■細部点検
機体表面のアップ。
軌道船には機首部に必ず名前が書かれており、これで個体識別ができます。
というか、これ以外の部分で各機を識別するのはほぼ不可能に近いです(笑)。
で、ご覧のように表面は金属地ではなく、
布状の白いシートが貼り付けられいて、それで全面を覆うようになってます。
これが耐熱毛布(Thermal
blanket)でして、それほど高温にならない部位を、
大気圏突入時の熱から保護するものとなります。
さらに細かく刻んで貼り付けることで損傷を受けた部分だけを貼り替え、
機体の素早い再利用を可能にしてるらしいです。
個人的にはドイツ戦車のツィンメリットコーティングを思い出し、
これを模型で再現しようとしたら地獄だな、と思ったり(笑)。
荷物室部分のヒンジも見えてますが、これは部屋に置かれたタンスみたいに
あっさりしたもので、こんなんで大丈夫なんですねえ…。
黄色で機体に書かれた注意書きのほとんどは緊急時の救助手順の指示で、
右端のはここを切断すれば中に入れる、というもの。
反対側には乗降口がある場所なので常務員室に繋がってるんでしょう。
とはいえ、スペースシャトルの外壁って、そう簡単に破れるのか、
と思いますが、わざわざ黄色いマークで四角く囲ってるので、
強度的にもっとも突破しやすい部分なのかもしれません。
その他の指示も救助時の指示なんですが、ほとんど文字がかすれてしまっており、
イマイチよくわからなかったり…。
余談ながら、軌道船では操縦室(Cockpit)とは呼ばず、
乗務員室(Crew
Compartment)と呼ぶのが普通らしいです。
ほとんどが自動操縦なんだ、という事なのかもしれません。
機首部のアップ。
黒い部分がいわゆる耐熱タイルで、耐熱毛布より高い温度に耐えられます。
斜めに大気圏に突入するため、機体下面全体に衝撃波が発生しますから、
スペースシャトルの機体下面は、このタイルで真っ黒となってます。
ただし、同じ黒色のパーツでも、2箇所ほど例外があり、これが結構重要です。
先に説明したように、最も強烈に衝撃波背後の熱を受ける事になる
機首先端部と、主翼の前縁部です。
とりあえず写真に見えてる機首先端に注目してください。
ここには丸いドーム型の部品が取り付けられています。
これは強化複合炭素素材(Reinforced
carbon
carbon/RCC)製で、
耐熱タイルよりさらに高温まで耐えられるものです。
そして後で見る主翼前縁部ゴムのようなパーツも、これで出来てます。
でもって、画面中央付近、よく目立つ大きな穴は姿勢制御用のガス噴出孔。
左の二つが水平軸の左右調整用、右の二つが機首を上に向ける時のもの。
その横の小さな穴は正体不明…。
ちなみに機首を下に下げるためのものは機首正面上に設置されてます。
ここから噴出させるガスの反動で、機体の向きを変えるわけです。
機体下面。
ほぼ平坦な一枚板のような構造で、そこにご覧のような感じに
耐熱タイルがびっしり敷き詰められています。
これが最後の飛行で使われたままの状態なのか、
展示に当たって張り替えられたのかは不明。
でもって、このサンダル履きのオジサマがツアーの解説担当の人。
スミソニアンでは1日数回、解説ツアーが行なわれ、
ちょうど私が来た段階でシャトルのツアーが始まったので参加させてもらいました。
どうも元NASAの関係者の方のようで、私の時代には〜といった説明が多く、
非常に詳しく説明してくれて、大変参考になりました。
その彼が横に抱えてるのが分厚い資料で、見学者からの質問で
分からないことがあると、これを見て答えてました。
ちなみに、私の顔を見てどうも参加者にアタマの悪そうなのがいる、
と思ったのか、非常にゆっくりしゃべってくれたので、なんとか理解できました。
感謝。
ここで、せっかくだから、もう少し脱線しておくと(笑)、
スペースシャトル軌道船の正規名称はOV-000という番号で示されるのですが、
最初に作られた無動力実験機であるエンタープライズはOV-101で、
次に製作された最初の実用機1号の、コロンビアがOV-102。
ところがドンスコイ、2番目に造られた実用機2号のチャレンジャーは
突然番号が逆行してOV-099なのです。
でもって、それ以降はまた元にもどって、3号機のディスカバリーがOV-103、
4号機のアトランティスがOV-104、5号機のエンデヴァーがOV-105となっています。
なんでチャレンジャーのナンバーが先祖帰りしたのか、というと
実はこの機体は最初、STA-099という名で製造された構造試験、
耐久試験用の実験機だったからです。
予算削減のため、アポロ時代なら使い捨てにしたかもしれない
実験機を再利用してしまったわけですね。
よってチャレンジャーは1978年2月には完成しており、
これは1979年3月に完成した実用1号機、コロンビアより早いのでした。
ただし1976年9月に完成した実験機エンタープライズよりは後なので、
なんでエンタープライズより若い番号なのかは謎です。
ちなみに先に書いたエンタープライズを宇宙用改造不能に追い込んだ
設計変更はコロンビアとチャレンジャーの段階から適用されていたため、
実用機への改造が可能になったようです。
で、耐久試験の終わった1979年1月から実用機としての改修を受け、
1983年4月に初飛行にこぎつけるのですが、
チャレンジャーは、従来のSTA-099の番号をそのまま、OV-099とされたんですね。
残念ながらチャレンジャーはわずか3年の運用で1986年に事故で失われます。
当初、この改造が原因の一端なのでは、とも考えられたようですが、
最終的には全く別の燃料タンクと補助ロケットによるもの、と結論されたわけです。
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