■レーダーでやる戦争II
まずはこれ。
砲塔のような構造物の上にパラボラアンテナのレーダーが載っていますが、
これがアメリカ海軍が第二次大戦中から使っていた
対空用 MK
37 射撃管制装置(Gun Fire Control System)の
射撃指揮所(Gun
directer)部分です。
ここにレーダー関係の装備を積み、対空戦闘の責任者が乗り込んでます。
この射撃指揮所と艦底に近い場所に置かれたMark
I アナログコンピュータ、
そして各砲塔に射撃タイミングの指示を与える装置、
これらが全部セットになって、対空用のMk.37射撃管制装置となっています。
余談ですが、Mk.I
アナログコンピュータのメーカーは
フォード機材(Ford
Instruments)という
会社なのですが、自動車のフォードとは、さすがに別会社のようです。
アメリカ海軍で5インチ砲を積んでる艦には、必ずと言っていいほど
積まれているのが、このMark37対空射撃管制装置となりますから、
アメリカ海軍、第二次大戦後半、1943年以降になると、
駆逐艦にまでレーダーとアナログコンピュータによる
近代的な対空装置を搭載させいてたわけです。
さらにその後はレーダー信管、目標までの最適距離で
自動的に爆発して損傷を与えるVT信管と組み合わされ、
その対空防御能力は極めて大きくなって行きます。
私だったら、こんな連中とは戦争したくないですね…。
ただし、この艦に積まれているのは、
パラボラアンテナのMk.25レーダーを搭載した1950年代中盤以降の型です。
当初、USSカッシン ヤングには初期のMk.12+Mk.22の
旧型レーダーが積まれていたはずなので、
1950年代に何度か行なわれた改修で
レーダー部分が取替えられたのだと思います。
とはいえ、レーダー以外の本体はおそらく大戦期の状態のまま、
艦内の管制用コンピュータもMk.1アナログコンピュータが残ってるはず。
ついでに、この射撃指揮所の左右に
カバーの付いた突き出した部分がありますが、
あの中には万が一、レーダーが故障した場合用の測距儀が入ってます。
これは目視で敵の距離、方位を求めるものですが、
誤差が大きいため、目標が小さくて、そのくせ正確なデータがないと
当たらない対空戦闘では、気休めにしかならなかったと思います。
さて、なんでこんな射撃管制装置のが必要なの、というと、
対空戦闘の場合、高速で飛来する敵機に対して、
バラバラに砲撃を行なっても、まずもって当たりっこないからです。
これはピッチャーが投げた球を拳銃で撃つようなもので、当たる方が奇跡でしょう。
本気で叩き潰すなら、マシンガンのように、
連射して、一定空間に弾を満べんなく送り込まないとダメです。
よってこのレーダーと連動した射撃管制装置の指示にしたがって、
5門積まれている5インチ砲が同時に、同じ目標に対して一斉射撃を行ないます。
ただし、レーダー単独では距離、方位(間接的に)はわかっても、
目標の高度と速度、そして進行方向の数値を
即座に出すのは難しいものがあります。
さらに目標の未来位置の予測を立てないと、いくら撃っても当たりませんから
(現在位置に撃ち込んでも、弾の到達までに敵は移動してしまい当たらない)
レーダーがあっても宝の持ち腐れとなります。
よって、それらのデータを処理して、正確な射撃に必要な情報をはじき出す
アナログコンピュータの存在が必須となるのです。
レーダー単体だけでは、射撃管制には全く役に立たない、
というのは意外に見落とされがちな事実なので、
気が向いたら覚えておいてください(笑)。
ただし、敵を発見するだけの警戒レーダーなら、それは必要ありません。
ちなみにアナログコンピュータというのは、
電気を使わない歯車式コンピュータの事ではありません。
データをデジタル(数値)化せず、純粋に物理的な方法、
回転する円盤などを使って、そこから微積分などの計算をやるものです。
対して歯車式の手回し計算機、あるいはソロバンなどでは、
一度すべてを数字(Digital)情報に直してから入力ます。
当然、その答えも数字で出てきますから、
これは立派なデジタルコンピュータ、直訳して数値計算機なのです。
例えば、この円盤が角速度1.5π/sで回転すると
日没までには何回転しますか、という問題を解く場合、
