■砲撃戦は大変だ



その砲塔長用の潜望鏡の接眼部。
単なるデバガメ用ではなく、結構本格的なものになっています。

砲塔指揮官の仕事は、戦闘指揮所の指示が来たら
下部の弾薬庫に砲弾を上げるように電話し、
その後、全砲の装填と照準が終わって
射撃準備完了のランプが全て点灯したら
準備完了を戦闘指揮所に伝える(スイッチを入れる)、
といった流れになります。

よって、外を見る必要性はそれほどないはずなのですが、
主砲砲塔の場合、ハッチが床にしかないので周囲の状況の確認が大変、
という部分があり、その対策なのかもしれません。

なんらかの形で外部情報が無いと、不安でもあったでしょうし。



その右奥にあった操作盤関係。
詳細は不明ですが、注目は右上の黒い箱の操作盤。
ここに砲弾初速という窓があり、蛍光管表示の数字が出るようになってました。
となると第二次大戦以降どころか、ベトナム戦争以降の装置の可能性が高く、
ベトナム戦〜1982年の近代改装のどこかで取り付けられたものでしょう。

おお、主砲も進化を完全放棄したわけでは無かったのね(笑)。

ついでに撃ち出した砲弾の初速を測定していたというのも初めて知りました。
予想値より低い場合とか、砲の仰角を調整したんでしょうかね。



この前部士官詰所の壁の向こうが主砲のある装填室と照準室で、
そこで砲弾と装薬袋の装填を行ない、砲の仰角などを設定してました。
照準室といってもここで照準するわけではなく、
指示された照準の通りに砲を設定するための部署です。

そちらにはこういったドアから中に入るはずなんですが、
黒いドアと灰色のドアがあり、イマイチ構造がよくわかりません…。
とりあえず、ここで砲塔(Gun house)内が大きく前後に区切られていて、
ドアで行き来するのだけは確かなんですが。

ちなみに装填室と照準室、英語の正式名称を調べてみたんですが、
図面やらマニュアルやらを見ても、どこにも書いてない。
よってここらあたり、ちょっと謎だったりします。

とりあえず、装填室で各砲ごとに6人、
さらに照準室で各砲ごとに6人ずつの作業員が付いてはずです。
よって12人×3門=36人、さらに士官詰所の8人が加わるので、
この上部構造(下の弾薬庫まで主砲の構造は繋がってる)だけでも
44人の人間が働いていた事になります。

当然、この下の弾薬庫、さらには機械室などにも作業員が居たわけで、
戦艦主砲の運用は人数勝負、という印象がありますね。



とりあえず装填室内部は窓から見ることができます。
まずは主砲その1。

奥に見えてるドラム式洗濯機みたいのが16インチ砲の尾部で、
あの中央のフタを開いて砲弾と装薬を装填します。

展示の状態は平時の状態、あるいは発射準備完了時のもの。
手前に見えてる巨大な円筒が主砲弾の昇降機(hoist)の取り出し口で、
これが畳まれた状態になっているのがわかると思います。

砲撃準備の時には、艦底にある弾薬庫から
砲弾がここに上がってくるので、
この装填用の筒を砲尾側に倒し、滑らすように砲尾から砲弾を込めます。

この砲弾用昇降機周りは完全に機械化されており
砲弾を砲内に押し込むまで油圧式の機械で行なってました。
ただし自動装填ではなく、装置には操作員が付きます。
(画面手前にそのためのイスがあったはずだが見えてない)

ちなみに、各砲にも独立した指揮官が居り、
こちらは砲長(Gun captain)と呼ばれます。



こちらはその隣、主砲その2の装填室。

よく見ると主砲の尾部は注意書きの赤札だらけで、
なんだか差し押さえ物件みたいですね…。

これは既に砲弾の装填が終わり、
最後の装薬袋の装填準備に入った状態です。
ちなみに砲弾を装填する時に、ここで信管を取り付けていたはず。

で、砲弾装填後も、砲弾装填用の筒が倒されたままで
引き続き使われてるのに注意してください。
実に合理的に出来てるんですよ。

左に見えてる窓が装薬袋用の昇降機の取出し口。
装填用の筒より少し高い位置にあり、
さらにそのフタがスロープ代わりになっています。
このため装薬袋が来たら、フタを開けるだけで準備完了、
後は手前に転がすだけとなるわけです。

で、装薬袋用の昇降機は2階建てで、
1階に3個、2階に3個で、計6個が一度に送られてきます。
が、1度に6個、300kg分の装薬袋を装填するのは無理があるので、
最初の3個を砲尾に押し込んだら、
次の3個を取り出して、再度装填するわけです。

装薬袋の昇降機の取り出し口からは転がすだけ、
その後の砲内に押し込むのも油圧式の機械でやりますが、
それでも1個50kgのこれを動かすのは重労働だったようで
装薬袋の装填係は2人居ました。
右に見えている足場は、その装薬袋係の足場用のもの。

ちなみに艦底の弾薬庫はもっと悲惨で(涙)、
弾薬庫の取り出し口から数m先にある昇降機まで
1個50kgの装薬袋を各自が手で抱えて運んでいました。
…戦争は体力だ…。

で、この装薬袋の装填が終わり、
尾部の栓を締めて砲長が準備完了のスイッチを入れると、
砲は自動的に指示された照準の仰角を取り、その結果、
砲尾はこの装填室よりずっと下の位置に下がります。

その後、全ての砲の準備が終わると、
今度は砲塔長が準備完了のスイッチを押します。

で、前にも述べたように、戦艦の主砲は全弾一斉発射が原則ですから、
全砲塔の準備完了信号の点灯を待ち、
それから例の戦闘指揮所の砲術長が引き金を引き、
ドカンと発射になるわけです。

そして砲撃が終わると、また砲は水平位置に戻される、
すなわち砲尾がここに戻ってくるので、再度、装填の作業が始まります。
なので、外から見て砲が水平になっていたのは、
装填準備状態だったからなのだ、という事になります。

このため、砲撃時に砲尾がこの装填室内に
後退して来る事はありませんから、砲撃中も危険はありません。
逆に言えば、少なくとも16インチ級の主砲を積んだアメリカ戦艦は
この装填室にぶつかってしまうため、
あまり水平に近い射撃は出来ないはずです。


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