■1982大改造編
お次は戦後の改修、特に1982年の近代化改修で積まれた兵装たちを見て行きましょう。
■3 対艦ミサイル ハプーン
後部煙突横の筒状のものが、その発射装置。
1982年改修後は、対艦戦闘は主砲ではなく、これでやる事になっており、
片側8基×2で計16基というかなり強力なものになってます。
海上自衛隊の護衛艦の場合、艦あたり4基×2の計8基が普通ですから、
USSニュージャージーの16基というのはかなりの数です。
あの赤いフタが付いてる筒が、1977年からアメリカ海軍に導入された
対艦誘導ミサイル、ハプーンの発射筒です。
ご覧のように片側8基、左右両方で16基の贅沢な(笑)搭載になってます。
ちなみにハプーン(Harpoon)は捕鯨船が使っていたクジラ用のモリの事で、
どうも微妙な命名のような気も…
レーダー誘導で100q以上の射程距離を持つのですが、
後で見るように、USSニュージャージーは
レーダー塔の頂上からでも、水平線までは24q前後の視認距離しかありません。
水上艦ならもう少し高さがあるので40q前後までは見えた&レーダーで発見できた
可能性がありますが、それでも100q先の敵を発見するのはムリでしょう…。
搭載のヘリ、あるいは空母艦載機が空中から誘導可能なんでしょうか。
ついでながら、対艦という事もあって意外に飛行速度は遅く、
850q/h前後が突入時の速度になってるようです。
さらについでに1発あたり2000年代価格で120万ドル(約1億220万円)するそうで、
ウカツに射撃テストとかもできないですね、それ…。
■4 巡航ミサイル トマホーク
写真では全く見えてませんが、後部煙突の前後に
その発射装置が8基搭載されてます。
(下で見るように1基あたり4発を発射可能なので32発搭載状態)
ただし、後部の4基は見学コースから見る事はできませんでした。
核弾頭装着可能ですが、基本的には通常弾頭で
精密攻撃用対地ミサイルとして使われる事になります。
ちなみにトマホーク ミサイルを最初に正規運用した艦が
このUSSニュージャージーだそうな。
というわけで1982年以降、
対艦攻撃はハプーン、対地攻撃はトマホークが担当しており、
どちらも極めて高い命中率が期待できる誘導ミサイルなわけです。
…主砲、要らないような…。
どうりで進化をあきらめて機材の改良が放棄されてるわけだ。
艦中央部にあるトマホーク ミサイルの発射装置。
よく見ると後ろ側にロケット噴流を受け止める防護板があります。
これも長距離ミサイルですが、宇宙空間まで飛んで行ってから落下してくる
弾道ミサイルとは違い、航空機のように水平飛行して目標に到達、突入します。
トマホークは、そもそもは核弾頭の搭載が前提で開発されてたものの、
冷戦終了後は、精密誘導ミサイルとして、通常弾頭を搭載し使用されてます。
1991年の湾岸戦争で、開戦直後に大量にイラクに撃ちこまれて有名になりましたね。
1980年代以降のアメリカの戦艦たちは、事実上、これの発射基地として運用されたのでした。
このミサイルは約1000〜1700qという長大な射程距離があるため、
あらかじめプログラムされた飛行ルートにしたがって飛んで行くようになっています。
新型のものはGPSで自分の位置を確認しながら飛ぶようですが。
ちなみに、核弾頭型の方が、なぜか射程距離は長いみたいですね。
展示の説明だと、通常弾頭型でもシカゴまで狙えます、と書いてありましたが、
逆に西海岸に比べれば、はるかに近所といっていい
中部都市のシカゴですら1000q以上離れてる、
というアメリカの大きさに改めて驚いたり…。
ちなみに対艦攻撃型のタイプもあるそうなんですが、
USSニュージャージーにそれが搭載されていたかは不明です。
ついでに通常弾頭では1000ポンド(約450kg)しか搭載できないので、
精密誘導で目標を打ち抜く、というのには向いてますが、
敵基地の滑走路を一気に使用不可能に追い込むとか、
敵前線の塹壕陣地一帯を叩く、という任務には向きません。
まあ450kg弾なら、普通のビルくらいは簡単に吹き飛ばせるでしょうが、
