■ルタン賛成
さて、お次はこれまた分類に困った異端の航空機設計屋、
バート・ルタン閣下の手による機体をまとめて紹介しましょう。
知ってる人は知ってる異端の航空機設計家、
バート・ルタン(Burt
Rutan)。
記憶力の良い読者諸兄賢女は、すでにそのユニークな形状の機体を
航空宇宙間本館で見ているのを覚えてるでしょう。
世界初の無着陸世界一周飛行を行なったボイジャー、
そして世界初の民間宇宙機、スペースシップ1が彼の設計でした。
どちらも非常にユニークな形状の機体だったわけですが、
あの独特なスタイルは特殊な目的ゆえの設計結果とは限らず、
実はルタン閣下の個性なのだ、という当たりを見て行きましょう(笑)。
ちなみにスミソニアンは彼の設計による機体を多く持っており、
その個性を把握するには最適の場となっています。
ただし、これは本人がバンバン機体を寄付しちゃったからで(笑)、
必ずしもスミソニアンが積極的に集めたわけではないようですが…。
まずはヴァージン アトランティック グローバルフライヤー。
2005年に無着陸、無給油の世界一周最速記録を打ちたて、
さらに2006年に同じく最長距離飛行記録を達成したジェット機です。
つまり例のボイジャーが達成した最速記録を更新した機体なんですが、
実はボイジャー同様、これもルタン閣下の設計によります。
P-38のような双胴と胴体を主翼でつないでるあたりは
ボイジャーと共通のデザインですが、
機首にあった大きな水平尾翼は無くなってますね。
でもって、この機体も垂直尾翼が下に出っ張ってますが、
あれも微妙に長いこの機体のシリモチ防止用でしょうか。
で、こうして見ると、意外に普通の機体に見えますが…
前方向から見るとなんだか生物的な独特のスタイルになってます。
航空機ってのは、やはり見る角度で印象がだいぶ変わりますね。
エンジンポッドはむき出してポン、と置かれており、空力的に不利な印象がありますが、
この時代になると、民間機でも細かい
コンピュータによるシミュレーションをやってますから、あれで大丈夫なんでしょう。
記録飛行に関してはスティーブ・フォセット(Steve
Fossett)なる人物がパイロットを務め、
まず2005年の飛行で67時間で世界を一周、平均時速557q/hの
無給油、無着陸飛行の新記録を打ち立てています。
同時に単独飛行による世界一周も初めての事だったとか。
GPSとかで航法に手がかからなくなった現代ならではの記録でしょうね。
さらに翌2006年にはフロリダのケネディ スペースセンターを離陸、
世界一周してからもう一度、大西洋を横断し77時間でイギリスに着陸、
41467qの無着陸、無給油飛行の最長距離記録も達成してるそうな。
(ちなみにイギリスはスポンサーだったヴァージングループの本拠地)
さて、ここまではどれも実験機みたいなものだから、
特殊なデザインになるんだろうと思ってしまいますが、
実はそうとは限らないのじゃ、というのを次からは見て行きましょう(笑)。
一見しただけでは何がどうなってるんだ、というこの民間用小型機が、
ルタン閣下の出世作、ルタン ヴァリイーズ(VariEze)です。
ただし、機体の発音は正確にはよくわかりません(笑)。
アメリカ人は略してEZ、イージーと呼んでることが多いようです。
展示の機体、前のめりになっていて事故機みたいですが、
前輪はエンジンをかけると出てきます。
軽量化のため脚は極めて細いものとなっており、
通常の駐機状態では強度的に出しっぱなしにできないのか、
動力系から駆動する油圧が無いとダメなのか、どちらかでしょう。
ちなみに後輪は飛行中も地上駐機の時も出っ放しの固定脚です。
これもホームビルド機、キットで売られる機体で、1976年から発売が開始され、
1000セット近く売れたとされます。
ただし、飛行状態まで完成したのはその半分くらいという話もあり、
意外と組み立てが難しかったのかもしれません。
ちなみに、それまで木材が主流だったホームビルド機に、
プラスチックなどの新素材を本格的に持ち込んだ最初の機体でもあるようです。
この機体の特徴は、カナード(前尾翼)機であること、
そして主翼の端についた垂直尾翼でしょう。
なんとも独特なデザインですが、失速とスピン防止、
そして十分な航続距離を持つことを目標に考えられたものだとか。
となるとアスペクト比の高い、横長の主翼量端の垂直尾翼は、
いわゆるウィングレットとして翼端部の誘導抵抗防止用の効果も
狙ってる可能性がありますね。
そしてカナード翼であることが失速とスピン対策らしいのですが、
ここら辺りの理論と効果は私にはよくわかりません。
ちなみにアメリカ国家運輸安全委員会(NTSB)が
公開している民間機の事故データでは、失速、スピン事故に対する安全性で
特に明確な優位は認められない、と指摘されてるそうですが…。
ちなみにルタンはスウェーデンの戦闘機、ビゲンに強い影響を受けており、
このカナード翼のアイデアの元ネタはビゲンです。
実際、この機体の前に彼がデザインしたカナード翼の機体には
ヴァリ ビゲンという名前までつけてました。
横から見るとこんな感じ。
地上駐機中、これで大丈夫なのかと思ってしまいますが…。
ちなみに、翼端部の垂直尾翼が単純な1枚板ではなく、
下向きにもちょっと出てるのにも注意して置いてください。
この効果は不明ですが、この手の無尾翼機はコンピュータ制御の
フライバイワイアがないと、地面効果が出てくる着陸時に左右に揺らされやすく、
もしかすると、翼端部の接地防止用のものかもしれません。
その次にルタンが設計した自家用ホームビルド機がこれ、
ルタン クイッキー(Rutan
Quickie)。
ね、基本的にこんな感じなんですよ、ルタン閣下の設計(笑)。
なんだかゲームかマンガの登場メカみたいなこの機体、
もはや何がどうなってるのか、私にはよくわかりません。
一瞬、複葉なのかと思ってしまいますが、そういった効果は狙ってないみたいです。
どうも主翼を前後二枚に分けた、ってことでしょうかね。
この主翼のアスペクト比の高さは、小出力エンジンで、
効率よく飛ぶためのものだと思いますが…
このキットも最終的には1000セット以上売れたそうで、
そこそこのヒット作でしょう。
しかし、こうして見ると1980年前後の
アメリカのホームビルド機、変な機体、多いな(笑)。
当初は低価格の小出力のエンジンの機体でも、
十分な飛行性能を持たせたい、という基本方針から始まったそうで、
その結果が、このユニークなデザインへと繋がったとされます。
いや、でも7割はルタン閣下の個性だと思いますよ、これ(笑)。
といった、ところが主なルタン閣下の機体デザインとなります。
異端、と言っていいと思いますが、個人的には結構好きです。
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