5tと1t 以上も重いのです。 なのでGの数に等しいトン数分、F-2の方にかかる荷重は高く、つまり機体は「重く」なります。……私ならF-2であまり空中戦はやりたくないですな。



横から見ても独特の形状です。可能な限り単純な面構成にして、これを滑らかに繋いでるので、どこか生物的な印象があります。
現在の塗装は展示に当たってこの博物館で塗りなおされてしまったものですが、ノースロップからオリジナルの塗料をもらえたのか、適当にそれっぽい塗料で塗っちゃったものなのかよく判らず。

ノースロップ式の上下バスタブ型の胴体を接合した構造もよく判りますね。
その接合部がそのまま主翼に繋がり、余計な直線部を造らないように工夫されてるのも見て置いてください。ついでにコクピットの位置が高く、視界の確保もかなり考慮されてるのが見て取れます。コクピットのキャノピーと風防(前部透明部)が黄色いのは経年変化で劣化ではなく(それでも少しあるが)、これもレーダー波対策の金蒸着が行われてるため。
ただしYF-17以来の伝統、キャノピーと風防の間に枠組みが存在して視界を邪魔するほか、これはステルス性の確保でも不利です。この辺りはちょっと疑問が残る所でしょう。

さらに機体前半のコクピット部と機体後半のエンジン部が完全に独立した構造になってるのも見といてください。
胴体後部で上に飛び出してるのがエンジン部で、空気取り入れ口は主翼下に位置してます。これはエンジンと空気取り入れ口を直線のダクトで繋がず、エンジンのタービンブレードを正面方向に露出させないようにする工夫です。
ロッキードは左右にずらしたのを、ノースロップは上下にずらしてるわけです。これはB-2でも同じで、あっちは主翼の上の空気取り入れ口から下方向に曲げてます。この主翼面に空気取り入れ口を持って来てエンジンのタービンブレードを隠す、というのもノースロップ式ステルスの特徴でしょう。

余談ながら、尾翼に付いてる楯章は普通に戦闘機運用担当の戦術航空司令部(TAC)のモノなんですが、胴体横の奴はあまり見た事ないものなのに今気が付きました。気が付いたけど、この部分を大きく写した写真が無いので、正体不明です…

よく知られているようにYF-23ではステルス性確保のため、傾きの強い尾翼が1枚ずつ左右にあるだけです。位置的には垂直尾翼のみ、という印象ですが実際は垂直、水平の両役割をこの単体の尾翼で担っています。
そしておそらく通常の水平尾翼が無いため、台形の主翼面積はYF-22(77.1u)に比べかなり巨大(88u)になっています。この怪鳥のような主翼もYF-23の特徴の一つでしょう(個人的にはモモンガを連想するが)。


■Photo NASA

こんな感じですね。
ちなみにYF-23の主翼が上から見ると台形なのは 主翼後部が直線だと後部から来たレーダー波をそのまま来た方向に弾いてしまうからです。斜めにすれば例の入射角と反射角によってあさっての方向に反射できより安全になります。後ろから追いかけて来る地対空ミサイルが一番怖い以上、これは必須の工夫でした。 デルタ翼は主翼の断面型を長く伸ばして翼面上衝撃波を防いでるだけですから、上から見た形が三角形でも台形でもその効果は同じとなります。
(ただし厳密にはエルロン、フラッペロンの効きが変わるので、可能なら単純なデルタ翼の方が望ましい)

ついでにYF-22の主翼はYF-23に比べると主翼後部の角度が浅く単純なデルタ型に近かったのですが、F-22に設計変更される際、翼端部の線を曲げるなどして後縁部の線の角度を強くし、より台形に近づけられてます。
この辺りを見ると、日本の心の神とかいう実験機のステルス性の実力が推測できて泣けてきます(まあ、それ以外もヒドイもんですが)。誰だ人の税金であんな適当な自称ステルス機を造ったヤツ。

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