■月の光の名の下に



さて、お次はここの主とも言えるF-86Dセイバー ドッグ。
F-86Dに関しては以前にイヤンてな位に説明したので、
興味のある人はこちらからどうぞ。

この機体、日本じゃ「月光」と言う愛称を与えられたんですが、
今じゃほとんどの人が知らない状態でしょう(笑)。
ちなみに航空自衛隊機の愛称は光だらけで、F-86Fが「旭光(きょっこう)」、
F-104が「栄光」となっており、おそらく隊の上層部に
毛髪に不自由する管理職が多かったのだろうと思われます。

が、誰もこんな愛称では呼んでくれなかったようで(涙)、
F4ファントムIIからは、この手の愛称、無くなったようです。

上から見ると、後退翼のジェット機らしい
主翼外側後部の巨大なエルロンがよくわかりますね。
ついでにエルロンと翼端部は材質が違うのか、錆止めを塗ってないのか、
金属っぽい光沢になってます。
逆に、主翼前縁部は全体的に光沢を抑えた印象の色味です。
この手のジュラルミンむき出しの機体でも、よく見ると意外に
あちこちで色味が違います。

でもって、復元機などでは、この手の表面処理を一度全部はがして、
適当に再現してしまうのが普通で、ほとんど参考になりません。
その点、この機体はほぼ完全に、オリジナルの状態から手を入れてないので、
極めていい参考資料になります。



横から。
垂直尾翼のシャチホコから感じる名古屋パワーで、小牧基地に居た機体とわかります。
いいコンディションの機体です。



で、写真を撮りながら周りをウロウロしてたら、
学校の方がコクピットに乗れますよ、と声をかけてくれる。

マジですか、ぜひお願いします、という事でここへ。
コクピット右下に紋章のようなものが見えますが、
あれも小牧基地の部隊のものだったはず。

ついでにコクピット下にある黒い細い縦線、
これは乗降用のステップの指示で、この下に折りたたみ式の
ステップが収納されているよ、という意味。
これは他の機体でも共通で、航空自衛隊のF-15にもあります。
ただし、近年の米軍機ではもっと目立たない、薄い灰色になってますが。
(例外としてA-10では極めて短い黒線で描きこまれている)

その横の赤の三角マークは射出式脱出座席装備の意味です。
航空自衛隊では現在も同じマークが使われてますが、
アメリカ空軍では、これも灰色か黒になってしまってます。

さらについでに右側、主翼上の部分、塗料なのか錆止めなのか分かりませんが、
それを塗った部分と、無塗装の部分の違いがはっきりわかりますね。
直線で塗り分けられるのが見えますから、塗料がハゲたものではなく、
最初からこの状態と考えるべきでしょう。



コクピット。これまたオリジナルの状態で、
いくつか計器、スイッチ類が失われてますが、状態は極めて良好です。
操縦桿もF-86Dのオリジナルです。
アメリカ辺りの適当な復元機だと、ゲームのフライトシミュレータ用のものが
何気ない顔をして取り付けられていたりするので、要注意(笑)。



コクピットに座らせてもらいました。
中央にあるフードがレーダースコープのもので、
戦略爆撃機を迎撃するためだけに造られたF-86Dは、
これを見ながら機体を操縦、敵爆撃機に近づいて行くのです。
射程距離に入ると、搭載されたFCS(射撃管制装置)がロケット弾を
勝手に発射してしまいます(笑)。

このため、この戦闘機はロケット弾しか武装は積んでおらず、
それすらパイロットが狙って発射するものでは無かったので、
通常の戦闘機にあるのような照準器がありませんでした。

…が、この機体、よく見るとコクピット前方に大きなレンズと、
その手前に何らかのハーネスが残ってます。
普通に考えれば、これ、照準器のものだろうなあ。
もしかすると、アメリカのレーダー&コンピュータネットワーク、
SAGEシステムのような装備を持たなかった自衛隊のF-86Dは、
自分で狙って撃てるように光学照準器も積んでたんでしょうか。

実際、確かめてみたところ、米軍のマニュアルに載ってる
F-86Dのコクピットはまったく別のレイアウトで、
どうも自衛隊に貸与された機体は、ここらあたり、
大幅に改造されていたんじゃないか、という気も。

すでに旧式だったとはいえ、元は機密部分だらけの兵器ですからね。


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