■駆逐艦の戦い方



さて、では他の装備も少しだけ見ておきましょうか。

まずはアメリカの駆逐艦の主砲、
そして戦艦などの対空砲としておなじみ、5インチ38口径砲。
いわゆる5"/38 Gun ですね。
cm単位で言うなら12.7cm砲ですから、高射砲として考えた場合、
同時時代のドイツの8.8cm砲などより強力だ、という事になります。
実際、最大射程距離は16q、到達高度は11000mの性能を持っていました。

フレッチャー級の場合、写真のような単装状態で計5門積まれて居ます。
対空砲の場合、数で勝負という部分がどうしても出てくるので、
ちょっと少ないな、という印象ですが、この点は後で考えましょう。

で、この砲の中にいる人たちは指示された通りに砲塔の向きを変え、
さらに砲の俯角を取り、あとは砲弾を装填するまでが仕事でした。
後は例の射撃指揮所に居る対空戦闘指揮官が持つ
電気式トリガーで一斉発射されたはずです。
ただし非常時には各砲塔からも直接射撃は可能だったと思われます。

それでもこの砲塔内だけで9人、
下にある操作室(Hndling room)まであわせると
1門につき、実に23人もの人数が配属されていたとか。
それによって、4秒に1発の発射を可能にした、とのこと。

この発射速度、ちょっと遅い気もしますが、実際はどうなのか。
先ほどの5門で足りるのか、という点とあわせて考えてみましょう。

まず当時の攻撃機(艦爆、艦攻)は低空でも時速350q前後は出ますので、
1秒間に約100m、4秒間だと約400mずつ接近してきます。
最大射程の16q先から撃ちまくれば、爆弾や魚雷を投擲するまで、
39回は一斉射撃が出来る、という計算になりますから、
可能な総発射弾数は195発前後です。

参考までに、1945年の段階で、
イギリス軍が採用した本土防衛用のレーダー対空砲火システムが
ドイツのV-1飛行爆弾を撃墜するのに平均150発ほどの
砲弾を使用した、とされています。

となると理想の射撃状態、最大距離から撃てる、1機のみの接近、
といった条件がそろえば、ほぼ確実に撃墜できそうだ、という事ですね。
よって十分脅威となる、と考えていいでしょう。
ただし複数で、異なる方向から侵入、といった対策を取られると、
必ずしもこの限りではありませんが…。

ちなみに写真は前部2番砲塔で、
上になにか折りたたみ式の足場のようなものが見えます。
初めて見たもので用途不明ですが、
荷積み用クレーンの土台ですかね。



さて、お次は魚雷。

駆逐艦の豆鉄砲のような主砲で、戦艦や巡洋艦といった
頑丈な装甲を持つ敵に抵抗するのは極めて困難です。
が、水面下から強烈な衝撃波を使って一気に装甲を圧壊できる魚雷なら、
駆逐艦でも戦艦、巡洋艦に立ち向かう事が可能で、
ある意味、駆逐艦の必殺技がこれとなります。

高速で動ける駆逐艦は、敵の主砲攻撃をかわして一気に敵に近づき、
雷撃によって巨大な敵に致命傷を与える、という事も考えられていたんですね。
もっともよほど近距離から撃たないと、
まず当たらないんで、あくまで一種の保険みたいなもんですが(笑)。

当然、このまま発射してのでは煙突に当たってしまいますので、
これは横向きにしてから発射します。
先端部の折りたたみ部分は、その時にはめ込まれるのでしょう。

この艦に積まれているのはMk.15魚雷の5連装発射装置です。
上についてるガスタンクみたいなとこに操作員が乗ってますが、
これも主砲と同じくあくまで操作員で、発射を行なう指揮官は別の場所に居ます。

ちなみに改修前、第二次大戦から予備艦時代にはもう1基、Mk.14魚雷用の
発射装置もあったのですが、この艦が朝鮮戦争時に復帰、改装された際、
もう魚雷戦の時代でもないよね、という事であっさり外されてしまったのでした。

