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今回は戦前から存在するスポーツカー(Sports car)と、1950年代以降、ヨーロッパを中心として産まれたGT車(Gran turismo car)を見て行きましょう。 両者の違いは厳密なものでは無いのですが、スポーツカーは戦前から存在した、高性能で高速を求めたのと引き換えに日常使いを犠牲にした車、対してGTカーは戦後、1950年代からヨーロッパで流行した車種です。高性能に加えて高級で贅沢な装備を持った車、という所でしょうか。 最初にGTを名乗ったのはランチャ社が1950年に発売を開始したちょっと高級なイタリア車、アウレリア(Aurelia)だと思われます。V6エンジンを最初に搭載した事で知られる車ですが、その車種展開の中でGTというグレードを用意していました。これは通常の4ドアセダンではなく、専用に設計されたクーペ型の2ドアボディに通常型の70hpよりやや強力な75hpエンジンを搭載した車でした。そしてこの車以降、一般車より性能が良い車にGTの名を付けることが流行します。 GTの由来となるイタリア語、Gran turismo は貴族や金の持ちの子弟が行っていたヨーロッパ全土巡回旅行の事なので、いかにも歴史がありそうな名ですが、実際は1950年代に入るまでこの名称は存在しなかったのです。まあ金持ちが快適に長距離を走り回れる車、といった意味なんでしょうが、なんでこんな名称を引っ張り出して来たのかはよく判りませぬ。まあ、この点に深い意味は無いので、考えるだけ無駄でしょう。 ![]() ![]() 戦前に造られた二座席で馬鹿みたいな強力なエンジンを積んだ高性能かつ高級な装備の車たち、フランスのブガッティの57C型(上)、アメリカのコードの812 S型(下)等は、いかにもGT車という車種ですが、この時代にGT車というジャンルは存在しないので、スポーツカーという事になるのです。 ![]() 対して戦後、1954年に発売開始となったメルセデスベンツの高級2座車、300SLはすでにGTカーというジャンルが存在していたので通常、GT車に分類されます。じゃあ高級感のある高性能車がGTカーなのか、といえばフォルクスワーゲンの大ヒット作、ゴルフの高性能型として登場したゴルフ GTI(Iは燃料噴射装置Injectionの頭文字)に至っては大衆車にちょっと高性能なエンジンを積んだだけの車、高級感なんざひき逃げした挙句に海に沈めたような車でした(いわゆるシビックタイプR系の元祖、ホットハッチの始祖だ)。 ![]() 日産 スカイラインGT-R。その名の通り、これもGT車です。初代GT-Rはスカイラインからの改造車だし、事実上、独立した構造の車種だった写真の32以降のGT-Rも34型までは大衆車であるスカイラインの高性能型の扱いでした。完全に独立した車種となった35型も高価で高性能ですが、高級車かと言えば違うでしょう。キレイなお姉さんをお誘いしベンツのSL型で迎えに行ったら喜ばれますが、この車で乗り付けたら半分は走って逃げると思いますし。 とりあえず結論を述べてしまえば、この辺りの分類は厳密なものでは無い、という事になります。走行性能を重視した車がGT車、それの古いタイプ、あるいはホントに日常使いが不可能に近いような高性能市販車がスポーツカーってな感じですかね。 よって、本稿ではほぼ筆者の気分で分類して行きまする。 ![]() MG ミジェット タイプ TC(MG Midget Type TC) 1947年型。 戦前の1936年から発売が開始されていた大衆向けの小型スポーツカーがMG社のミゼット T型です。戦後1955年まで生産が続く大ヒット作となりました。ちなみに初代T型(後にB型が発売された後、TA型と呼ばれるようになる)の価格は222ポンドで、安価ではないものの当時の大衆車と大きく変わらない価格で買えるスポーツカー、という存在でした(当時のちょっと上級な大衆車、モーリス10、ウォズリー10などの上級バージョンで250ポンド前後だった)。 もともとMG社はP型と呼ばれる小型で比較的安価なスポーツ車を製造していたのですが、これは1934年から2年間だけ製造して終わりになっています。それを引き継ぐ形で登場したのがT型となります。こういった手軽なスポーツカー系譜の末にあるのがマツダのロードスターでしょう(今では価格面も含めてちょっと違う方向性に行ってしまったが)。 ちなみに以前も述べた通り、Midgetはあまりいい意味の単語ではないのですが(チビと言った侮蔑から奇形まで指す言葉)、まあイギリス人ですから、普通に頭おかしいんでしょう。恐らくダイハツが自社の小型三輪車にミゼットの名を付けたのはこの小型スポーツカーの影響じゃないかと思ってるんですが、この点は確証無し。 戦前の設計らしく背骨式のシャシ―の上に車体を載せる構造の2座式のオープンスポーツでした。1936年に発売を開始、TA, TB, TC, TD, TF型が存在。なんでE型のみが飛ばされたのかはよく判らず。スポーツカーとしてほぼ同じ設計のまま20年以上、しかも一気に技術が進化した戦間期を跨いで製造、販売され続けた人気車でした。最終的に5万台を超える車が造られたと言われています。 1936年に発売された最初のTA型は直列4気筒、1292ccのエンジンで50hpを出し、最高速度で130q/hを達成したとされます。同世代と言っていい超高級車、メルセデスベンツ500Kが直接8気筒、5000cc、160hpを出しながら160q/hしか出なかった事を考えるとかなり優秀な数字でしょう。この辺りは車両重量が大きな原因で、メルセデス500kが2.25tに対し、ミゼットTA型はわずか0.8t、1/3近い重量しかありませんでした。ただし足回りは貧弱なので、おそらくこの手の安くて速度が出る車の伝統、直線番長系の車だったと思われます。あと事故ったら無事じゃ済まない構造でしょうね、この軽さ。 ![]() 展示の車両は終戦直後、1945年から生産を開始されたTC型。TB型に次ぐ三代目ですが、B型は大戦直前の1939年5月の発売となったため、戦争の影響で379台のみの製造で生産が打ち切られてしまっています。 対してC型は1950年まで5年間製造され、T型の中では最も長く、そして最も多くが生産された型となりました(10001台)。ただしその内容はほぼB型と同じで、エンジンが強化され直列4気筒1250ccながら(A型より僅かに排気量は小さい)、54.5hpを出しています。 ちなみに右ハンドル仕様しか無かったにも関わらず、かなりの数がアメリカ、カナダに輸出されています。それまでまともなスポーツカーの無かったアメリカで、しかも右ハンドル、1250ccのエンジンしかない車が受け入れられたのはちょっと驚きですね。 ![]() 後ろから。こういった小型スポーツカーが個人的には大好きで、いい感じだなあ、と思いまする。 このデザインで1955年まで販売が続けられた、というのも驚きですね。 |