■ここはどこかを知る技術



さて、地球上の南北の位置、緯度は星に聞け、という感じでしたが、
経度、東西方向の現在地は星の高さではわかりません。

が、時間さえ分かれば話はむしろ単純だったりします。
たとえば経度0度のグリニッジ天文台の標準時刻と
現在地の正確な時刻ががわかれば、
簡単に自分の経度、地球上の東西の位置が求められるのです。

まず地球表面は360度の円周であり、
これを24時間(正確ではないが誤差の範囲)で毎日1周してるわけです。
となると、グリニッジとの時差が半日の12時間なら、
角度も360度の半分であり、よって東経&西経ともに180度、
すなわち太平洋のど真ん中が現在地ですし、
時差が6時間なら、さらにその半分の90度の位置です。
それが東経なのか西経なのかは、時差がプラスかマイナスかによります。

とはいえ、海の上の現地時間などわかるわけがなく、
現地で太陽高度などを計測して時間を決定する必要があります。
これは簡単な作業ですが、次の問題はその比較対照となる
グリニッジ標準時間をどうやって知るか、でした。
(別にグリニッジでなくてもいいが、経度0度のここを基準にするのが普通)

そのために使われたのが、展示の時計、
クロノメーターで、これは1870年ごろの航海用のものだとか。
19世紀以前の海上で、毎日グリニッジ標準時を知ることは困難でしたから、
あらかじめグリニッジ標準時にあわせてある、
極めて正確な時計を持ってゆく、がその解決策だったわけです。

当時の大西洋横断航路でも数週間かかるのが普通でしたから、
その間、決して狂わない時計である必要があるわけで、
これは非常に精密で正確な上、外部環境から影響を受けないよう、
厳重に梱包されて船などに搭載されていました。

が、当然ゼンマイ式ですから、一度でもこれを巻き忘れると、
以後、正確な時間はわからなくなり、当然、正確な緯度もつかめなくなります。
(方法が全く無いわけではないが、精度は落ちる)
19世紀の探検家の書いた書物を読むと、時計が止まってしまった、
という報告にぶつかる事がありますが、
これは自分の位置が今後分からなくなる、という事を意味するわけで、
海洋探検では、遭難の第一歩となる可能性が高いのです。




六分儀の使い方の解説動画。

非常に分かりやすかったです。
水平線に向けて固定した後、目的の星まで、
六分儀の可動部の角度を上げて行き、
そこから角度を読み取って換算表を照らし合わせ、
現在の緯度を知る、という段取りになるようです。

逆に言えば、どれがどの星かを見分けられないとダメなわけで、
船乗りにとって星の知識は必須だったんでしょうね。



いきなり時代が飛んで、現代の航空機の位置決定に
使われている無線誘導の数々の展示。

VORとかLORAN-Cとかは航空機の誘導の花形でしたが、
現在はほとんどGPSにとって変わられつつあるようです。

余談ですが、LORAN-Cは湾岸戦争中、イラクが国内の装置を停止しなかったため、
ろくに道路も無い砂漠を進撃した多国籍軍(実質米軍だが)の
まだ高価で少数しかなかったGPS装置の配給がもらえなかった部隊が、
これを利用して現在地を割り出しながら進撃してました。

ただし、GPSとの誤差が意外に大きく、GPS部隊の位置と、
LORAN-Cによる部隊の位置が結構ずれて合流が困難となった、
という事態もあったようです。



でもって、油断してるとここにも天井からの実機展示が。
ロッキードヴェガ 5Cのウィニー メイ(Winnie mae)号。

1927年初飛行のヴェガは当時の傑作高速機ですが、
これも設計は“ジャック”ノースロップでした。
ノースロップ、いい仕事してるんですよ(笑)。

このウィニー メイ号は飛行士であるウィリー ポストが1930年代に
世界1周飛行を2回も成功させた機体で、
当時はアメリカでもっとも有名な機体の一つだったとか。
ウィニー メイという名は彼の友人で、
この機体のスポンサーだった人物の娘の名前らしいです。

1回目は1931年、航法士(Navigator)同伴の飛行を8日で、
2回目は1933年、単独飛行で7日間で世界1周を果たしてます。
単独飛行で世界1周を成功させたのは彼が最初だそうな。

さらには与圧服を着て成層圏まで上がる、という実験までこなしたそうで、
まあ、いろいろがんばった機体のようです。
機体はホンモノで、ポストの未亡人からの寄贈だとか。

ついでながら、ふくやまけいこさんの傑作短編SF漫画、
「ウィニー メイの夢」のタイトルは、たぶんこの機体が由来です。
こんなところでお目にかかるとは、とちょっと感動…。



先に見た無線誘導装置が普及する前は、
航空機といえども、正確な現在地を知るには
天測しかありませんでした、という展示。

第二次大戦時前後の大型機の屋根に、
展示の上部にあるような透明フードのついた
機体を見かける事がありますが、これが天測のための天蓋、
Astrodomeと呼ばれるものです。
水平線と星を同時に見る必要があるため、
こういった飛び出し型の窓になっています。



参考までに2日後に訪れるウドヴァー・ハジーセンターのB-29で、
矢印の場所にあるのが天測用の天蓋、アストロドーム。
その横には方位探知用のアンテナらしきものが見えますから、
あくまで非常時のためのもの、と考えるべきなのでしょうが。


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