■さあ乗船



この桟橋の入り口でチケットを見せて入場です。
しかし、あっさり戦艦を係留できちゃうデラウエア川ってすごいなと思ったり。
もっともロンドンのHMSベルファストは
もっと狭くて干潮差の激しいテムズ川に係留されてましたから、
弾薬燃料抜きであまり沈み込んでない軍艦の喫水は意外に浅いのでしょうか。

ちなみに軍艦の大きさを示す総排水量のトン数は、喫水線、
水面が船体と接する線から下で船体が押しのけた水の重さ、
つまり船が浮かんでる時に押しのけた水の重さです。
なんじゃそりゃ、という感じですが、アルキメデスの原理によって、
船が水面上に浮いてる、つまり浮力と重力が吊り合ってる場合、
押しのけた水の重量が船の総重量を示す事になるのです。

アルキメデスの原理は
物体は押しのけた流体(水)の重さと同じ大きさの浮力を受ける、です。
とりあえず、ニュートンの運動法則から重さと力は
同じ種類の量だ、というのを現代の我々は知っています。
(重さ=質量×重力加速度=力)

同じ次元の量なら、イコールで結べますから、
重力と浮力が吊り合って船が沈まずに浮いてる場合、

浮力(kg m/ss)=船体の重さ(kg m/ss)

が成り立ちます。で、アルキメデスの原理は

浮力(kg m/ss)=押しのけた水の重さ(kg m/ss)

よって

船体の重さ(kg m/ss)=押しのけた水の重さ(kg m/ss)

という事になるわけです。
実際の計算は単純に船の喫水線下の体積に等しい
水の重量Kgを計算する事になりますが。



さて、艦首横のここが入り口です。
HMSベルファストは護岸とほとんど同じ高さだったのに、
さすがは戦艦、それなりに高い位置に甲板があります。

ただし現在は砲弾も燃料も搭載してない状態であり、
その分、浮き上がって喫水はかなり浅くなっています。
ちなみに戦闘出撃の時は基準排水量より8000トン近く重くなって
53000トンあったとされるので、船体はもっと沈みこんでいたはず。

再度脱線しますよ(笑)。
あまり注目されませんが軍艦の排水量ほど面倒な数値も無く、
正確な読み取りにはかなりの注意が要ります。

まず、空っぽの状態と燃料や弾薬を搭載した状態では当然重さが違います。
このため、通常は基準排水量(standard displacement)
と呼ばれる数字が使われるのですが、
これの定義が国や年代によって結構変わるのです。

普通は戦闘装備で弾薬と人員を搭載した状態が一般的ですが、
そこから燃料を含める、含めないの二種類の定義があり、
どちらを採用してるかは時代と国によって異なります。
戦艦、空母クラスになると燃料の重さだけ数千t単位なので要注意です。

ニュージャージの場合、戦時平均排水量で52000トンとされてますから、
基準排水量45000tはおそらく燃料抜きの状態じゃないかと思います。

さらにトンという単位はメートルキログラム法で1000kgと思ってしまいますが、
実はアメリカやイギリスのヤードポンド法にもトンの単位があります。
さらにイギリスとアメリカで量が異なり、呼び方も異なります。

■イギリス トン=2240ポンド(lb)=約1016kg=Long ton

■アメリカ トン=2000ポンド(lb)=約907.2kg=Short ton

すなわちアメリカの1t(Short ton)はkg単位の1tより10%も小さいのです。
近年のデータだとメートル法の単位で表記される事が多いですが、
1940年ごろまでの資料だと、なんの注意書きもなしに
Short ton が使われてる事があり、要注意です。

基本的にtonneと書かれていたらメートル法トンなんですが、
単にtonと書かれている場合、どちらかの判別は不可能に近いです…。
個人期には、あまりかかわりになりたくない部分ですね(笑)。

ちなみにニュージャージーの45000トンはメートル法トン数です。



そこから見た艦中央部。

操艦&戦闘指揮用の前部の低い艦橋と、後部のレーダ塔という
アメリカの新世代戦艦の特徴がよくわかるかと。
ただし、後部のレーダー塔に全く人が居なかったわけではなく
中央部と頂上付近に見える手スリのある箱状の構造、
1の数字で指し示した部分は監視要員が入る場所でした。

