■艦橋はいろいろあるのだ
その先、乗船用の橋上から見た艦橋部。
もう少し上の部分が見えて来ました。
ちなみに手前に張られてるキャンバス地の屋根は停泊時に
日除けとして張られるもので、HMSベルファストでも使ってましたね。
第二次大戦後も何度か現場復帰した
アイオワ級戦艦4隻ですが、当然、戦艦主砲の開発は
既に第二次大戦で終わって、以後の発展はありません。
じゃあ、どうやって最新の兵器システムと連動させていたのだろう、
という疑問があったのですが、ここでいろいろと驚愕する事に(笑)。
結論から言うと、ほんとんど何もやってなかったように見えます…。
まずは4番、レーダー塔のテッペンに注目。
楕円形を引き伸ばしたような箱と、その下に左右に測距儀が伸びてる
円筒形の部分が見えます。
下がMk.38主砲射撃管制装置(Main
Battery Fire Control
Director)で、
その上の楕円断面の箱は1945年から配備が始まった
Mk.13射撃管制レーダーのケースでしょう。
測距儀やら射撃管制レーダーについては
以前にウンザリするほど解説したので、そちらを見てください。
ここではレーダーによる射撃管制が主のアメリカ戦艦の場合、
測距儀は極めて小さいサイズなのに注意してください。
あくまで非常用ですから、こんなので十分なんでしょう。
最大15.7mもあった艦橋に突き刺さる地獄のカンザシ、
という感じの戦艦大和などの測距儀などとは世界が違うわけです。
……って、あれ?
Mk.38主砲射撃管制装置?…マジですか(笑)。
帰国後、他のアイオワ級も写真で確認しましたが、
他の艦でもこれを搭載したままでした。
さらに主砲射撃時の写真を見ると、これがちゃんと
砲撃の方向を向いてるのです。
すなわち!
アメリカ海軍は1990年代まで、1945年の射撃管制システムで、
戦艦の主砲を運用していた、となります。
ちなみに死角をカバーするのと、予備としての意味で、
後部にも一基、同じMk.38主砲射撃管制装置が搭載されていたのですが、
これもそのまま残ってました。
…いや、驚いた。
さすがに当時の電子部品の補給ができたとは思えないので、
電子機器は最新のものにされてると思いますが、
それでも基本的な部分は第二次大戦世代のままなのです。
ムチャクチャするなあ…。
とても兵器としての実用性があったとは思えず、
やはり戦後の戦艦は一種の海軍の象徴であり
実用性は二の次だったのだなあ、と思う。
見えなくなってしまったので、同じ写真をもう一度載せますよ。
お次は右下に後部だけ写ってる主砲の第二砲塔後部、6に注目。
左右に出っぱてる長細い箱状のものは
目標までの距離を目視で測る測距儀です。
通常、主砲は先に見たMk.38主砲射撃管制装置の指揮下に置かれ、
独自に照準と射撃を行う事はありません。
が、レーダーがやられたり、戦闘指揮所(後述)がやられた場合、
主砲はもはや何の役にも立たなくなってしまうため、
緊急時にはこの測距儀で自ら照準を行なって、砲撃を行ないます。
こんな低い位置から見える敵なんて限られますから、
あくまで気休めなんですけども。
で、この測距儀、第二、第三砲塔には付いてるのですが。
第一砲塔には付いてません。
つまり外すつもりなら外せるのに最後まで残しておいた、という事で、
すなわちいざとなったら使う気だった、という事です(笑)。
1990年ごろまで、現役だった兵器が、
最後の手段として目視で長距離砲撃戦をする気だった、
というのはスゴイですね…。
やはり、戦後の戦艦の主要任務は政治的な
デモンストレーションだなあ、と思います。
で、最後に艦橋の屋根の上、5の位置にあるのが戦闘指揮所です。
戦闘に入った場合、戦闘指揮官は視界の効く船外に出て指揮を行ないます。
主砲の射撃トリガーなどはここにある事が多いのですが、
アイオワ級ではどうなってるのかよく知りませぬ。
(主砲射撃管制装置が照準を付け、各砲塔がその指示通りの方向にセットし、
戦闘指揮所の指揮官がトリガーを引く)
ただしイギリスの巡洋艦HMSベルファストでは
戦闘指揮所は、ほとんど露天状態だっだのですが、
このUSSニュージャージーでは、かなり立派なシェルターがありました。
写真でも円筒形のそれの上部が見えてますね。
これがアメリカ海軍がチキン野郎なのか、
さすがに戦艦同士の砲撃戦でむき出しの指揮所は
自殺行為だからなのか、よくわかりませんが(笑)。
はい、ようやく乗艦。
ちなみに下の赤い線が見学ルートのガイドになってます。
ここから見ても艦首部の長さに驚きます。
でもって奥の風景を見るとわかると思いますが、これで水平位置の撮影です。
ものすごい角度で艦首が上に跳ね上がってるのがわかるでしょうか。
水面に対して甲板の位置が低い軍艦では、波につっこんだ時、
船首が簡単に水没しないように上に跳ね上げてあるのが普通です。
現代のイージス艦などでも結構な角度で艦首は跳ね上がってます。
が、こんだけの長さにわたってるのはさすがに初めて見ました。
主砲の前方で甲板上に見える背の低い板は波除けでしょう。
しかし甲板は木製なんですね。