その破壊範囲はやはり限界があります。
近代改装後のアイオワ級戦艦では、写真に写ってる2基と、この正面にもう2基、
そして後部煙突の向こうにさらに4基の計8基の発射装置が搭載されています。
それぞれが各4発のトマホークを搭載してますから32発分の発射装置を搭載してるわけです。
ちなみに手前でミサイルが顔を出してるのは展示用の演出で、
通常は奥のもののようにフタがされてます。
ただしこれ、艦上での再装填はムリで、予備のミサイルは積まれてなかったとか。
なので最大32発までが1回の作戦で使用可能な数となります。
使った分は、入港後に専用の機材で再装填するたみたいです。
ちなみにお値段はこれも2000年代価格で、1発あたり145万ドル(約1億4700万円)。
さあ、計算だ(笑)。
ハプーンが16発で120万ドル×16=1920万ドル、
トマホーク32発が145万ドル×4640万ドル、計6560万ドル、すなわち約67億円。
戦後改修後のニュージャージーの乗組員は約1500人前後だったらしいので、
彼らの月給が平均で2500ドルとして、375万ドル、約3億2000万円。
すなわち全乗組員2年分の給与に匹敵する兵器を抱えて航海していたわけで、
これナポレオン戦争時代のフランス、スペイン、イギリスあたりの戦列艦だったら、
あっという間に全水兵が結託して反乱、乗り逃げしちゃったんじゃないかなあ(笑)。
まあ、一機50億円とかの機体を何十と積んでる空母よりはまだマシですが、
それでも高額商品のカタマリが海に浮かんでるのは間違いないわけです。
…現代の海賊の皆さん、商船なんか襲ってないで、
軍艦襲ったほうが絶対に金になりますぜ。
ハイリスク ハイリターンは世の常、チャレンジする勝ちはあると思います(笑)。
■5. 至近距離兵装(CIWS) ファランクス
写真では3基しか見えてませんが、左右対称に2基×2で計4基搭載されてます。
実は近代改装後のアイオワ級、対空兵装は極めて貧弱で、
空母機動部隊の保護下でないとどうしようも無かったと思われます。
接近してくる敵機を迎撃する手段は手動式の5インチ砲だけでして(笑)、
当然、ジェット機相手ではほとんど役に立たないでしょう。
仕方ないので、やって来るミサイルだけは撃墜しよう、
という事でこのファランクスが載せられてるようです。
当然、ファランクスは20mmバルカン砲しか積んでませんから、
海の上では至近距離でしかない1700m前後しか有効射程はないとされ、
まともな対空兵器とはいいかねます。
あくまで最終防御用、いわゆる最後の手段、なんでしょうね。
ちなみにファランクスには最大射程距離だけではなく、
最低射程距離もあったりします。
USSニュージャージーの場合、あの高い位置に置いてしまった結果、
低空で接近されると、400m前後から船体の手前側、
ファランクスから見て真下方向に死角(レーダー波と射界両方で)
ができてしまい、これを撃つ事ができません。
なので有効射程距離は400m〜1700mとほんのわずかとなってます。
800q/h前後で突っ込んでくる対艦ミサイルの場合、
その秒速は軽く200mを越えてますから、
この距離ならざっと6秒前後で通過してしまいます。
この短い間に確実に目標を叩き落す必要があるため、
ファランクスは自律型兵器で、人が操作するのではなく、
装置が自分で判断して秒間最速50発の射撃を行なうようになっています。
弾倉は989発入るそうなので、最大19秒間分の弾がある事になります。
ただし、もっとも命中率が高く、弾の威力があるのは
距離700m以下なんだそうで、そこから最低射程距離までは
ミサイルなら1秒前後で突破してしまいますから、
結構、しんどい勝負になる可能性はあります。
個人的になぜかペンギンを連想してしまうファランクス。
至近距離兵装(Close In wepons
system)の頭文字を取って
CIWSと呼ばれる分野の兵器で、ファランクスというのはその商品名です。
ファランクスは古代ギリシャの重装歩兵の戦術の名前ですが、
これもあまり実態を表しておらず、どうも微妙な命名の気が…。
