■最上段専用



さりげなく展示されてますが、これが何なのか理解するのに時間がかかる(笑)
RM-81 アジェナ B 上段部(Agena-B upper stage)。
これは多段式ロケットの最上段専用装置で、
ロケットモーターは積んでるものの、単体で打ち上げることはできません。

アメリカのロケットは弾道ミサイル由来のものが多い、というのは既に見ましたが、
レッドストーンの後に開発されたアトラス ロケットも、その名の通り、
アメリカ初のICBM、アトラス ミサイルからの改造でした。

アトラス ロケットはその後も進化を続け21世紀まで活躍してるんですが、
初期の無印、ナンバーなしのアトラス ロケットは、ほとんど大陸弾道弾そのままでした。
よってメインの一段目ロケットの上には小さな核弾頭を載せる小型ロケットしかない、
事実上の一段式で、重量のある人工衛星の打ち上げには向いてませんでした。

そこで、その第一段ロケットの上に乗っけちゃう
専用の最終段ロケットとして開発されたのがこれです。
アトラス ロケットはゼネラル・ダイナミクス社の開発(コンベア部門の受注)
だったのに対し、こちらはロッキード社の開発でして、
1本のロケットの上と下でメーカーが違う、という状況になっていたわけです。
合体後(笑)のロケットはアトラス-アジェナロケットと呼ばれ、これによって
多くの人工衛星が打ち上げられる事になります。

さらに、そういった経緯で開発された、このRM-81アジェナは
地球周回に入った後も、再度エンジン点火が可能だったり、
独自の電源システムを搭載していたため、
これを胴体として、いくつかの人工衛星が造られたりしています。
この先端部に必要な機材だけを取り付けたお手軽人工衛星ですね。

ジェミニ計画では、それを大型化して、ドッキング装置を搭載した
アジェナ目標機(Agena target vehicle)が開発され、ドッキング試験に使われてます。
さらにアジェナの再点火可能なロケットモーターを使い、
軌道上でジェミニ宇宙船を再加速して、より高い軌道に持ち上げる、
といった事までやってるようです。
ただし、この小さな機体に人を乗せる空間を造るのは無理ですから、
あくまでドッキングだけで、乗り移る事はできません。

もっとも、その目標機は7基が打ち上げれながら、2基が軌道投入に失敗、
さらに2基がトラブルによって実験の一部が行なえず、結局まともに
予定通りの運用が行なわれたのは3基だけでした。
その内の一基、1965年の10月に打ち上げものは、
上昇中にロケットごと爆発してますから、
この時期の宇宙飛行は、まさに命がけだったんだなあ、と思います。

ちなみに前回紹介したジェミニVI(6)号とVII(7)号のランデブヴー飛行も、
本来はこのアジェンダ目標機が使われる予定だったのに、
事故で失われたため、急遽ジェミニ同士の飛行に切り替えられたんだとか。



給水タンクかいな、と思ってしまう物体ですが、これが上で見た
RM-81 アジェナ Bを胴体として利用した人工衛星化パーツの一つ、
MIDAS シリーズIII、赤外線センサーです。
オモチャみたいに造りがチャチなのは外付けパーツのようなものだからで、
これをアジェナの先端に取り付け、電源などをそちらから得て運用されました。

MIDASはアメリカのミサイル防衛警報計画、Missile Defense Alarm System のことで、
ソ連の大陸間弾道ミサイルを監視するために考えられたものでした。
この赤外線センサーはその計画の一環として開発されたものです。
ちなみに略称がギリシャ神話のミダス王の名前になるのは、
アメリカの軍人さんが好きな略称ダジャレの一つですね。

この装置で宇宙から監視し、ソ連国内の弾道ミサイル発射に伴う盛大な赤外線を感知、
(ロケット発射と同じくらいの火力となるのだ)
いち早く警告を発することで、ミサイル到達まで
30分前後の時間が稼げる、というもの。
もっとも、それが分かったところで大気圏外から音速の数倍近くで落下してくる
核弾頭を迎撃する手段は当時ありませんし、
どこに向ってるのかもわかりませんから、
警告を出す、都市部では地下に退避するといったのが精一杯なんですけども。



これはそんなアトラス-アジェンダロケットの発射管制装置の一部。
空軍の宇宙基地、カリフォルニア州にあるヴァンデンヴァーグ基地で
1980年代まで使われていたものだとのこと。

ちなみにアメリカの宇宙ロケット発射場と言うと
フロリダ州のNASAと空軍による施設が有名で、
カリフォルニア州のヴァンデンヴァーグ基地は、それほど知られてません。
が、小規模とはいえ、ここは大型のアトラスロケットの発射に使われるほか、
スペースシャトルの打ち上げが可能な能力を持っていましたから
(ただし実際に使われる事はなかった)
それなりの規模の施設となってます。

この基地の名は戦略爆撃野郎にはおなじみの、
二代目空軍参謀総長、チョー二枚目将軍ヴァンデンバーグにちなみます。



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