■戦争しながら研究中



ドイツ空軍の断末魔三号、メッサーシュミットMe163コメットのB型。
旅行記では何度も紹介してる機体なので、
今回はあまりに見ることのない上方向からの写真で。

ドイツが大戦末期に産み出したロケット戦闘機がこれです。
左側にある耕運機みたいな黒い物体がロケットエンジンで、
こんなんでよく飛んだなあ、と思います。

で、さすが高速ロケット戦闘機だ、後退翼じゃないの、と思ってしまうんですが、
製造時の写真などを見る限り、主桁、
すなわち翼断面は機体に平行の方向を向いており、
後退翼に期待される、翼断面が斜めに気流にあたる、という設計にはなってません。
よって、おそらく無尾翼のため揚力の重心位置調整用の後退翼であり、
翼面上衝撃波対策にはなってないと考えていいはずです。
つまり、あまり高速で飛ぶのには向いてないのです(笑)。

ただし、主翼は極めて薄いので、翼面上気流の加速は弱く、
時速800㎞くらいまでは衝撃波無しで行けると思いますが(高高度で)、
ここら辺りは実験してみないと断言はできませぬ。

ちなみに、主翼のあちこちが茶色いのは
錆ではなく、この部分は木製だからでしょう。



展示の機体は接収場所などは不明ながら、戦後アメリカに持ち込まれ、
カリフォルニアで滑空テストまで行なった後、木製の主翼に亀裂が入ってしまい、
その後、1954年にスミソニアンに寄贈されたものだとか。

で、問題は、いかにもオリジナル、
第二次大戦時代のままのように見える塗装です。
が、アメリカ軍が一度でも飛ばしてるとなると、
連中はほぼ必ず、塗装を剥がして塗装しなおすので、
この塗装はアメリカ軍による戦後のものだ、という事になります。

ただ、尾翼などを見ると、オリジナルのナンバー部分に
上から水性塗料で上塗りしたらしい跡が残ってたりするので、
オリジナル塗装の可能性は低くない、としておきます。



お次はドイツの主力戦闘機2号、フォッケウルフFW190のF型の8でR-1という機体。
すなわちFw190F8 R-1となります。

Fw190は航空宇宙館本館で見たMe109と並んでドイツの空を支えた戦闘機でした。
ただし、Me109が大戦前から配備がされていた機体なのに対し、
こちらのFw190は大戦中の1941年後半から配備が始まった新型機となります。

登場後、一時はイギリス空軍を圧倒するのですが、
イギリスの主力戦闘機、スピットファイアも、このFw190対策として、
マーリンエンジンに新型の2段2速過給器を搭載して来るのです。

1942年夏ごろからこの新型マーリン61シリーズを搭載したスピットファイアMk.IX(9)が
戦場に現れると、高度6000m以上ではアップアップとなってしまう過給器しか持たない
フォッケウルフのBMW801Dシリーズエンジンでは、優位を維持するのは困難でした。

この過給器性能の差はガソリンの精製能力(ハイオク化)の差でもあったのですが、
この点でアメリカに圧倒的に差をつけられてしまった日本とドイツは、
飛行高度の優位(=位置エネルギーの優位)を得ることができず、
最後まで連合軍の戦闘機と戦略爆撃に頭を押さえつけられる形になります。

このため以後、Fw190はその低空での高性能を生かして、
主に戦術爆撃機として使用され始め、もはや時代遅れとなっていた
Ju-87スツーカの跡を継いで行く事になるのです。
この展示の機体も戦闘爆撃型で、爆弾を搭載してるのはそのためです。

ある意味、Me109、Ju87 というドイツの看板機、
両者の代わりをこの機体だけで務めてしまったわけですから、スゴイ話。
ここら辺りは、アメリカ海軍のF4Uコルセアと同じく、
現代の多用途戦闘機に繋がる祖先なのかもしれません。

ただし、展示の機体は当初戦闘機型のA型として生産され、
その後損傷のため修理に回され、そこでF型に改造されたものだとか。
終戦後、これも陸軍が接収してアメリカ本国に持ち込んだものの、
一度も飛行試験をしないまま、1950年ごろスミソニアンに引き渡されたようです。



その機首部。

この機体、あらゆる部分がよく考えられており、後の他国の戦闘機の設計にも
いろいろ影響を与えてたりするのですが、その中では、どうも機首上面、
機銃周りのパネルの設計が、やや適当な印象を受けます(笑)。

結構大きな出っ張りがある上に、機首部との段差もあり、この機体の中で、
妙にアンバランスな印象を受ける場所ととなってます。
おそらく、あまりにキッチリとエンジンカウルを造ってしまった結果、
その上に機銃を載せるスペースが無くなっちゃったんじゃないか、という気も。

で、プロペラスピナーにはドイツ軍おなじみの渦巻き模様が入ってるのですが、
未だにこれがなんだかよくわかりません(笑)。
敵味方識別用とか、単なるおまじないとか、イロイロ言われてますが。

ちなみに、現代のジェット旅客機のエンジンコーン(中心の出っ張り)に
同じような模様が書かれてる事がありますが、
あれは耳栓をしてる地上作業員が、音ではなく、
目視でエンジンが停まってるか動いてるかを瞬間的に判断できるようにしてるもの、
という話を以前に聞いたことがあります。
運転中のジェットエンジンにうかつに近づくと吸い込まれますからね。

ついでに、機首部の高さと、コクピットのシートの頭部分の高さを比べると、
ほとんど前方視界の無い機体だ、というのもわかるかと。
これでも何とかなっちゃうんですねえ。

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