■F-22の外見の特徴
さて、この長き連載の最後では、F-22の外見的な特徴をざっと確認しましょう。
実はよく見ると、F-22はかなり変な機体です。とりあえずF-15と比較して見るのが手っ取り早いので、ここでは両者の外観から、その違いを考えてみます。
両機をほぼ同じ縮尺で比較したのが次の図です。念のため確認しておくと左がF-15のC型で、右がF-22のA型。赤い線は機体の幅と長さと前後の中心位置を示します。ただしこの中心点がそのまま空力中心点(揚力による吊り上げの支点)や機体の重心点ではないのに注意してください。単なる機体の前後左右の長さにおける中心点で、一つの目安として入れたものです。
まず両機とも主翼は機体の後部に位置してるのに注意してください。
双発ジェット戦闘機では重いエンジンが後ろ側にあるため重心も後方にあり、これに合わせて主翼の位置を後ろにずらした結果です。基本的な考え方は単純で、ヤジロベエの片側のオモリを重くしたら、支点をそちらに近づけるのと同じ理屈です。機体を揚力で上に吊り上げる点、空力中心点(支点)を重心点に近づけないと前後のバランスが取れないのです(ただし両点の位置は完全には一致しない。おそらくF-22の空力中心点は機体の重心点より前にある。理由は滅茶苦茶長い話になるので今回はパス)。
ちなみに逆に重いエンジンが機首にある通常のプロペラ機では主翼は機体の前方に来て、いわゆるT字型の機体になるわけです。
が、同じ胴体後方といってもF-15の主翼は完全に中心点より後ろなのに対し、F-22では一部が前にはみ出してます。これはF-22の巨大な主翼によるもので、F-15Cの56.5uに対して78.04u、1.38倍もの面積を持ちながら全幅はF-15の13.06mに対してF-22でも13.56mとそれほど変わらず、主に主翼の前後幅によって拡大されたものだからです。
ここで注意したいのは、大きい主翼だからといって、F-22の方が大きな揚力を持ってる(つまり翼面荷重が軽くなってる)とは限らないこと。翼面上衝撃波対策として翼断面が引き延ばされた主翼では(F-22の台形翼もデルタ翼も同じ効果を持つ)、単純に翼面積で揚力の大きさは決まらないからです。おそらくより長く引き延ばされたF-22の主翼の方が揚力的には不利と考えるべきでしょう。
■巨大な主翼
でもって、この巨大な主翼もF-22の大きな謎の一つだったりします。
そもそも戦闘機では主翼の翼面積の拡大にあまりメリットはありません。重量が増えるので(主翼の重量増+主翼を支える構造の強化)戦闘機の命である加速力、上昇力を鈍らせるからです。さらにロールを打つのにもウチワのような抵抗を生じますから、大きい方が不利となります。そして高速になるほど大きな揚力は大きな抵抗を発生させるので、速度を出すとガンガン燃費が悪化します。その上で、F-22があえてこういった設計になったのはよほどの必要性があっての事だと思われますが、当然、そんな情報は公開されてません。なので勝手に推測してみましょう。
とりあえず、この形状にステルス的なメリットは無いでしょう。むしろ旋回して腹や背を見せた時に巨大な主翼は盛大に電波を弾くため、不利に働くと思われます。となると可能性として考えられるのはソニッククルーズ、超音速巡行対策でしょう。最も少ない抵抗で必要マッハ数(先に見たようにマッハ1.6前後)まで到達できるよう、エリアルール2号以降の法則を厳密に適用、シアーズハック体に近い滑らかなマッハコーン切断断面積を求めた結果が、この引き延ばされた主翼のような気がします。
ちなみにこれまた例によってNASAのラングレー研究所はYF-22、YF-23ともに開発に関わっておりました、
以前にも少し参照したラングレー研究所の公刊史、Partners
in
freedomによればF-22が勝者となった後、高迎え角対策(つまり高機動性の確保)とソニッククルーズ対策に協力した、との事なので、おそらく現在に至るまでで最先端レベルのエリアルールが適用されていると思われます。
また原理的には翼断面が縦長であるほど、翼面上衝撃波対策の効果は大きくなりますから、その辺りも考えた設計の可能性が高いです(その代わり揚力が落ちるので速度が下がるとすぐに失速する。これは例の3枚動翼をフライバイワイアで制御して揚力を稼ぎ防いでるはず)。
実際、YF-23もその大きな主翼が特徴の一つであり、あれもステルス性には全く意味が無かった以上、両者に共通するソニッククルーズ対策、すなわちエリアルール2号以降対策と考えるのが無難だと思うのです。まあ、あくまで筆者の想像ですが、この推測はそう大きくは外してないでしょう。
■主翼と水平尾翼の接近
F-22の主翼でもう一つ特徴的なのは水平尾翼と接するような位置になっている事です。ちなみにこの構造はYF-23でも同じです。こちらはソニッククルーズ対策であると同時に、ステルス対策にもなってます。この点については、まずはソニッククルーズ対策の部分から見て置きましょう。
