■いろんなエンジン
お次は軍用ターボプロップエンジンの大ヒット作、アリソンT56のA型。
元々はC-130輸送機用に造られたもので、その後、
E-2早期警戒機やP-3対潜哨戒機にも使われたため、
日本の自衛隊でもおなじみのエンジンとなってます。
ちなみに一部で有名な(笑)、B-17改造機の鼻面に搭載されて
実験されてたのがこのエンジンで、1954年から運用が始まりました。
なので、これまたなんだかんだで60年以上現役、という
長寿エンジンとなっています。
ターボプロップはガスタービンでプロペラを回す方式の航空エンジンで、
これはジェットエンジンでプロペラを回してる、と考えていい仕組みです。
このエンジンも、本体の右側は、ご覧のように完全に軸流式ジェットエンジンで、
その中心部のシャフト(回転軸)を前方に伸ばして
その先にギアを挟み、プロペラを回してます。
じゃあ後方のジェット噴流はどうなるの、というと、
これはエンジンごとにいろいろです。
プロペラを回す仕事に噴流のエネルギーをほとんどを使ってしまうと、
後方排気はほとんどオマケみたいなものになりますし、
それほどプロペラの回転に力を使わないなら、噴流だけでも
十分な推力を残している事になります。
どちらになるかは、エンジンの使用目的しだいですが、
大抵の場合、噴流の力の8〜9割近くをプロペラ回転に配分してるようです。
ちなみに、全てプロペラ回転に利用して、後方排気はほとんど残らない、
というタイプのエンジンは、別にターボシャフトと呼ばれ、
後で見るようにヘリコプター向けの小型エンジンとなっています。
なんでわざわざジェットエンジンでプロペラを回すの?というと、
話は逆で、プロペラを回すのに最も高出力で小型なエンジンを選ぶと、
それはジェットエンジン=ガスタービンしかない、という事です。
ジェットエンジン=ガスタービンには
クランクやピストンといった重量物が無く、
さらに巨大な燃焼室で常時燃焼が行なえるため
(レシプロエンジンは吸引、爆発のサイクルを繰り返す間欠燃焼)
極めて高出力なエンジンとなる上に、余計なものがないので、
非常にコンパクトに造る事が出来ます。
(ただし常時燃焼のため燃料消費も大きい。地上でのアイドリングは悪夢だ)
たとえば、このT-56Aは約880kgで3750馬力(HP)出ますから、
質量1kgあたり4.26という数字になります。
これは先に見たレシプロエンジンの倍以上の数字ですから、
こうなるともう、レシプロエンジンを使う理由がないのです。
(ガスタービンはジェットエンジンだが軸回転として出力を取り出すため、
その計量次元は力(N/ニュートン)ではなく、仕事率(馬力&ワット)になる)
こんな感じに、本体部分は左から青い圧縮用多段ファン、
赤い燃焼室、シャフト(回転軸)を回すオレンジ色の多段ファンと
完全にジェットエンジンの構造になってます。
ガスタービンの高出力性能は、航空機以外にも利用価値は高く、
軍用艦船の機関でもガスタービンが主流となっているほか、
2014年現在もアメリカの主力戦車となっている、
M-1のエンジンもガスタービンだったりします。
その中にはシリンダーもピストンも無く、
こんなジェットエンジンみたいな構造になってるわけです。
湾岸戦争の時、あれだけ燃料補給が問題になったのは
かつてない規模の大軍だったのと同時に、
主力戦車がガスタービンエンジンで、メチャクチャ燃費が悪かったから、
というのもあるわけです。
出撃準備中にアイドリングしてるM1戦車の集団は、
補給担当者にとって胃の痛い光景だったと思います(笑)。
(実際、作戦後半に第一機甲師団が燃料切れで一時進撃が停まった)
こちらはちょっと変り種、ロータリー航空エンジンの
ライトエアロノーティカル ヴァンケル(Wankel) RC2-60ロータリー。
航空エンジンでローターリーエンジンというと2種類あるんですが、
こちらはかつてマツダが生産していた、
エンジン内でオムスビ型の回転装置が回ってたローターリーエンジン。
あのRX-7などに積まれていたのと、同じしくみのエンジンが
航空エンジンとして開発されていたわけです。
ピストンの上下を円運動に置き換える従来のレシプロエンジンは
効率悪いよね、という事で、回転軸を直接回してしまうエンジンとして
ドイツのヴァンケルが1936年に特許を取得したのが
ヴァンケル式ローターリーエンジンです。
これは一言で説明できるような構造ではないので、
詳しく知りたい人は、各自調べてください(手抜き)。
で、展示のこのエンジン、なんら説明がありませんでしたが(笑)、
実はライト兄弟とカーチスの飛行機会社をルーツに持ち、
P-40などを生産したカーチス・ライト社が、
最後に関わった航空用エンジンでもあります。
ヴァンケル ローターリー エンジンは
今でこそ過去の遺産、という印象の強い技術ですが、
1970年代前半頃まではピストンやカムシャフトが要らない以上、
軽量化できて高出力な未来のエンジン、という印象が強く、
世界中のメーカーが特許を買い取ってその開発にあたりました。
そんなメーカーの中の一つがカーチス・ライト社だったのです。
同社は戦後初の全天候型戦闘機の競作で、XF-87がF-89に敗れた後、
航空機部門はノースアメリカンに売り払い、
ライト エアロノーティカルのブランドで製造していた航空エンジン、
R-1820やR-2600、R-3350などで食いつないでいました。
が、これも航空機のジェット化によってほとんど仕事がなくなり、
彼らが最後の賭けとして選んだのが、このロータリーエンジンでした。
1958年ごろ、ヴァンケルから特許の使用権を得たとされるのですが、
実際にこのエンジンが実験されたのが1970年。
その間、自動車メーカへの転進を図ったりしてるんですが、
結局、それにも失敗しています。
で、最後に完成したこのロータリーエンジンもものにならず、
これを自動車用にどうかと、いくつかの自動車メーカーに
売り込んだらしいのですが、これも失敗。
以後、カーチス・ライト社は航空部門、エンジン部門から撤退、
原子力産業などにシフトして行ったようです。
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