■何かを考えてはいたのだが
はい、飛行自動車の夢は死なず、という感じの機体再び。
これは固定翼機で、1937年製ウォーターマン社のエアロ バイル ♯6。
航空機の名前に“♯”をつけるのも珍しいですが、
Aerobile なる英語も聞いたことがない。
Aero
で航空はわかりますが、bileってなんだと思ったら不機嫌、
あるいは胆汁という意味だそうな。
…全く意味がわかりませぬ…。
これも2人乗りの飛行自動車で、地上では後輪駆動となり70km/h近く出たそうな。
ただし、この主翼は地上では畳めたりせず、取り外す必要がありにけり。
そこらは工具無しで出来るようになっていた、との事ですが
外した後は空港に戻ってくるまで、そこに預けておくんでしょうかね。
結局、価格の問題もあり5機が造られただけで、終わってしまったそうな。
ただし、なぜか戦後の1957年になってもう一機が造られ、
エンジンもパワーアップ、3人乗りに車体も拡張されたのですが、
結局、これまた売れずに終わります。
展示の機体は、その戦後型のようです。
ちなみに1937年製となると、例の商務省の空のT型フォードコンペ関連?
と思ってしまうんですが、それとは無関係みたいですね。
さらに1937年にはグウィン社(Gwinn)のその名もエアカーなる機体まで製作されており、
どうもこの時期、飛行自動車、というジャンルのブームがあったようです。
さらについでながら、アメリカSFの黄金期とされる1938〜46年ごろ活躍した
SF作家の作品には、よく飛行自動車が出てくるんですが(ハインライン作品とか)、
時期的にこういった飛行自動車の影響があったように感じます。
この機体も分類不能って事で、ここで紹介。
アメリカらしい航空機として農業専用機(Agricultural
aircraft)があります。
その名の通り、基本的には農薬散布、肥料の散布、さらにはHydroseedingと呼ばれる
種子を泥などで包んでそのままばら撒いて種まきをする、
という豪快な用途にも使われます。
高度1万m近くを飛ぶ飛行機から見ても地上一面が畑、
という風景が広がる恐ろしい国ですから、こういった機体も必要なのでしょう。
写真はそんな農業用の航空機、グラマン社のG164
アグ
キャット。
1957年に初飛行したグラマン社謹製の機体で、
農業専用機としては、多分、世界で最初の機体でしょう。
低空をゆっくり飛ぶ必要があり、細かく動けた方がいいため、
複葉機となってます。
ついでにコクピットは主翼に対し、かなり後ろに位置してるのも注目。
ここだと翼が邪魔で上は全く見えないと思いますが、下方視界は広くなってます。
通常、機体から見て上空に畑は無いため、下方視界が優先された結果ですね。
太陽を背にして急降下で畑を荒らすカラスなどが敵の場合、
極めて不利ですが、そこら辺りは割り切ってるのでしょう。
調べた限りではカラスによるアグ キャットの撃墜記録もないようですし。
ただし1950年代はまだ軍の予算が掃いて捨てるほどあった時代で、
グラマンも別段商売に困って新規開発した、というわけでなく、
どうも社内の設計チームが自主的に開発したものらしいです。
その後、こりゃ行けそうだ、となるのですが、
当時はまだ海軍向けのジェット機生産全盛期で
工場のラインに空きが無く、別のメーカーに委託する、
という形で生産が開始されてます。
そんな状況ですから、これがグラマン初の民間機となります。
ついでに最初はグラスホッパー、すなわちバッタという名前だったらしいのですが、
猫大好きグラマンがバッタでいいのかニャーという
後ろ向きなんだか前向きなんだかよくわからない意見が出され、
農業用の猫、Agricultural
cat を縮めてAg
catとされたのでした。
ちなみに、以前もどっかで書きましたが、
人類が猫を飼うのは蓄えた穀物を食べるネズミ対策が大きな理由であり、
猫の普及(?)と各文明の農業化はほぼ同時進行でした。
猫マニアの登場は、その後からです。
そういった意味ではアグ キャット、意外に真理をついた名前でしょう。
ついでに、これ以降はそれほど猫に拘らなくなるグラマン社ですが、
(初のビジネス機の名前はガルフ ストリーム)
それでも後に生産した消防車にファイア キャットという、
もはや意味がわからん名前を付けてたりします…。
民間機ながら無尾翼の全翼機、という意欲作、
1979年製のミッチェルのU-2 スーパーウィング。
こんな機体、初めて知りました。
もともとはB-10という木製の三角翼に操縦席がぶら下がった
ハンググライダーの発展型みたいな機体があり、
その三角翼部に操縦席を埋め込んでしまったのがこのU-2なのだとか。
分類としてはモーターグライダーだろうと思ったんですが、
製造会社によるとウルトラライト プレーンだそな。
ちなみに重量は136kgとされます。
これでジェットエンジンだったらナウシカに出てくるメーヴェそのまんまですね。
ただし無尾翼といっても主翼翼端に垂直尾翼があります。
ちなみにウルトラライトプレーンとしては驚異的な
高度7886mの到達記録を持ってるとのこと。
ただ写真のオモチャみたいなエンジンでそこまで上がれるとは考えにくく、
もしかすると排気タービンを自分でつけちゃったのか、
あるいは、よほど強力な上昇気流を捕まえ、
グライダーのようにそれに乗ってしまったのか、詳細は不明。
でもって、この機体はアメリカではよくあるホームビルド機で、
キットで売られていて、組み立ては自分で、というもの。
1980年代に1500セットも販売した、との事ですから、
意外にメジャーな機体なんですかね。
参考までにお値段は2795ドル、日本だとざっと30万円ほど。
(1980年代後半の時の価格)
ただしエンジンと塗料は別売りだそうですが、
それでも100万円前後で完成させられるたんじゃないかと。
メーカー推定の機体組み立て必要時間は250時間、
エンジンの組み込みと塗装でさらに100時間だそうで、
週末に作業する場合毎週10時間作業しても350÷10=35週、
約9ヶ月はかかる計算となります。
まあ、趣味と割り切って楽しむにはちょうどいい感じでしょうか。
ちなみに脚は固定でも折りたたみでも、好きな方が選べる、
というプラモデルチックな部分もあったようです。
うーん、お金と時間があれば、ちょっと欲しいですね、これ(笑)。
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