搭載されてる20mmヴァルカン砲(これも商品名)で
約1700m前後よりも船体に接近してきた目標を粉砕します。
その名に“対空”の文字が無いのは、魚雷艇といった
小型船舶も一応その攻撃対象になっているからでしょう。
下半分がバルカン砲本体と弾倉部で、上の白い帽子部分には
周波数の異なる二つのレーダー、
警戒レーダーと射撃照準レーダーの両方が搭載されてます。
完全自律型の兵装のため警戒用、射撃管制用、両方のレーダーを積んでいる、
というのが、ファランクスの最大の特徴の一つです。
通常の対空システムなら母艦の警戒レーダー情報に頼るので
後は射撃管制用レーダーだけで十分となります。
実際、後で見る5インチ砲の射撃管制装置は
射撃管制用の高周波レーダーしか積んでません。
ところが自ら情報を収集し自律的に対応するファランクスの場合、
最初に敵を発見するための精度の低い長距離低周波レーダー、
すなわち警戒レーダーまで独自に搭載してるわけです。
ただしあくまで自分正面方向、攻撃エリアのみが興味の対象なので(笑)、
通常の警戒レーダーのようにアンテナを360度回転させる事はありません。
(ただし上下方向には首を振る)
で、これは人が操作しないため、搭載されたレーダーシステムは
人にわかる形での出力、すなわちスコープなどの表示をしなくて済むため、
比較的コンパクトにまとめられたようです。
ちなみにこの写真だと下の仕切り板で隠れてしまって見えてませんが、
ファランクス本体下の台座部には、回転用のモーターと一緒に
制御用コンピュータが搭載されてるため、
実はこれ、電源以外は艦内への接続が全くありません。
感覚的には買ってきてコンセントに繋いで置いてあるだけ、
という兵器で、そういった意味でもかなり変わってます。
個人的には日本の対昆虫兵器、電子蚊取り線香を連想しちゃうんですが…。
で、この装置は上だけでなく、下にも向けられるのですが、
ヴァルカン砲の弾倉の位置などの関係で、
下向き角度には限界があり、このため、
目標が船体にあまりに接近してしまうと、死角となってしまうのです。
最後は兵装というにはちょっと微妙なんですが、
これも1982年改装で取り付けられたAN/SLQ-32電子戦装置を。
例のアンテナ塔のテッペンの左右に搭載された箱状の装置で、
ちょうど後で見る主砲射撃管制装置を挟み込むように置かれてます。
これはその名の通り、電子戦用の装置です。
敵のレーダー波を探知して、妨害するのが主な役割で、
誘導ミサイルのレーダー波を妨害したり、
敵の索的レーダー波を無効にしちゃったりと、
いわゆるジャミングといわれるような行動に使われるものです。
基本的には防御用の電子戦装置で、
直接相手を攻撃するものではありませんが、
近代戦の基本のレーダー戦における、防御力の面で大きな役割を持ちます。
それに関連して、後で見る戦闘指揮所の横にある、Mk..36
SRBOC。
SRBOCという長い名称は、
Super Rapid Bloom Offboard
Countermeasures の頭文字なんですが、
なんとなく言いたい事はわかるものの、どうも意味不明な英語ではあります…。
日本語にするなら、超速射展開型 艦外対抗装置…かなあ…。
これは上の電子戦装置、AN/SLQ-32が電波妨害に失敗しちゃった、テヘ、
という事態になったとき、最後の手段として作動するもので、一種の迫撃砲です。
ただし、中にはレーダー妨害用のチャフが詰まった筒、
あるいは赤外線ミサイルの目をくらますフレア弾などが入ってます。
で、上のAN/SLQ-32装置が、もはやこれまで、
と自分の失敗を認めると(笑)、
自らこの装置を作動させて、ミサイルへの妨害手段を展開するようです。
当然、その段階では例のファランクスが自主的に
20mmバルカン砲で弾を撃ちまくってますから、
この両者で攻撃を食い止める、という形になります。
といった辺りが1982年段階での主な装備ですね。
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