前回は適当な紹介で終わった第三世期ホンダF-1をウィングと空力周りを中心に少し見て置きましょう。ちなみに今回の見学で初めて気が付いたのですが、ここの第三期マシン、佐藤琢磨選手の車ばかりなのですね。

まずは2002年のジョーダン・ホンダEJ12。
よく見るとフロントウィングの中心部に大きな空間を開けて空気の流れを確保してます。機首部下面に空気をきれいに流し込む形状のようですが、どういった狙いなのかは正直よく判りません。この辺りの車からは、車輪も回転する(これがもっとも乱流を生む)実物大風洞や、コンピュータによる空力シミュレーションが本格化しており、実験データを見た上でないと何をやってるのか、部外者にはほぼ判らないようになって来てました。



車体部前方の床周りとか。

この床板の下を流れる気流をいかに高速化するかが21世紀F-1における空力デザインのキモでしょう。高速の気流は低圧部を生み出し、低圧部は車体を地面に吸いつける吸引力を発揮します。それがダウンフォースとして車体を地面に貼りつけ、高速でカーブに侵入しても強烈な接地圧ですっ飛んで行かずに曲がってしまう事を可能にします。前後のウィングの接地圧力だけでは、現在のF-1が実現してるようなカーブの走行速度を維持するのはまず不可能なのです。

以前の記事でも書きましたが、F-1のタイムがどんどん速くなってるのは最高速の進化よりも、より速くカーブを曲がれるようになったのが主要因です。それは構造的に最大面積を持ち、かつ重心位置に接地圧力、ダウンフォースをもたらす床下の空力が大きく影響しています。

ティレルが始めた機首を上に持ち上げるハイノーズも、1980年代末から流行りだした車体後部で上向きに跳ね上がってる床板も、全てそのための工夫です。


 

こちらは2004年のBAR ホンダ006。ジョーダンに比べると少し単純な構造になってます。先端に穴が開いてますが、何でしょうね、これ。

フロントウィングの翼端部板が内側に絞り込まれるてるのも見て置いてください。これは通過した気流が回転してるタイヤにぶつからないようにする工夫でしょう。

ホバリング中のヘリコプターの下に入ると強い吹きおろしの風を受けます。これは翼断面型を持つローターが生み出す気流で、あまり意識されませんが航空機の主翼の後部でも下向きに発生しており、基本的に揚力に比例して主翼後部で生じる吹きおろしの風は強くなります。

そしてF-1の場合、下向きの力を発生させるため、翼の断面を逆さにしていますから吹きおろしではなく吹き上げる風になるのに注意してください。このため、フロントウィングの後ろには強烈な吹き上げの風が生じます。これが回転中のタイヤにぶつかると凄まじい、というか予測のつかない乱気流になるため、これを避けたいわけです。乱流は単純に空気抵抗増に直結しますから。

ちなみにこの「吹き上げ気流」はリアウィングでも当然、発生してます。雨のレースの時、フォーミュラレースの車が盛大に水しぶきを巻き上げ走ってるのがよく見られますが、あれはこの「吹き上げ気流」に水滴が巻き上げられた結果です。なのでよく見ると、高い水しぶきはタイヤからではなく、ウィングの後方から上に巻き上げられてるのが見て取れます。



その床下回り。なんか支柱が見えてるんですが、それ、気流的に大丈夫なんでしょうか…。

先のジョーダンの車もそうですが、床板が前方に突き出てるのは車両の設計規則で前輪の直後から後輪の直前までは車体下面は平らな底面にしなけれならぬ、と決められているから。いや、これ車体下面が平面というのはちょっと違うじゃん、という気もしますが、ほぼ全てのチームがこの構造にしてましたから、違反では無いんでしょう。

ついでに機首部下面を流れて来た気流を床板上面で受け止め、下向きの圧力に利用してるようにも見えますが、ここら辺りはホントにそうなのどうかは風洞実験でもしない限り、部外者には判りませぬ。



ホンダ最後の年のホンダRA108。
ここまで来るともうワケが分からん、という感じなのでノーコメントとします。

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