■それから
ベトナム世代最後の展示機は、グラマン A-6E イントルダー。
Aナンバーですから攻撃機で、1960年に初飛行した機体。
海軍がベトナムに投入した中では、最新の艦載機でもありました。
朝鮮戦争の経験から、長距離をレーダーに掴まらない低空飛行で
高速に駆け抜ける攻撃機が欲しい、という要求に沿って開発されたものだとか。
さらに、夜間も含めて全天候型の性能も持っていたようです。
でもって海軍機らしくパイロットと航法士の二人乗りの複座機で、
長距離飛行に向いた機体なのですが、横に並んで座る、
という座席配置のため、独特の機首の形になってしまってます。
さらに空中給油用の給油管がコクピット前に飛び出してるため、
全体的に昆虫っぽい印象の機体になってますね。
ベトナム世代の機体ですが、1991年の湾岸戦争にも投入されており、
開戦直後、イラクのレーダーサイト爆撃に投入されたらしいです。
で、そんな海軍が最終的にたどり着いた戦闘機がこれ、グラマンF-14トムキャット。
1970年12月に初飛行した艦隊防衛用の戦闘機です。
例によって核爆弾、核ミサイルを使って空母機動部隊を殲滅しちゃおう、
というソ連爆撃機&巡航ミサイルを叩き落とすための機体として設計されました。
その結果、多数のミサイルを積むため、極めて大きな機体となってしまったのです。
すなわちF4ファントムIIと同じ空飛ぶミサイル発射基地みたいな機体ですから、
同時に複数の目標をロックオンして、一斉に誘導ミサイルを撃てるようになってます。
それだけ複雑な武装をパイロットが機体を操縦中に操作できるほど、
当時はコンピュータが進化してませんから、これも2人乗りになっており、
後部座席の火器管制士が武器の操作を担当しているのです。
でもって海軍にボイドは居なかったので(笑)、やや遅れて開発されたF-15のように
強力なエンジンを積んで、可能な限り軽量化する、という発想は全くなく、
この結果、非力なエンジンに異常に重い機体となってしまいます…。
同じ大型戦闘機ですが機体単体の乾燥重量でF-15は12.7tに対して
F-14は19.8t、実に1.5倍も重く、対して最大エンジン出力では
F-15の初期型A型はアフターバーナー無しの最大出力65kN×2、
F-14は初期型A型ではTF-30P-414Aは55kN×2。
すなわち、重い上にエンジン出力でも劣っているわけで、
空飛ぶミサイル発射基地としてならともかく、
これでソ連のミグ、さらにF-15やF-16相手に空中戦をやれ、というのは無茶です。
さらに複数の目標を同時にロックオン、攻撃できるFCS(火器管制装置)と
フェニックスミサイルの組み合わせは極めて高価で、
その上、可変翼という凝った構造を採用したため、値段はさらに上がります。
参考までに1990年代後半の引渡し価格で比較した場合、
F-15Dが300万ドル、対してF-14Dが380万ドルとなっており、
性能で劣る上に値段も高い、という絶望的な機体となりました。
(これに専用で高価なフェニックスミサイルが加わるのだ)
この結果、アメリカ以外では全く売れず、かろうじて王政時代のイランに
王様を騙すようにして売りつけるだけで終わってしまいます。
ちなみに、この重くなって性能が低下してるのに、
その重くなったパーツの値段によって価格は上がる(笑)という
あまり頭が良くないように見える悪循環は後のF/A-18でも繰り替えされます。
この結果、ベラボーに高価なくせに、あきらかにF-16より性能が劣るF/A-18は
F-16に比べると少数しか海外では売れませんでした。
で、この展示の機体は元々は初代のA型だったのですが、
後に改修されD(R)型になっています。
この改装型は本来、新型として導入される予定だったF-14のD型に必要な予算が付かず、
大幅に導入数が減ったのに対応するため、A型の機体18機をD型に改修したもの。
なので、表記もD(R)、Rebuild のR付きという変なものとなってますね。
でもって、これ1989年にリビアのMig23を撃墜した機体なのだとか。