こんな可燃物を砲弾が飛んでくる上方に対して全面に貼ってある、
というのは個人的にはアホですか、と思っちゃいますが…。
ちなみにロンドンで見たイギリス巡洋艦HMSベルファストは
後部甲板が木製で、中央部から前は鉄板の上に
薄くコンクリートを敷いたような一種の舗装表面になっていました。
が、こちらのUSSニュージャージーは逆でして、艦首甲板が木製、
中央部から後ろは鉄板と謎の舗装になってます。
まあ、どちらも戦後に大幅な改装をおこなってますので、
元の状態はよくわからんのですが。
そこから先で私と艦内を結ぶ運命の赤い線が謎のドアに吸い込まれてました。
これが艦首部の艦内見学コース入り口です。
ドアが閉まってますが、自分で開けて入れます(笑)。
なんだか花火会場の特設トイレみたいな箱とドアですが、
本来は床の上にハッチがあるだけの部分に、見学者用のドアと、
覆いをつけたもので、元々はこんなものはありません。
その右横にある円筒状のものはおそらく艦内換気用の煙突。
ついでに手前左右の甲板にある円形に見える板張り部分にも注目。
第二次大戦中、USSニュージャージーの艦首部、第一主砲前には
対空用の40mm機関砲の連装銃座が左右に一つずつあったので、
おそらくそれを撤去した跡でしょう。
あくまで客観的な事実として主観抜きで述べますが、
開戦後1年足らず、1942年秋までに日本の空母機動部隊がほぼ壊滅すると、
(5月の珊瑚海で1隻、6月のミッドウェイで4隻、8月のソロモンで1隻の空母喪失)
アメリカ海軍に対して脅威を与えたのは神風攻撃のみでした。
前に書いたように、アメリカ側のダメージコントロール力の高さから、
主力空母、戦艦の撃沈こそ全くありませんが、
戦闘能力を奪う、という点ではかなりの損害を与えています。
が、言うまでも無くその育成に膨大な時間がかかるパイロットを
攻撃の度に全て殺してしまうこの攻撃は、日本側の戦力損失も大きかった、
という点を見逃さないようにしないとなりません。
純粋に戦力的な消耗部分だけ見た場合、失ったものの大きさは、
両者で互角と思っておいた方がいいでしょう。
さらに神風攻撃の弱点として、敵艦に直接接触する必要がありました。
よってアメリカ側は40mm&20mm機関砲を
戦艦や巡洋艦にハリネズミのように装備、
とにかく猛烈な弾幕で近寄ってきた機体を全て叩き落す、という方針に出ます。
この結果、大戦末期のアメリカ戦艦は、余裕があるならどこにもで機関砲を積むのだ、
という感じにこういった艦首、さらには艦尾にまで搭載したほか、
なんと主砲の上にまで連装式の本格的な対空銃座を設置してました。
通常の対艦攻撃の場合、敵機は爆弾か魚雷を
20mm機関砲の射程距離よりはるかに遠くで切り離してしまうので、
その攻撃を防ぐ事ができません。
なので40mm未満の対空兵器は
本来はほとんど気休めにしかならないのですが、
爆弾を切り離さず、直接突入してくる神風攻撃には
20mmの銃座でもかなり有効だったのです。
ついでに、ボストンのUSSカッシン ヤングのとこでも書きましたが、
低空で突入してくる神風攻撃機相手に、
射程距離のある40mm機関砲を乱射した結果、
有軍艦に被害が生じる、というのはUSSニュージャージーでも発生しており、
数人の死者が出てるようです。
当然、USSニュージャージー側もまわりに被害を与えてるはずですが、
この点に関しては説明がありませんでした。
ここが見学が許されてる最先端部。
この先、艦首部にも大戦期には20mm機関砲の連装銃座があったのですが、
戦後の改装で取り外されてしまってます。
手前の糸巻き状の部分は錨の巻き上げ用装備で、
奥の妙な形のポールは、Conical-monopole
high frequency
antenna
単棒式円錐型高周波アンテナ。
アメリカ軍がよく使っていた長距離用通信アンテナで、
ベトナム戦で復帰した時に、追加装備されたようです。
高周波といっても3MHz〜30MHzの短波(HF)用となってます。
通常は直進しかしない電波は、そのまま宇宙空間に出て行ってしまいますから、
水平線の向こうまで通信するのは困難です。
ところが、この周波数帯の電波は大気圏上部の電離層と海面(地面)で
次々と反射してギザギザに飛ぶため、
地球の裏側まで届く事ができる波長となってます。
これを利用してアメリカ軍は長距離通信を行なっていました。
逆に言えば、まだベトナム時代のアメリカ海軍は通信衛星を
実用化できてなかったのだな、というのがわかります。
その送受信でもっとも効率がいいのが
このアンテナらしいですが、詳しくは知りせぬ(笑)。
ちなみに電離層から、つまり上から反射して落ちてくる
電波を受信するので、水平方向からの電波を送受信する
レーダーのように、艦橋の高い位置に置く必要がありません。
なので、おそらく銃座がなくなって余裕があったここに置かれたのでしょう。
ただし、ここ、荒天時には波をかぶりまくるため、
あのように少し持ち上げた接地になってるのだと思われます。
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