■回れエンジン
スミソニアンのウドヴァー・ハジー、ロンドンの科学博物館のように集中展示されてないので、
印象が薄いですが、ここも結構な数のエンジンを持っています。
これはフランス製グノーム N-9ロータリーエンジン。
ただしこのロータリーはマツダが造ってたオムスビ型の圧縮機構を持ったエンジンではなく、
ホントにエンジンそのものが回転する(Rotary)エンジンとなってます。
通常の星型エンジンは円周上に並べたピストンとコネクティングロッドで
接続された中心部の軸を各方向に押して回転させています。
対してロータリーエンジンでは中心軸を胴体に固定してしまい、逆にエンジン本体がグルグルと回るのです。
このため、プロペラはエンジンに直結してあるか、
回転するエンジンとギアを介して接続されるかしています。
何それ、という感じですがこうする事で部品数が減らせて軽量化でき、
その結果、コストも下がる、といったメリットがあります。
この辺りをキチンと説明すると結構大変なので軽く触れるだけにしますが、
通常の星型エンジンではコネクティングロッドで繋がれた中心軸の回転部分に複雑な機構があり、
さらに回転を安定させるためのオモリ、弾み車が必要になって来ます。
が、中心軸を固定してしまえばこれらの部品は全て不要になるのです。
この辺り、その重量減はそこまで決定的ではなく、最大の理由はコスト削減だったんじゃないか、
と個人的には思ってますが、厳密な資料を見た事ないので断言はできませぬ。
ついでにかなりの高速でブンブン回るので、冷却効果もあった、とされますが、
この時代のエンジンが冷却に問題を抱えるほど高出力だったとは思えず、
その辺りはオマケみたいなものじゃないかなあ、と思います。
が、当然、大型化するとこれを支える中心軸の構造が耐えられなくなりますから、
その設計限度は低く、1920年代に入ると一気に廃れてしまったのでした。
ちなみに高速回転する以上、ジャイロ効果、直進安定性の向上があったはずで、
おそらくこれを積んだ機体は運動性はかなり悪化していたと思われます。
ジャイロ効果によって、機首部が曲がりにくくなるからです。
ついでにシリンダーが高速回転してる以上、強烈な遠心力が働くため、
シリンダー内の潤滑油の循環が困難で、ほとんど2ストエンジンのような、
一部使い捨て、というオイルシステムだったようです。
さらにその高速回転で、オイルが外に噴き出す、という事もあったらしく、
全体的には、それほど優れた機構ではなかったんじゃないの、という印象もあります。
こちらはドイツのUR-2ロータリーエンジン。
実はフランス製のエンジンのほぼコピーで、わざわざそんな事をした、
という事は、ロータリーエンジン、当時としては意外に高性能だったのかもしれません。
こちらはアメリカ国産のカーチスOX-5エンジン。
後にカーチスライト社になってから、多くの傑作星型空冷エンジンを生むカーチスですが、
初期の頃は液冷エンジンが主力でした。
これは先に見たカーチス“ジェニー”搭載のエンジンで、
最大90馬力と当時としては非力なものとなってます。
ただし、信頼性は抜群だったんだぜ、というのがこの博物館による解説です(笑)。
まあ、この時代のアメリカの航空産業は、あまり見るべきものが無いですからね。
ニューポール N.28
C-1。
ヨーロッパに送り込まれたアメリカ陸軍パイロットが最初に手に入れた戦闘機が
このフランス製の機体でした。
1917年、アメリカ参戦の年に初飛行した新型ではあるのですが、
すでにスパッドS.XIII(後で登場)が採用され、ニューポールの機体は時代遅れになりつつありました。
このためフランス軍は「これがヨーロッパの最新機ザンス」みたいなことを言って
海の向こうから来た田舎者、アメリカ軍に押し付けてしまい(笑)、
この結果、フランス機ながら、アメリカ軍に最もよく使われた機体となっています。
まあ、間違いなくほぼ時代遅れと言っていい機体なので、
運用開始から1年前後でアメリカ軍もスパッドに機種変更して行く事になります。
展示機はバラバラの部品状態で残されていた機体をこの博物館が
1994年ごろに再生したものだそうですが、
どの程度オリジナルのパーツが使われてるのかなどはよく判らず。
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