F-14の実戦成績は、先に航空宇宙本館で紹介した1981年のSu-22撃墜と、
この89年のMig-23撃墜だけですから、貴重な機体として
スミソニアンに保存されてるのかもしれません。
(ただしイラン空軍がイラク相手に撃墜の実績がある、
とされるが情報が公開されてないため、確認のしようが無い)
ここでは上からも見下ろせますから、ちょっと珍しいF-14の背中を。
意外に整流用のフィンが多いのだ、とか、
垂直尾翼の取り付け部に変なふくらみがあるのだ、
といった辺りを見て置いてください。
ご覧のように、この機体は当時大流行だった可変翼を採用しています。
写真は主翼を後ろに畳んだ状態、後退角最大、高速飛行状態ですね。
離着陸時などはこれを左右前方に開いて後退角を小さくして飛びます。
せっかくだから可変翼に関して、簡単に触れておきましょう。
航空機は速度が上がると800q/hあたりから主翼上面に衝撃波が発生し、
まともに飛べなくなってしまいます。
(音速以下の飛行の話。音速を超えるとまた話が変わる)
この対策が後退翼なんですが、
これは翼断面に対する気流の速度を落とすものですから、揚力の低下を伴います。
なので離着陸時の低速飛行で、あっというまに失速する可能性が高くなり、
このため、あまり高速向けの設計にしてしまうと、まともに運用できなくなります。
が、要するに主翼の取り付け角度の問題なんだから、
主翼を根元でヒンジ付けし、ハサミのように開いたり閉じたり
出来るようにしてしまえばいいんじゃないの?
というアイデアは、すでにナチスドイツの時代からありました。
こうすれば主翼の後退角は飛行中に調整が効くのだから、
あらゆる速度に対応した機体になるじゃないの、という話ですね。
よって、戦後すぐからアメリカでも可変翼の研究が始まり、
後にF-111で初めて本格的に採用され、このF-14でもまた採用、
そして最後にB-1爆撃機に使われて、その歴史を閉じます。
アメリカ以外でもトーネード、Mig-23なんかに採用されてますが、
21世紀以降の戦闘機で、これを採用したものはありません。
理由は簡単、いろいろダメだからです(笑)。
ちなみに後にF-15となる、ベトナム戦争ショックから作られた
空軍の新型戦闘機も当初は可変翼案が強力だったのですが、
ボイドが手を回してこれを粉砕、固定翼としてしまいます。
ボイドの独走に対して、空軍内では大紛糾するんですが、
結果的には大正解だったわけです。
もちろん、ボイドはキチンと数値データを踏まえた上で、
これに反対していたわけで、運がよかった、といった
レベルの話ではありません。
とりあえず可変翼も理屈上は、正しかったんですよ(笑)。
が、主翼と言うのはかなりの重量があり、
これを根元で支えるにはかなりの強度が要ります。
さらに戦闘機のように派手なロール機動を行なう場合、
主翼にかかる力は、取り付け部からの距離分、
テコの原理で倍化されます(回転の力=力×支点までの距離)。
この結果、頑丈に胴体に貼り付けることができない可変翼では、
そのヒンジ部分に、かなりの強度が求められ重量が増します。
さらにこれを動かす動力系にも強力なものが要求されますから、
当然、これも重くなります。
その結果がF-14の重量過多であり、これは戦闘機には致命的です。
さらに維持整備の困難さを考えると、エライ事になるわけで。
当然、先に見たようにこれは機体価格の上昇も招きます。
ダメですね(笑)。
これら全ての結果、F-14はなんとも中途半端な機体になってしまいます。
よってイージス艦の配備が進んで、もはや艦隊のミサイル防衛に
戦闘機なんてイラン、という状態になると、もはや居場所はありませんでした。
この結果、2006年9月にはアメリカ海軍から全面退役に追い込まれます。
2年前後遅れて配備されたF-15が2014年現在どころか、
まだ当面現役であろう、という点を考えると、
やはり失敗作だったな、といわざるを得ないでしょうね。
ただし、個人的には、この機体、カッコよくて好きなんですが(笑)。
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