2の矢印の先は対空砲のMark12 5インチ砲の連装砲塔。
この写真には2つしか見えませんが、
先に見た全体画像を見ればわかるように、奥にもう一つあります。
現代の護衛艦やイージス駆逐艦では主砲の5インチ砲ですが、
第二次大戦期には主に対空砲として使われてました。

10q前後の射程距離があったので、
艦に接近する前の航空機をこれで狙い撃ちにします。
大戦中はさらに二つの砲塔があり、片側で10門ずつが
弾幕を張れるようになってました。
特に1943年前半から登場したレーダー近接信管(VT信管)によって
その威力は強力なものとなり、アメリカの対空装備の主力として活躍します。

この5インチ砲の弾幕を抜けて来た機体には40mm機関砲、
さらに接近した場合は20mm機関砲が待ち構えていたのですが、
それらは全て撤去されてしまってますね。
その代わり、近代化改装で画面中央付近にみえるファランクス(CIWS)が
片側2門ずつ、計4門搭載され、より高速なミサイルなどに対応してます。

で、3の番号をつけた、上にレーダーアンテナが付いてる
箱状のものが対空射撃指揮所(Gun directer)です。
これはアメリカ海軍の5インチ砲と常にセットになってる
対空用 MK 37 射撃管制装置(Gun Fire Control System)で、
ボストンの駆逐艦、USSカッシン ヤングでも見ましたね。
こんな第二次大戦時代の対空指揮所が最後まで使われていたのだ、
という事にちょっと驚きました。
そもそも5インチ対空砲がジェット時代に何の役に立つのか、
といわれるとかなり微妙ですから、
もうそのまま放っておこう、という事になったのかもしれません。

ただしレーダーはUSSカッシン ヤングのMk.25よりさらに新しい、
私は全く知らない(笑)タイプのものに換装されています。
USSニュージャージではこれが艦橋部周辺に左右、前後計4つが設置されています。
駆逐艦では1つだけだったので、いくらなんでも多すぎと思うんですが(笑)、
どういう分担で射撃指揮を行なっていたのかは不明です。
4つとも残してあるという事は、それぞれ必要だったんだと思いますが…。

とりあえず第二次大戦期でも500q/h以上出ていた
高速の航空機を狙い撃ちで落とすのは
ほとんど不可能に近いものがありました。
ピッチャーが投げたボールをピストルで撃ち落せ、
見たいな話になってくるからです。
なので複数の砲によって多くの弾を撃ちだし
弾幕を張り、その中に飛び込ませて撃墜する、というのが普通となります。

そうなると、各砲がバラバラに射撃していたのではどうしようもありません。
なので、この射撃管制装置内部に指揮官が入り、ここで対空砲を一元管理したのです。
ここから、一つの機体に対して指揮下の全砲門が集中射撃するように、
方位、角度の数字を各砲塔に伝達、集中砲火を浴びせていました。

上にレーダーアンテナがある以上、当然、照準はレーダーで(ただし手動)、
その精度は当時としては驚異的なものがありました。
アメリカ海軍によると、1944年に当時の新型レーダーに切り替えられた後は
近接信管とあわせ1000発で一機撃墜できる、としています。

1000発で1機ですか、と思っちゃいますがこれはスゴイ数字で、
バトル オブ ブリテン 時のイギリス対空砲部隊は
平均18500発(笑)撃って一機撃墜でした。
さらに、同じようなレーダー誘導射撃を行なっていた
ドイツの対空砲部隊でも1942年に3343発でようやく一機撃墜とされてます。
もっとも、こちらは双発以上の大型爆撃機ばかりなので、
1発だけではなかなか落ちなかった、という可能性もありますが、
その代わり直線飛行で派手な退避行動をしない爆撃機相手ですから、
やはり見劣りがする数字と考えていいでしょう。

ただし、実際に1000発で1機が実現されたかはデータがないので(笑)、
あくまでアメリカ海軍の主張する数字となりますが…。

ちなみに小型の航空機に狙いをつける火気管制レーダーは
より高周波のレーダーが必要で技術的なハードルも高いのですが、
これも開戦前にアメリカは開発のメドをつけており、
1942年ごろから各艦に搭載され始めます。
やはりこんな国と戦争やっちゃだめでしょう。

とはいえ、戦後のジェット機時代に
果たして1940年代の5インチ砲と射撃管制装置が
どれだけ使えたかは疑問です。
戦後の改修で数を減らしたとはいえ、片側6門、計12門も積んでいたのは
撤去する方が大変だったからか、という気がしなくもありません。


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