■そしてまたちびっ子天国



こちらはイギリス謹製初等練習機、デ・ハビラント社のDH.82Aタイガーモス。
いわゆるサンダーバード6号です(笑)。
こちらもまあ、世界中でお馴染みではありますが、
コンディションは非常にいい機体です。

ただし、この機体は解説板そのものがなく、A型ではない可能性もあり。
10年前の写真を見ても、単にタイガーモスとしか看板に書いてませんし…。
とりあえず自国の機体にはウルサイ、イギリスの人間がA型、
と断言してるのを見たので、その意見を採用しておきます(手抜き)。

第二次大戦前、1931年初飛行の複葉練習機ですが、
タイでは1951年ごろ、すなわち朝鮮戦争の時期に導入してます。
なんでまた、という感じですが詳細は不明。

イギリス空軍での完全退役が1952年なので、
その前後の払い下げ機を安く買ったのかなあ。
34機ほど導入したようで、ある程度の運用はしてたみたいですが、
さすがに10年使って1961年には全て退役となってます。

つーか、1960年前後の段階での機体の入れ替わりが多いな、タイ空軍。
ベトナム前夜、という事で援助もらいまくったのかしらむ。



なんだか近所のオジサンが1週間で造ってしまった趣味の機体にも見えるのが
タイガーモスの偉大なところ…なのか(笑)?
機体横に開いてるカマボコ型の穴は足掛けなんですが、
普通は後ろ、主翼の上から乗り込むはずなので、なんだこれ(笑)。

タイガーモスの燃料タンクはコクピットの上、上翼の天井部なので、
ひょっとして給油作業用?

ラジアル(円形)エンジンではないので、大きな開口部はないですが、
同社の空冷エンジン、ジプシーメジャーを積んでいます。

余談ですが欧米の場合、航空機メーカーが
エンジンまで造ってしまうのは少数派で、
特に1000馬力エンジン時代以降で一定の成功を収めたのは
このデ・ハビランドとドイツのユンカースくらいでしょう。

イギリスだとブリストルもそうですが、ここはエンジンも航空機も
正直パッとしないです(笑)。
そもそも1000馬力を超えるような航空エンジンの製造は、
片手間にできるような仕事ではないのでしょう。

アメリカではカーチス・ライト社がやってましたが、
エンジン部門(Wright Aeronautical Corporation)と
航空機部門(Curtiss-Wright Airplane)は実質的に別会社でしたし、
1000馬力時代以降の航空機はやはりパッとしませんしね…。

日本の事情?いや、…よく知りませんね、私は…ハハハ…。



でもって、ここでまたもやちびっ子コンビに遭遇。
イガクリ君が一生懸命話しかけてくれるのだが、スマヌ、
おっちゃんはタイ語はわからんのだ…。

ちなみによく見ると、そのTシャツ、ベン10(ベンテンと読む)じゃないの。
名前の通り、日本のアニメや特撮の強烈な影響を受けた
アメリカのアニメ(カートゥンに分類されてるが)ですね。
(一人で10種類の仮面ライダーに変身できるようなアニメと思えばいい)
タイでも放映されてるのか、それともオーストラリア土産なのか。

でもって、ここでも彼らと宇宙における
人類の存在意義と神の愛の問題について話し合った結果、
またも時間がどんどん経過していしまい、どう考えても
4時の閉館までに全部見れないよな、と悟る。



…とりあえず、見学を続けましょうか。

再びカーチスのホークシリーズですが、
前回見たホークIIIの後継機として輸出されたカーチス ホーク75Nです。
ただしこちらは陸軍機ですが。

まあ、見ればわかりますが、
P-36ホークを固定脚にしてしまった廉価版ですね。
さらに主翼下にはマドセンの23mmというこれまた珍しい
機関砲のガンパックが搭載されてます。

脚とガンパック以外は基本的にP-36のままのはずなので、
この頭に液冷エンジンのアリソンのV-1710をつければ、
固定脚のP-40 ウォーホークが……できるのか?

タイは1939年に25機を導入、後に日本から手に入れた隼と並んで、
第二次大戦中のタイ空軍主力戦闘機でした。
なので連合軍の爆撃機の迎撃にも飛んでおり、
B-29やB-24を迎え撃ったアメリカ機、という妙な存在でもありました。
さすがに23mmあれば相当な破壊力だと思うのですが、
戦果があったのかはわかりませぬ。

ちなみに中国軍でも同じ固定脚のホーク75を採用してましたが、
こちらはライセンス生産で中国で組み立てたため
75Mという型番になっております。
(0から造ったのではなく、部品を持ち込んでの組み立てだと思うが…)



後ろから見るとこんな感じ。
1935年初飛行ですから、Me109と同世代ですが、
あっちが終戦まで進化を続けて主力戦闘機を勤めたのに対し、
こちらはP-40に発展して終わりでした。
まあMe109の場合、最後の方はほとんど別の機体になってしまってますが…。

展示はなぜか胴体後部の機体持ち上げ穴に棒を通して支柱で支え、
尾部を上に持ち上げた状態になってます。
これ、通常はエンジンの位置を低くして整備する時や、
地上で標的に向けて行なう機関銃の試射と
火線の調整時に使うものなんですが、演出の一種ですかね。

ちなみにP-36&ホーク75もまともな機体は世界で3機しかないので、
これも貴重といえば貴重。
特に脚が畳めない廉価版で現存するのは、この機体だけです。

ちなみに残りはデイトンのアメリカ空軍博物館と、
イギリスのダックスフォードにあり、両者ともかつて旅行記で紹介してます。
なので、夕撃旅団は現存P-36完全制覇となるわけです。
…何がスゴイのか、自分でもわかりませんが(笑)。

ついでにこの機体横のハヌマーンのイラスト、
先のホークやコルセア、さらにはF8Fにもありましたが、
ホントに現役時代から描かれていたのかはわかりません。
少なくとも私はそういった写真を見た事がないのです。

どうでもいいといえば、その通りなのですが、ちょっと脱線します。
タイには戦後、軍属に近い変な漫画家が居て、
この人がアメリカの資金援助を得て、なぜか日本で設立されたばかりの
東映動画に仕事を持ち込んだ事があります。
(発注者はバンコクのアメリカ大使館だが、おそらく金はCIAが出してる)

1957年に「ハヌマンの新しい冒険」というタイトルで完成したこのアニメ、
私は未見なのですが、日本を代表するアニメーター、
大塚康生さんの著作「作画汗まみれ」の新版の方に、
そのタイの漫画家が描いたハヌマンのイラストが出てるのです。

で、これがこの博物館の機体に描かれたハヌマンにそっくりで、
CIAをバックに持っていた(映画は反共産主義的な教育映画らしい)
その漫画家が展示にあたって勝手に描いちゃったんじゃないか、
という可能性も若干はある気がしてるんですよねえ…。
まあ、あくまで推測の域を出ませんが。


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