■Photo US
Airforce
YF-22とYF-23、ともに先端の機首部から尾部の垂直尾翼まで、機体の断面積が滑らかに増減する形状になっており、強くエリアルール2号が意識されてるのが見て取れます。そういった構造にするには翼の面積がゼロになってしまう場所が途中にあると不利なので主翼と水平尾翼は接近させる必要があるのです。
実際は以前に説明したように単純な機体断面積の増減ではなくマッハコーンに沿った断面積、機体を鉛筆削りで削ったような円錐形にそった断面積の増減の問題になるのですが、いずれにせよ機体断面積の増減は可能な限り滑らかに行う必要があります。よって主翼の後端から後ろで翼の面積が突然ゼロになってしまうのではなく、そこからすぐに尾翼が始まった方がいい事になります。
ちなみにF-22の垂直尾翼が主翼と水平尾翼の間にあるのは、ここに置かないとエリアルール的に断面積がキレイに増減しなくなるからでしょう。ついでにYF-22の垂直尾翼が異常に大きくなった理由は、この位置に置くとどうしても機体を回転させる、あるいは安定させるのに力不足になるからでした。
重量物であるエンジンが機体の後方にあるため、機体を吊り上げる支点、すなわち揚力が掛かる空力中心点はかなり後方にあります。機体はほぼこの支点を中心に回転しますが、YF-22のような位置に垂直尾翼を置くとこの支点(空力中心点)からほとんど距離が取れません。
機体を水平回転させるのに必要な回転力(モーメント)は、
モーメント(M)=支点からの距離(L)×加わる力(F)
ですから支点からの距離が短いと、より大きな力が必要となり、より大きな力を発生させるにはより大きな垂直尾翼が必要になるのです。その結果がこのYF-22の巨大な垂直尾翼でした。
が、明らかに大きすぎたようで、前回見たようにYF-22はソニッククルーズの速度においてYF-23に完敗してます。よって後にNASAがその超音速飛行時の抵抗減少の設計に関わってくると、この巨大な垂直尾翼は縮小され、前方と上部が大きく削られる事になります(生じる力は小さくなるが力点が後方に下がるのでモーメント的な影響は最小限になる)。
こうですね。ようやくまともな設計になった、という感じです。この垂直尾翼の縮小はYF-22からの変更の中でももっとも目立つ部分の一つです。
水平尾翼と主翼が密着してるもう一つの理由はステルス対策です。
機体側面に垂直断面、曲面、そして面の接合部を可能限り造らないルールに則ると、主翼のような板状部だけで機体の側面を構成するのが理想となります(その究極系がB-2全翼機)。よって水平尾翼と主翼を密着させ、その間の胴体を露出させないのは有効な対策の一つとなります。
ちなみ辺りの構造は、F-35も同じようなものですが、あれは音速飛行性能はそれほど求められて無いので主にステルス対策でしょう。
■Photo US air Force photo/Airman 1st Class Cody R.
Miller
F-22ではご覧のように主翼高端部に水平尾翼が食い込む、という特殊な設計をやって胴体側面の露出を防いでいます。この辺り、よく考えたなあ、という部分です。
が、当然、主翼後部の動翼、そして水平尾翼が動けばこの部分は露出します。といってもそんなに大きく動くのは離着陸時、あとは3G辺りから上の急旋回時など極めて限られます。それでも動翼の付け根部分の上下を可能な限り傾斜させ単純な横向きの平面を造らないように工夫されてますから、この辺りはよくやるなあ、という工夫の嵐ですね。
この点、さらによく考えていたのがYF-23で、水平尾翼と垂直尾翼を統合してしまう事でエリアルール2号で求められる滑らかな断面積の増減にあっさり対応してしまいました。こうすれば機体のケツに尾翼を置け、そういった場所、支点からある程度距離がある位置なら、それほど大きなもので無くて十分なのです。これは結果的にステルス的にも有利であり、実によく考えられた設計だと思います。ホントにこの機体が競作で負けたのは残念です。
■Photo
NASA
YF-23でも主翼と尾翼は密着してます。ただし単純な水平尾翼ではないため、意外に複雑なラインで両者は結合されており、これがYF-23の面白い部分の一つなんですが、空軍博物館ではここにエンジンが置かれてしまっていて、写真撮影ができませんでした。筆者の無念をお察しください…。
ちなみに日本の心の神さんとかいうステルス実験機は、同じように主翼と水平尾翼の密着をやっておきながら胴体横に結構な面積の垂直断面があり、せっかく側面に翼を集中させながら何の意味があるんだこれ的な構造になっています。税金ドロボーという言葉が脳内を駆け巡りますな…。
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