■練習あるのみブラザーズ
これまた世界の航空博物館の常連、
ノースアメリカン社のヒット作1号、練習機のT-6テキサン。
航空自衛隊では米軍から供与され、中等練習機として利用されてました。
最終的には、全部で180機近くを運用していたようです。
この時代の練習機はオレンジかかった黄色のようで、
当時の自衛隊は、こういった系統の色が好きだったんでしょうかね。
ちなみに、戦前に三菱がこれの原型、NA-16を輸入したことがあったりするので、
日本とはそこそこ縁の深い機体でもあります。
1958年1月に初飛行した、エンジン以外は純国産である
富士重工業T-1中間練習機。
量産されたジェット機としては日本初の純国産開発機でした。
ちなみに前ページで見たヴァンパイアやT-28は
この機体開発の参考用に購入されたものですね。
もともとは上で見たT-6の後継機で、さすがにジェット時代の中間練習機としては、
ジェット機でなかればダメだろう、という事で開発されたようです。
この機体はF-86セイバーの影響は感じられるものの、
比較的オリジナルな形状を持ったものになってます。
少なくとも、私は元ネタになるような欧米の機体を知りません。
展示の機体はイギリスのブリストル社製エンジンを搭載したA型ですが、
後にエンジンも国産に換装されたB型も造られてます。
このA型は、46機が生産され、後のB型の20機とあわせて、T-1は計66機が製造されてます。
…これも妙に少ないな。まあ、単に練習機として使うだけなら、
なんとかなるんでしょうが。
ついでにT-1は運用中、一機も墜落事故を起こしてない、
という記録をもっていたはず。
こちらは日本で二番目に開発されたジェット練習機、高等練習機にあたる三菱T-2。
1971年に初飛行した超音速まで出る国産練習機ですが、えー、まあ、その、えー…
まあ、えー、そこそこ設計はがんばったんじゃないですかね、えー、はい。
写真の派手な塗装の機体はブルーインパルスで使用されてたもの。
ちなみに浜松基地はF-86時代のブルーインパルスの本拠地だったのですが、
このT-2になってから、松島基地に移ってしまってます。
コクピットの横に階段が見えますが、これは座席に座って見学するためのもので、
この施設のT-2、F-86F、F-104、F-1というジェット機のコクピットは座ることができます。
ただし時間によって開放時間が異なるので、全部に座ろうと思ったら
最低でも開館から午後1時過ぎまで居ないとなりませぬ。
これまた世界の航空博物館でおなじみ、ロッキードT-33練習機。
もともとはアメリカ初の“まともに量産された”ジェット戦闘機、P-80から改造されたもの。
戦闘機としてはパッとしませんでしたが、こちらは大ヒットとなってます。
航空自衛隊では米軍からの供与として68機、さらに川崎重工のライセンス生産で
210機を生産、合計で278機を運用してました。
航空自衛隊の最大装備数記録は約470機(!!!!)を数えるF-86Fセイバーですが、
おそらく第二位はこのT-33でしょう。
(ついでながら3位は212機造ったT-4。ただしF-104が複座型のDJを含めた場合は約230機で上回る)
国内ライセンス生産は1956年から始まった機体ですが、
その後、2000年まで40年以上使用が続いてました。
最後は練習機では無く、基地間の連絡用の多用途機として使われてたようですが、
入間基地の機体が2000年に墜落事故を起こしたため、そのまま引退となったものです。
手前にドンと飛び出してるのはいわゆるチップタンクで、燃料が入ってます。
機体内に大きな燃料タンクを設けないで済む事、
揚力の重心点となる主翼に付いてるので、残量の変動による重心移動の影響が少ない事、
などから一時流行った設計がこのタイプです。
ただし、ロール回転(進行軸を中心に機体をぐるっと回す)の中心軸、から遠く離れた位置に
重量物を置いたため、ロール性能がガタ落ちになってしまう他
(機体から見て長い半径の先にあるものを回転させる方がより大きな力が居る)、
主翼強度の問題も出てくるので、F-5とT-38辺りを最後に、
以後、軍用機ではあまり見られなくなってしまうものです。
そのT-33に積まれていたJ-33エンジンの切断展示。
これも旧式な遠心圧縮ジェットエンジンですが、実に判りやすくカットしてくれてる、
とてもありがたい展示なので、ちょっと解説しておきます。
これまたイマイチ人気の無い展示でしたが、ここまで遠心ジェットをキチンと展示してるのは
世界的に見ても珍しい親切さですよ、これ。
矢印1にある巨大羽車が空気圧縮用のもので右側の空気取り入れ口から入って来た空気を、
この羽車で外側の壁に押し付けて圧縮するのが遠心圧縮です。
なんだそれ、というと洗濯機の脱水と同じ原理ですから、理屈は簡単だったりします。
高速回転する円筒内の羽根車では、その内容物は遠心力によって
常に外に放り出されるように動くため、
羽根車に導かれた空気は外壁に押し付けられてしまいます。
同じように遠心力を使って、洗濯物から水分を抜くのが洗濯機の脱水装置で、
高速回転でギュッと壁に押し付ける事で、洗濯ものの水分を弾き飛ばしてます。
ジェットエンジンの遠心圧縮の場合、この押し付ける力で、
空気を壁際へ次々と押し込んで圧縮してるのです。
その圧縮された空気は、羽根車の周囲にズラリと並べられた2の矢印の燃焼室に導かれ、
それぞれの中で爆発的な燃焼を起こし、後部ノズルから飛び出して推力となります。
3は排気タービン部で、ここで1の羽根車を回す動力を得てるのです。
当然、その圧縮力は羽根車が巨大で高速なほど大きくなりますが、
なるべく細い胴体にしたいジェット機で、エンジンの直系の巨大化は致命的な欠陥ですし、
またそんな巨大なものを高速回転させるのは機体トラブルの元になるわけです。
(さらに巨大な質量の高速回転によるジャイロ効果の問題もあるらしいが私は良く知らん)
そんなわけで、比較的手軽につくれるこの遠心圧縮ジェットエンジンは、
やがて前回見たJ-79のような軸流式エンジンに取って代わられ、
技術的には廃れてしまう事になるのでした。
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