デジタルコンピュータでは、円盤の大きさを測って、
日没までの時間も計算し、その数字を使って計算します。
まあ、当たり前といえば当たり前。
が、アナログコンピュータの場合、問題を計算で解くのではなく、
実際に円盤をその速度で夕暮れまで回し、
答えを得てしまえ、という世界です。
まあ、微積分の問題を解くアナログコンピュータの構造は
さすがにもう少し複雑ですけども(笑)。
そんなアナログコンピュターですから解答も数値では出てこないのですが、
(ペンで書かれたグラフの形で出力されるのが普通)
ここら辺りの処理は、いろいろ工夫があったようです。
当然、今回はそんなとこまで脱線する気はありません(笑)。
ちなみに、なんか原始的と思ってしまうかもしれませんが、
太陽系や地球と月などをアナログコンピュータと見なすと、
人類が数学を使って完全な正解を得ることが決して出来ない
多体問題などを、あっさりと一瞬で解いてしまいます。
まあ、解答を読み取るのが一苦労ですが、
バカにしたもんじゃないんですよ(笑)。
で、アナログコンピュータは構造上、振動に弱いため、
通常、揺れが最も少ない艦底部に置かれており、
そこにレーダーからのデータを渡して、計算を行なってもらうわけです。
射撃は各砲門で手動で行ないますが、それはこの指揮所から出る
射撃指示に従って撃つもので、各砲塔では指示された数字にあわせて
砲塔をセットし、撃ちまくるだけであり、目標はもちろん、外すら見てません。
(実際の指示データは指揮所ではなくアナログコンピュータから送られる)
よって対空、対潜水艦戦闘が主となる駆逐艦においては、
これは極めて重要な部分で、船体が全く無傷でも、ここが故障してしまうと、
艦の戦闘能力は失われ、ほとんど役に立たない事になるのです。
さて、お次はその上に見えてるレーダーアンテナ軍団。
一番下は、上で紹介したMk.37の射撃指揮所とレーダーです。
注目は一番デカイ、魚の焼き網型アンテナの対空警戒レーダー。
ベッドスプリングとよばれる
このタイプは第二次大戦期駆逐艦に積まれていた警戒レーダー
SC系の発展型だと思われます。
対空防御が主要任務の一つだったアメリカ駆逐艦には、
かなり早くからこの手の対空警戒レーダーが積まれ、
レーダー警戒網(radar
picket)艦として空母機動部隊の目として
活動する事になるわけです。
ちなみに、これは見方を変えれば、高価な戦艦や空母の
盾になれ、という事でして、極めて危険な任務であり、
実際、USSカッシン ヤングもその任務中に神風攻撃を受けてるわけです。
ただし、なにせ資料がないレーダー関係なので(涙)、
このレーダーの詳細な形式名は不明。
大戦中のSC1〜SC3よりアンテナが大型化してるので、
戦後改修のものだと思いますが…。
とりあえず警戒レーダーですから、精度はイマイチですが、
双発機が相手で、高度1000フィート(約305m)以上を飛んでいれば、
約75マイル(約121q)の距離から探知できた、とされます。
これは大戦期のSC型の性能ですから、
戦後の改修型はもっと高性能だったはず。
その上の黒い棒は、これも詳細不明ながら、
悪天候や夜間でも僚艦や陸地に衝突せず
航行するための航海用レーダーじゃないでしょうか。
その奥、マストの一番上にある湾曲したアンテナは
おそらくAN/SPS-10
対艦用 中距離警戒レーダー。
これも1950年代半ばのレーダーですから、改修後のもの。
あくまで、敵を発見するためのもので、
精度的に砲撃や魚雷の射撃管制などは厳しいです。
で、一番下のVHF用らしきアンテナは、多分、位置からして
近距離(〜50q前後)の無線用だと思います。
こうして見ると、この艦に対艦戦闘用の射撃管制レーダーはなく、
あくまで対空、対潜水艦が主任務なんだなあ、と分かりますね。
といった感じで、年代モノのレーダーを見れて、ちょっと満足なのでした。
ついでに、このレーダーマスト周囲を破壊するだけで、
事実上、この艦は戦闘能力を全く失ってしまう、
というのがよくわかります。
これを失うと、おそらく本国に帰って改修しないと復帰不可能でしょう。
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