当然、後輪にもなるべく余計な気流を当てないようにしたいので、こういった空力部品がゴチャゴチャと取付けられる事になります。 この場合、それに加えてリアウィングにきれいな気流を流すようにしてるのだと思いますが、その辺りはもう素人には想像ができない世界となりますね。 ちなみに排気管は集合管で二本排気のものがカウルの上に出てます。 上に出すのは車体下面で低圧部を生み出す高速気流の流れを乱したくないからでしょう。 ただしこの位置だとリアウィングに排気がモロにぶつかります。マフラーを挟まない直結集合排気管の排気速度のデータを見たことが無いので断言はしませんが、爆音を伴う排気ですから間違いなく衝撃波を伴っており、すなわち部分的には超音速気流です。 しかもパルス衝撃波でエライややこしい気流になってるはず。なのでこれをリアウィングにぶつける構造って、どう考えてもロクな事が無いはずで、やめた方がええんとちゃうかしら、と私なんかは思うんですが。この時代は排気タービンもなく、直に強烈な排気を噴出してるわけですし。この設計、当時としては何か狙った効果があったのかもしれませんが、私なら避けますね。 実際、2020年現在のF-1の排気管はリアウィングの支柱下に回し、その排気をなるべくそのまま後方に流すようにして、他の部分に気流が干渉しないようにしています。 さあ、今回も脱線だ(笑)。 超音速戦闘機のジェット排気口が可変式であり、絞り込んで細くすることも完全開放できることも当サイトの読者の皆さんならご存じでしょう。写真はF-15の排気ノズルを最大解放した状態です。 ジェット噴流が機体に及ぼす力の反作用で前進するのがジェット機ですから(ターボファンは厳密にはちょっと違うけど、ここでは単純化のためにターボジェット部を対象として考える)、吹き出す噴流の力が大きくなるほど速力は上がります。 力を生じさせるには必ずエネルギーが必要で、この場合は噴流の運動エネルギーが機体に対して仕事をして力を生じさせています。よって運動エネルギーが大きい方が生じる力も大きくなり、機体速度は上がるわけです。運動エネルギーは質量×速度×速度×1/2ですので、ジェット噴出速度が上がるほど力は大きくなります。でもって噴流は流体ですから、通過する断面積を絞り込む方が速度は上がるわけです(ホースの先を絞ると水がより高速で遠くまで飛ぶのと原理は同じ)。 よって、高速飛行になるほど、エンジン排気口は細く絞った方が良く、このため戦闘機のジェットエンジンは排気口を細く絞り込めるような構造を持ちます。 が、それはあくまで排気速度が音速以下の時のみです。超音速飛行を行うためにアフターバーナーに点火し、ジェット排気が爆音の衝撃波を伴う超音速気流になった後は、逆に最大解放にしないとまともに推力が出ませんし、最悪、エンジンが破壊されます。この辺りの原理は省きますが、とにかく超音速気流になったら、排気口を絞り込むのは無意味、むしろ害がある、と思ってください。 現代の戦闘機の離陸はアフターバーナーの点火が大前提ですから、動画サイトなどで見てもらえば、離陸時のジェット排気口は最大になっているのが見て取れるはずです。 でもってこれはジェット戦闘機だけではなく、レシプロエンジン、シリンダーとピストンでプロペラエンジンを回していた時代にすでに問題になっていたのでした。以下の写真は左がスピットファイアの最終世代Mk.24の排気口、右が初期世代のMk.V(5)の排気口です。 お判りいただけたでしょうか。 左が最終的な世代の排気口で丸く円形で大きく開いてます。対して初期の右の排気口は細く絞り込まれた、いわゆるフィッシュテイル(尾びれ)型で、しかも集合排気管であり片側6気筒に対し3本しか出てません。 当時の航空エンジンの排気はかなりの力があり、排気タービンを挟まない場合、これを後方に向ける事で一定の推力になることが期待できました。だったら流速を速めてより強力な推力を生むようにと、当初は右のような絞り込んだ形状にしてたのです。ところが思ったほど効果が無く、場合によっては乱流によって速度が落ちていた可能性もあります。 なぜか、と言えばマフラーも排気タービンも噛まさないエンジン排気は爆音の衝撃波を伴う超音速排気ですから、排気口を絞りこんではダメだからです。 その辺りにいつ、誰が最初に気が付いたのか未だに資料が見つからないのですが、イギリスは排気口を絞りこまず、さらに可能な限り直線で排気した方が効果がある事にやがて気が付き(第二次大戦期の衝撃波研究の最先端はイギリスだった)、左のような各シリンダから直線的に、そして最大直径の排気口で排気するようになりました。この辺りの歴史を追いかけるといろいろ面白いんですが、またいずれ。 よってF-1の排気菅が太くて単純な円形なのは極めて正しい形状となります。ただし2014年以降は再びターボチャージャーが入って排気のエネルギーを奪うようになったので、そう単純な話ではないんですけども。 ちなみに、より新しい世代のP-51などはエンジンをマーリンに積み変えた直後から円形の直結排気管を使ってます。おそらく、この時期になんらかの発見があったのでしょう(ただしイギリスで造られた最初の試験型マーリン搭載ムスタングは集合管では無いもののフィッシュテイル排気管)。 はい、以上で脱線は終わりです。 1980年代以降のF-1の床下は、例の規則の適用外となる後輪の後部では強い角度で上に跳ね上げられてるのが普通です。 これが床下の負圧対策のキモで、恐らく二つの効果を狙っています。 まず一つめは機首部の持ち上げと合わせ相対的に床板と地面の空間を最も狭くしてベンチュリー管のような断面を作り出し、床下部の流速を高速にすること。 そしてもう一つはリアウィング下面の低圧部に床下の気流を吸いださせる事です。 航空機の主翼と上下逆に取り付けられたリアウィングの翼断面では下側に低圧部が生まれ、周囲の空気を吸い込みます。これを狙って床板をウィング真下の位置まで跳ね上げ、リアウィング表面の低圧部を利用し床下の流速を加速させます。床下の気流の流速が速いほど、接地圧を生み出す負圧は大きくなりますから、このリアウィングによる吸引力は重要なのです。 横から見ると床板の先に強烈な角度で取り付けたスロッテッド フラップがあるようなものですから、その生み出す揚力は極めて強力になります。ある意味、もはや一種のウィングカーになってる、とすら言えるのです。これが近代F-1の強烈なダウンフォースの正体の一つですね。 |