■そして中央広場へ
さて、ぐるっと一周して遺跡の中心部にまで来ました。
ここがかつてのマスジドの中央広場だった辺りだと思われます。
ちなみにこのマスジドはクワット ウル イスラムモスク(Quwat ul Islam
Mosque)と呼ばれてるらしいです。
モスクという名は英語での呼称だからでしょう。
すぐ後ろにはクトゥブ ミナールが。
逆光状態で空にハト、というなんか意味深ぽい写真が撮れたので載せておきます。
まあ、たまたまの構図で別に深い意図はないんですけどね。
その横に地上7.21m、推定重量6トンの鉄柱がデーンと建っています。
一部で古代ミステリーとして有名な、デリーの錆びない鉄柱(Iron pillar of
Delhi)です。
まあ、実際は表面はサビだらけなので、厳密には腐食されない鉄柱ですね。
ちなみに1996年ごろまでは触れたらしいのですが、痛みが目立ってきたので
このように柵を造って触れなくしたんだとか。
なんらかの建造物の一部ではなく、一種の戦勝記念碑で、表面には紀元四世紀末ごろ
グプタ王朝第三代の王であったチャンドグプタ2世(Chandragupta
II)が
ベンガル地方を制圧するためシンドゥー川沿いで戦い、勝利した碑文が刻まれています。
(Sindhu
はガンジス川の別称)
この柱そのものは西暦402年ごろに建てられたとされる説が有力らしいです。
形状からして本来は単なる鉄柱ではなく、ヒンズー教のドバジャ(dhvaja)として建てられてたものでしょう。
現在でも南部インドにはその風習が残るようですが、上の装飾部に横棹をつけ、
そこにさまざまな旗や布を釣るして装飾する宗教用の設備です。
そうなると4世紀末から5世紀初めのヒンズー教の王の建てたものですから、このクトゥブ ミナールのある
イスラム寺院より800年以上古く、当然、イスラム教徒が自ら建てたものではありませぬ。
少なくとも最初は別の場所(どこからは論争中)にあり、それがここに移されたのは間違いないとされます。
問題は、このイスラム寺院のために持ってこられたのか、
それとも既に移動済みだったこの鉄柱をヒンズー教徒を征服した記念として残し、
その周辺にイスラム寺院を建てちゃったのかですが、これもまだ論争中らしいです。
調査によると地面の下には1.21mほどが埋まってるそうな。
ちなみに元々は普通に地面に埋まっていたもので、周辺の盛り土は近代になって追加された補強です。
このため、基部にあるくびれ型の装飾が見えなくなってます。
でもって、402年ごろ造られたという事は1600年以上残ってることになり、
鉄製品としては通常は考えられない対腐食性を持つ事になります。
鉄の腐食速度、浸食度は0.1o/y(一年で0.1oずつ)が普通とされるので、
最大でも直径42pとされるこの鉄柱の場合(内部に空洞が無いなら)200年後の西暦600年ごろまでに、
つまり1400年以上前に消滅してるはずなのです。
(円柱全面が空気に触れているため全周から腐食が進むので倍近い速さで中心に到達する)
ただし、この腐食速度はいくつかの条件で変わり、日本でも西暦500年前後に造られたとみられる
稲荷山古墳の鉄剣などが出土してます。
が、それでもここまで原型を保っている、表面の碑文が普通に読めてしまう状態で
1600年以上残ってるのは異常で、故に古代のミステリーとされていたわけです。
材料は錬鉄(wrought
iron)で、幾つかの部分に分けて製造、
鍛造溶接(熱を加えて柔らかくした上でハンマーで叩いて繋ぐ)でこの長さにしたとされます。
錬鉄は今やそれほど馴染みが無い上に、厳密な定義が面倒なんですが、
鋼のやや廉価版の鉄、という感じでしょうか。
通常の製鉄では、鉄鉱石、あるいは砂鉄から鉄分を溶解させて固めると、4%以上の炭素分が入ってしまいます。
この状態がいわゆる銑鉄、いわゆるズクです。
これは衝撃を受けるとすぐ割れるため、用途は限られますが、
融点が低いため加工が容易で、鋳造の鉄製品に使われています。
強い衝撃を受けない調理用のフライパンや鍋、タコ焼き用鉄板(笑)などが製品例ですね。
そこから炭素を抜き、強度を高めたのが鋼で、それよりやや品質が劣るのが錬鉄です。
両者の違いは製法と含有される不純物の量によるのですが、肝心の炭素含有量は判別基準になりません。
炭素分が約2%以下なら鋼(錬鉄も通常は2%以下)、それ以上なら鋳鉄と単純な分類とされる事が多いからで
このため炭素量だけでは錬鉄と鋼のとの明確な区別がつきませぬ。
とりあずえリンや硫黄などの不純物の量、そして製法の容易さ(錬鉄の方が簡単)が違うだけながら
鋼のやや品質の落ちた鉄、強度がやや低い鋼が錬鉄と考えて置けばほぼ間違いないでしょう。
その古代の錬鉄を造って造られたこの鉄柱は、鋼に比べるとリンを多く含み、
これが酸化を食い止めている、というのが定説らしいですが、
この辺りは化学の範疇になって私にはよく判らんので、パスします(手抜き)。
この辺り、なかなか絵になる光景ではありますね。
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