Sシリーズの最終型、S800。 その名の通りエンジン排気量を800tに拡大、シリーズ最大のパワーを誇ります。この結果、最高速度は160q/hを超え、ホンダ初の市販100マイルカー(時速100マイル=約160q/h)となりました。これも海外への輸出がなされてます。 当初500tだったエンジンを1.6倍もの800tまで排気量アップしてしまったのだからスゴイ話です。これは本田宗一郎総司令官の意向だったようで、最終的に設計者の久米さんが「これ以上は無理です」と宣言してようやく開発終了となったとか。 (そもそもストロークまで変えてるのに500ccの最大回転数8500rpmに対して800tでも8000rpmとほとんど回転数は変わってない。スゴイなと思う) 1966年1月から生産が開始され、1970年まで約4年間と最も長く生産が続いたS800ですが、総生産台数は1万1千台前後とS600より少し減ってしまいました。それでもトヨタスポーツ800の4倍近い台数ですから、当時としては人気のスポーツカーだったと思われます。 ちなみに本体価格は653,000円(現金一括払い)であり、S600(ただしクーペ)が559,000円でしたから、15%も高くなりました。当時のインフレ率はかなりのモノでしたらから21世紀の日本の感覚では比べられませんが、それでも結構、強気の価格設定だったと思います。販売台数がS600に及ばなかった一因にこの価格設定があったような気も。 ついでに同時期、1967年に発売されて大ヒットとなった軽自動車N360は315,000円(首都圏価格。安価な車だったので地域によって運送料が別料金となり数千円の差があった。ちなみに埼玉県では狭山工場で受け取れたので2,000円ほど安く買えた)、約半額ですからS800は間違いなく高級車ではあったのです。 ちなみにS600との区別はフロントグリルが線の少ないあっさりしたものになってること、ボンネットの右側(向って左)に凸型の出っ張りがあること、さらにテールランプの形状が異なりますから(S500&600は丸目、S800は横長の長方形)、それほど困難では無いです。 ちなみにこのボンネット上の出っ張りは4連キャブレターに代わって搭載予定だったインジェクション(燃料噴射装置)が従来のエンジンルーム内に入りきらず、その出っ張りを収容するために造ったもの説(ただし装置の開発は間に合わなかったので未搭載)と、単なる飾りで意味が無い説があります。 前者は昔からよく言われていたもので、現在でもホンダの公式ホームページはこの説を取ってます。 対して後者はS800のデザインを担当した岩倉信弥さんが2010年になってから自身のコラムで公表した説。それによるとS800のデザイン段階で「ボンネットに何か特徴がいるねえ」との要望が本田宗一郎総司令官から出され、それに応えるために付けた飾り、全く意味のない出っ張りで、この結果、金型が造り直しになって設計担当からは怒られた、とされてます。 デザインした本人が言ってる以上、後者が正しい気がしますが、ホンダのホームページ上の説明を無視するのもなんなので、ここでは両者併記しておきます。ちなみにこの出っ張り、バルジの中は空っぽで、本当に何の意味もありません。 また1966年5月のマイナーチェンジで、例のデフから先の後輪チェーン駆動と特殊なサスペンションが廃止され普通のドライブシャフト駆動になる、という大きな変化がありましたが、外見上は区別がつきません。 ホンダが1966年に発売した商用トラックP800。商用ライトバン型のL800というのもあったようです。 ホンダが軽トラックではない、通常のトラックを生産していた、とうのは初めて知りました。ただし売れなかったようで、この前身となるP700&L700と併せてもわずか2年の製造で打ち切られています。 が、そこはホンダ、ただのトラックではなく、この車、なんとS800とほぼ同じエンジンを積んでるのでした。 ホンダ、T360といい、ただのトラックを造るのはプライドが許さないんでしょうかねえ…。 が、高回転で高馬力を出すエンジンですからピーキーで扱いにくい上、重い荷物を運ぶのに高回転の高馬力は無意味ですから(馬力ではなくトルクが問われる)、これも不人気の一因になってしまったようです。 |