■これもエンジン
お次も貴重と言うか変なエンジン、
イギリスのネイピア ノマッド(Nomad)II モデルE.145。
スミソニアンの解説いわく、史上最も複雑な構造を持つエンジンだとか(笑)。
Nomadは遊牧、放浪者といった意味ですが、その名の通りの
開発大迷走のエンジンになってしまいます。
IとIIが造られ、展示のはIIの方で、唯一の現存品のようです。
ちなみに
I はスコットランドの博物館にあるそうな。
ちなみにエンジンのタイプとしては
Compounding a two-stroke diesel
engine
with a gas turbine and transmitting the power through a
propeller
というものになるそうで、えー、
プロペラ動力伝達ガスタービン付き2ストロークディーゼル混合、
といったとこでしょうか…。
第二次大戦終了後、イギリス空軍もソ連まで飛んでゆける長距離爆撃機が欲しい、
よって燃費が良くて、たくさんの爆弾が積める高出力のエンジンが欲しい、と考え
各エンジンメーカーに打診します。
何か悪い夢でも見てるんじゃないか、というムシのいい要求で、
常識で考えたらやってられない話なんですが、戦争が終わって仕事が無かった
イギリスのエンジンメーカーはこれに応じ、
このネイピアの案が採用になったみたいです。
とりあえず高出力で燃費がいいとなるとディーゼルだ、とネイピア社は考えます。
ドイツの航空ディーゼルエンジン
ユモ204をライセンス生産した経験があったのが
その判断の根拠だったようです。
そこまではまあ普通なんですが、さらに当時アメリカでも研究されていた
ターボコンパウンドの採用も決定します。
これは大排気量の航空エンジンにおける
高速高圧の排気ガスの流れを使ってタービンを回し、
そのタービンの回転でプロペラを回すことで、
より効率よく出力を上げよう、という仕組みです。
さらに通常のエンジン回転軸(シャフト)で回すプロペラと、
この排気タービンで回すプロペラを別にして、二重反転プロペラとし、
巨大な出力によるトルクも打ち消しちゃおう、としたようです。
まあ、とりあえず、ここら辺りまでなら理解できます(笑)。
そもそも2ストローク ディーゼルなんていろいろありそうだし。
が、燃焼室が正副二つあるとか(燃焼を二度行なってるらしい)、
いった話になると、だんだんわけがわからなくなってきます。
さらにその排気タービンでまわすプロペラの回転軸に
軸流タービンをつけ、吸気を圧縮する過給器としたり、
その後にさらに遠心圧縮式のインペラを付け、
一種の2段過給器になってるなどと言われても、もはや想像がつきません(笑)。
さらにはそれだけ利用した後の排気をジェットエンジンのような
ノズルから噴出させてさらに推力にしよう、といったあたりで
完全について行けなくなります(笑)。
エンジンの下部についてる銀色の管が巨大な筒に繋がってますが、
この辺りがその排気出力ノズルみたいです。
これだけの無茶をやれば当然、開発は遅れるわけで、
1950年に試験運転までこぎつけても、全く実用化のメドが立たなくなります。
さすがにもうちょっと単純にしよう、
と二重反転プロペラと2段目の遠心圧縮器が外された
簡易型が造られたそうで、展示のはその簡易型の方らしいです。
が、1950年代になると軽量で高出力のガスタービンが実用化されており、
燃費はともかく、高出力では太刀打ちできません。
さらにイギリス空軍も貧乏のどん底で既に長距離爆撃機なんかに興味は無く、
1955年まで開発は続いたものの、
最終的にはキャンセルとなってしまったのでした。
今度は180度逆転、チョー有名どころの
パッカード マーリン V-1650の7。
アメリカのというか、第二次大戦を代表する傑作戦闘機、P-51ムスタングの心臓です。
イギリスのロールス・ロイスが産み出した傑作液冷エンジンで、
第二次大戦の6年間、常に第一線で、第一級の実力を持ち続けた、
恐るべきエンジンでした。
その秘密ともいえるのが、エンジンの右下に付いてる巨大な渦巻状の過給器です。
高温高圧に耐えれるハイオクガソリンに恵まれていた連合軍では、
大幅に過給圧を上げることが可能で、これにより排気量などの基本設計はそのままで
エンジンの高出力化が可能となっていました。
マーリンの機械式過給器(スーパーチャージャー)は
1段1速の簡単なものから、最終的に2段2速にまで進化してゆきます。
ついでに過給圧が上がると空気の薄い高高度でも性能が維持されますから、
敵のアタマを押さえ込める高高度性能まで確保できたわけです。
マーリンの過給器の場合、流体の魔術師、フーカーが途中から設計に参加、
彼が吸気、排気における最良の設計を行なったのが大きかったと思います。
さらに圧縮して高温になった空気を冷やすインタークーラーの
性能の高さも、その高性能化に大きく貢献したようです。
エンジン後部の右上にある箱状のものが冷却用のインタークーラーで、
その下からパイプで手前に飛び出してるのは、冷却水用ポンプでしょう。
このパッカードマーリンはアメリカの自動車メーカー、
パッカードでライセンス生産されたタイプ。
V-1650がその形式名で、展示の7型はマーリンの最高峰、
2段2速過給器付きの66型のライセンス生産版となります。
P-51B型〜D型に搭載されたのがこのタイプです。
(ただしB&Cの初期型は3型を搭載)
ちなみに、スミソニアンの解説では何の注意書きもなしに
使用機種にP-51ムスタングとF-6と書かれていますが、
このF-6は当然ヘルキャットではなく、P-51Dの偵察型の名称ですね。
でもって、こちらは、そのマーリンと比べてウチの子は…と言われ続けてる(笑)、
純アメリカ産の液冷航空エンジン、アリソンV-1710の33。
主に陸軍の戦闘機で採用されたエンジンで、
33型はカーチスのP-40シリーズで使われたものですね。
マーリンとほぼ同世代で、
同じように1000馬力前後の出力からスタートしたものの、
イマイチぱっとせず、特にP-51がこのエンジンを積んだA型から、
上で見たマーリンを搭載したB型に換装したとたん、
チョー高性能機になってしまったため、あまりいい印象がありません。
されにP-39やP-40が比較的平凡な機体だったため、
その印象はより強くなってしまってます。
ただし、基本性能は決して悪くなく、それらの問題は主に過給器によります。
単純な1段式過給器しか付いてないこのエンジンをそのまま使っては、
出力も高高度性能もぱっとしないのは当然です。
実際、これに排気タービンを搭載してしまった双発のP-38は
以前に書いたようにアメリカ陸軍のNo.1&No.2エースパイロットを生み出してますし、
P-39も低空での戦いが主だったロシア戦線ではパイロットから
熱狂的に支持されるような高性能を示しています。
ちなみにP-39にほれ込んだソ連空軍は、
戦争中に使節団とエースパイロットをアメリカに送り込み、
ベルの技術者に前線におけるパイロットの感想を伝え、
さらにベルの工場見学まで行なう、という
戦後には考えられないような事までやってます。
P39は戦後のトンプソントロフィーでも優勝してますから、
低空域でなら、相当な性能を持っていたように見えます。
あれにまともな過給器があれば、
それなりの性能を見せたんじゃないでしょうか。
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