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![]() アメリカの独立系自動車製造会社、コード社の812 S型(Cord Model812 S)。その存在をここで初めて知って驚愕した車です。なのであまり偉そうなこと言えないものの、現地の解説板では単に812となっていますがスーパーチャージャー付エンジンだから、812Sでしょう、これ。 1936年から37年まで、わずか2年間だけ製造された高級車で、2900台前後の生産で終わりました。ちなみに1936年の製造型が810、1937年の製造型が812と名称が異なりますが、事実上、同じ車のようです(まとめて810シリーズと呼ばれる事が多いらしい)。さらにスーパーチャージャー搭載エンジンのモデルがあり、これらは名称のケツにSが尽きます。ちなみに今回は見かけませんでしたが、この博物館は無印の810も持っているらしいです。 とにかく先進性の塊だった車で、日本語(笑)で言う所のリトラクタブル ヘッドライト、英語で言うポップアップ(Pop-up)ヘッドランプ(または隠し(Hidden)ヘッドランプ)、すなわち点灯時以外は車内に畳みこまれる収納式ヘッドランプを世界で最初に搭載した量産車でした。1936年にですぜ。日本じゃ226事件とかやってた年ですぜ。 さらに言えばアメリカで最初の前輪駆動(FF)車で、速度変更が可能なワイパーを搭載した最初の車でもあり、さらに1930年代に標準装備として車載ラジオを搭載した数少ない量産車の一つでもありました(通常はオプションの追加有料装備)。ついでに給油口がロック可能で(勝手に外から開けられない)、これも世界初だった説アリ。 ちなみにお値段はスーパーチャージャー無しの最安値で約2000ドル。1934年にデビューしたフォードのV8エンジン搭載大衆車、フォード18型が約500ドルだったのでざっと4倍の値段の車でした。最終的に会社が倒産、生産も終了するのですが、発売不振よりも先進的過ぎて製造が困難だったため、まともに量産ができず自滅という状況だったらしいです(月産1000台を予定していたが初年度の1936年を通して1170台しか造れなかった)。実際、1935年のニューヨークモーターショーで発表された時はあまりに人が集まって見るのも困難なほどの大人気だったとされます。惜しいなあ、と言うほかありませぬ。 ![]() スーパーチャージャーモデルはベンツの500Kと同じような排気管が飛び出すデザイン(パクった?)なので、見分けは容易です。ちなみに4700ccのV8エンジンにスーパーチャージャーを搭載した結果、170hpを叩きだした、とされており、この数字を見ても例のベンツの500K、やはりそれほどの物では無いんですよ(直列8気筒 スーパーチャージャー付き5000ccで160hp)。既に自動車でヨーロッパの時代は終わりつつありました。 ちょうど航空機でもヨーロッパとアメリカの技術的先進性が逆転するのが1930年後半あたりなんですが(ただし実際の機体で逆転するのは1940年代に入ってから)、既に自動車でもこれだけの差が付きつつあったんですよね。 ちなみに排気管の下にあるフィンは単にオサレさんで、このままフロントグリルまで繋がっています。すなわち冷却用とかではありません。 でもってこの排気管、どう見ても前輪カバーの中に飲み込まれているんですが、この下に排気管があるんですかね。あるいはここから配管が車体後部まで伸びている?いずれにせよ、あまり他では見ない設計です。 ![]() 御覧のようにチョー未来な形状で、これが不忍通りの向こうから走って来て、運転手は全身銀色タイツで、22世紀から来ました、実はドラえもん造ったのと同じ会社の製品なんですよこの車、とか言われても恐らく信じてしまうと思います(私だけ?)。これ見た後に、前ページのロールスロイスとベンツを見れば、どれだけヨーロッパの車が時代遅れな設計だったかがよく判るかと。ちなみにこの特徴的なボンネット周りは棺桶鼻(コフィンノーズ)と呼ばれていたそうな。 余談ですが収納式ヘッドライト、なぜか日本人は大好きなんですよね。リトラクタブルライトとかいう変な和製英語を造っちゃうし、先代の京成スカイライナーは恐らく人類史上唯一の収納式ヘッドライトを搭載した電車でしたし。ちなみに私も大好きで、法律的な問題もあって今ではほぼ製造されていないのが死ぬほど残念です。 |