■アメリカの光と電気



お次は革命の点灯、といったタイトルの展示。
その名の通り、本来はエジソンと電球の展示だったと思われるのですが、
現状は20世紀初頭までの電化製品、
さらにはなぜだか各種蒸気機関までが、ここで展示されてます。



当然、とばかりにそこに置かれているエジソン閣下の胸像。
が、これも謎が多いシロモノで、ごらんのように極めて若い時の像であり、
説明によると1878年の製作となってます。

となると彼はまだ31歳、メロンパークの研究所を作った直後です。
すでにいくつかの発明で大きな収益を得ていたものの、
まだまだ無名だった時代のものと言っていいでしょう。
よって、あの有名なエジソンさんの胸像を造ろう、
アメリカの偉人、エジソンさんを記念しよう、
といった過程を踏んで製作されたものとは思えません。

ついでに、よく見るとローマ風のトーガを着てますね。
これは当時の西洋人が自分の知性をひけらかすのによく使った表現で、
後に第二次大戦中、ドイツの国家元帥(笑)、
ゲーリングが自宅ではトーガを着ていて関係者の
失笑を買ったのはよく知られています。
まあ、あまり誉められたセンスではないわけです。
(ちなみにゲーリングはマニキュアつけて化粧までしてた。
かと言って同性愛者ではなく、単なる薬物中毒のナルシストらしい)

でもって、この胸像はPhrenological society に寄贈されたものとなっている。
Phrenological ってなんだと辞書を引いて見ると骨相学だそうな。

骨相学(笑)?
…どうもなんだか怪しいと思って調べて見ると、
これは頭蓋骨の形で人間の知能が特定できる、
という血液型占いみたいな“学問”だそうで、
大脳生理学が発展する前、19世紀頃まで盛んだったものだとか。

そんな妙な学問の協会とエジソン閣下が
どんな関係にあったのか知りませんが、
頭蓋骨の形で天才か否か、精神的に高尚か否かが判る、
と主張する連中に、自分の頭の付いた像を贈るというあたり、
どうも強烈なウヌボレの匂いがしなくも無く…
ちょうどプチ金持ちになって、自尊心の満足に
困らなくなった時期ですしね。

まあ、この人もあまり人間的には誉められた人じゃないんで、
とりあえず胡散臭い感じがしますねえ…。



そのエジソンにおける最大のヒット、電球の開発の過程で、
(後で見るように厳密には発明とはいえない。彼の独創ではないのだ)
発光部のフィラメントに、色んな材質が試されたのはよく知られた話。
これは初期に試された、そのさまざまな素材たちです。

一番上の左端はサルの胸の毛で(笑)、その左右は麻のヒモ、
その下は様々な植物や紙を利用したもの。

…サルの胸毛が電球に最高、となっていたら、人類の歴史は
イロイロ変わっていたかもしれないなあ。
サルの胸毛牧場が広がる広大なアメリカの中西部とか、
君の髪はサルの胸毛のようだね、とクラーク・ゲーブルが
女性を口説く1930年代の映画とか。
いや、なんかちょっと見たい気もするな…。

で、有名な竹製のフェラメントが4段目より下全部で、
さらに一番下には輪切り竹にされた竹と、竹ヒゴのように
これを細くしてフェラメントに加工する過程が展示されてます。

ちなみに、実験段階で使われたのは
日本の京都の竹だと聞いたことがあるのですが、
ここの展示で見る限り、そういった説明は一切ありませんでした。



こちらは初期の電球の展示。
ちなみに真空にしたガラス球の中でフィラメントを発光させる、
というアイデアは後で見るようにイギリスのスワンが最初に開発したもので、
エジソンによるものではありません。

よって当時、エジソン以外の手によってさまざまな電球が作られていました。
ここに展示されてる電球のうち、
3と4、そして11以外は、全てエンジンソンとは別の発明家や
会社が完成させていたものです。

特に2番の電球を発明したイギリスのスワン(Joseph Swan)は
真空のガラス球、そして電気によるフェラメントの発光という
基本構造で1878年、エジソンより1年以上早く実験に成功しています。

エジソンはスワンの実験内容を知っていたとされますから、
彼は電球を発明したというより工業製品として軌道にのせた、
というのが正しいところかもしれません。
(ちなみに大量生産した電球を売るために
エジソンの会社は発電設備の開発を始め、
これがタービンの開発につながり、
後にGE(ゼネラルエレクトリック)社となった後、
それが排気タービンとジェットエンジンの開発に繋がる。
風が吹くと桶屋が儲かる可能性はゼロではないのだ(笑)…)

ちなみに、両者の特許取得は1880年になってからほぼ同時で、
この結果エジソンの人生ではおなじみの(笑)、
特許をめぐる訴訟合戦が行なわれたようです。
ここらは、いろいろグダグダなので、ここではこれ以上触れませぬ。
(一応、最後には和解してるが…)

ちなみに、アメリカ企業の典型的な思想、
話し合いの決着や合法化を待つより、違法でもやったもん勝ち、
利益に比べれば訴訟必要なんざ必要経費だ、
という考え方のルーツはどうもエジソンのような気がしますねえ…。

そして当然のごとく、アメリカのスミソニアンの展示では
スワンの存在はほとんど無視されてました(笑)。



こちらは電球のその後の発展について。
さすがにマニアック(?)過ぎて特に書くことがありませぬ。

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