ついでに対潜水艦用魚雷の発射装置もあるはずなんですが、
今回は見つけられず。小さいんですよね、あれは。



でもって、帰国後、写真を見ていて初めて気が付いたのですが、
この艦、魚雷指揮装置を搭載したままになっていて驚きました。
煙突の後ろ、矢印の黒いカバーのものがそれで、これも初めて見ました。
できればカバー外しておいて欲しかった…。
カバーの上からなので断言できませんが(涙)、おそらく戦後に採用された
MK.27魚雷指揮装置(mark27 torpedo director)だと思います。

右下に見えてるのがMk.15魚雷発射装置ですから、
その斜め上の、ちょっと視界がいい場所にあるわけです。

この魚雷指揮装置によって敵艦の未来位置予測と、
その位置(衝突点)に向けて突っ走って行く魚雷の速度、
撃ち出し角度の計算などをします。

その後、それにあわせた魚雷の設定を行い、
(魚雷本体の調整は発射管の上の操作員が行なったはず)
後は発射のタイミングを待って、ここに居る指揮士官が
引き金、電気トリガーを引きます。

ちなみに、その計算に必要な敵艦までの距離、その方位、速度などのデータは
レーダから読み取ってCIC(Combat Information Center/戦闘情報室)
経由で、電話により、ここに伝えられます。
ただし対艦戦闘用の射撃管制レーダーがないのですが、
雷撃は基本的に近距離なので(でないとまず当たらない)、
対空射撃用のMk.37管制装置を使ったと思われます。

余談ですが、CICというのは第二次大戦から朝鮮戦争辺りまでの
旧式の艦内装備のことだそうで、
今時の艦でCICなんて言わないぜ、とこの5日後、
マッカーサーに1年遅れで日本に行ったという
元海軍のおっちゃんから教えられる事に…。

ついでに、よく見ると、その前方に40mmボフォース対空機関砲と、
それ用のMk.51指揮装置(煙突手前の黒いカバー)が見えてます。
うーん、やっぱり乗船してみたかったなあ、この艦…。

ついでながら、この40mmボフォースは7000m、
実に7q以上の射程距離を持ちます。
これは敵機を迎え撃つには心強い性能ですが、
実は並走する艦隊の僚艦に対しても余裕で届いてしまう、
という数字でもあるのです。

通常、雷撃、あるいは特攻を目的に
水面ギリギリで突っ込んでくる敵機に対し、
各銃座は半狂乱のように撃ちまくります。
(基本的にはこれも専用の射撃指揮所からの指揮は受ける)

この時、水平方向にボフォースの40mmがバンバン飛んでゆく結果、
向かい側に居る僚艦の乗員をなぎ倒してしまう、
というった悲劇もかなり起こっていたようです。
記録によれば、このUSSカッシン ヤングも
一度、そういった被害によって死傷者を出しています。

さらに余談ですが、戦艦すら沈める魚雷を甲板の上に複数並べる、
というのは駆逐艦の最悪の弱点にもなったようです。

大戦当時のアメリカ海軍パイロットの報告で、
12.7mm機関銃の掃射で駆逐艦を沈めた、という話を見た事があります。
おいおい、バカも休み休み言え、と思ったんですが、
どうも甲板上の魚雷を撃ち抜いて誘爆させてしまったらしく、
撃ったパイロットも12.7mmの掃射中に大爆発が起こって
かなりビックリした、といったような事を書いてました。

駆逐艦の場合、艦内設備が狭く、置く場所が無い、という悲劇でしょう。
このフレッチャー級も、この発射装置と、
その下の狭い空間があるだけで、その下は煙突とボイラーになっており、
魚雷を収容するような空間はどこにもないのです。

12.7mmで沈められちゃ、たまったもんじゃないですね…。



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