■アーチ無き巨大建築



ただしその周辺の仏像はすべて首無しでした。

が、これもあまりに切断面がキレイで、
どうやって破壊したんだ、という気はします。
はたして石相手に鉄の刃物なんかで
ここまでキレイに首が落とせるものなのか。



で、その先の構造が中央の巨大パゴダに繋がる東西の回廊部分。
元は屋根があったようです。



その先、一番奥に見えてるのが1903年、
日露戦争前年に崩壊したとされる例の巨大パゴダの基部。
このように回廊部が中央のパゴタに繋がる構造になってるのが
アユタヤ式寺院の特徴らしいです。

本来はここは左右に壁のある教会のような建物なんですが、
ご覧のように、かなり崩壊が進んでます。
他の遺跡では結構形が残っていたので、
ここだけ念入りに破壊されたのか、
例によって経年劣化で倒壊したのか、どちらかなんでしょうが。

で、この回廊部にも屋根があったはずで、
手前に並んでいるのはその柱の基部。
奥に一本だけ柱が残ってますが、あれが奇跡的に生き残ったものなのか、
近年の復元で組まれたものなのかはわからず。
一つ上の写真でも取ってつけたように一本だけ生き残ってるので
どうも怪しいです、これ(笑)。

で、アユタヤ時代の大きな建物は、全て屋根が残ってません。
内部に大きな空間がある建物は全て屋根が木造だったから、
という説明を以前、何かで読んだ記憶があります。
それらがビルマ軍に焼き払われたのか、長年放棄されて腐り果てたのか
どちらだかわかりませんが、とにかく全て失われてしまってます。

レンガ造りで屋根だけ木造、というのは珍しくないのですが、
それを支える支柱がことごとく崩れ、
屋根どころか梁構造すら残ってないのは妙だな、と思う。



で、回廊奥のパゴダの構造を見て、ほぼ確信する。
アユタヤの人たち、アーチ構造の建築を知らなかったのでは?
すなわち単にレンガを積んだだけで、
そもそも耐久性が低くて皆崩壊してしまったんじゃないでしょうか。

石やレンガを組み上げて、大規模建築物を造るやり方としては、
主に二つの方法があります。

まずはピラミッドや、この遺跡のパゴダのように
単純にとにかくミッチリ積み上げる、というのが一つ。

ただし、こういったピラミッド式ではデカイ建物が出来ても
中まで石で埋まってますから(笑)、デカイだけで実用性は無く、
せいぜい王の墓や権力の象徴になるのがオチで、
ほとんど実用性はありません。



そしてもう一つが、このロンドン塔内の教会のようなアーチ構造です。
支柱を建てたら、それを相互に繋ぐ半円状のアーチを組み上げ
これで重量を支えあい、その上に屋根を載せる、という構造ですね。
これだと少ないレンガや石でも十分な強度が維持できますから、
その中には空間ができ、その大きさに見合った人員を収容するなど、
建物に十分な実用性を持たせる事が可能となります。

これを最初に考えたのが誰かは知りませんが、
大々的に採用したのは恐らく古代ローマ辺りからでしょう。
(カルタゴとかは何せ何も残ってないのでわからないが)

古代ローマ文明はローマ水道から各種ドームまで、
この構造によって巨大構造物を少ない資材で造り上げ、
さらにはその内部に巨大な空間を生み出すことに成功してます。
ヨーロッパの教会建築などは
その影響によってアーチ構造を採用した結果、
早くから内部に巨大な空間を造る事に成功してるわけです。

逆に言えばアーチ構造を知らないで
単純に石やレンガを組み上げるばかりでは、
その内部に空間を造る事ができません。
そんな建物の中を空洞にしたら、確実に崩れ落ちます。

このため屋根などの上部構造を軽い木造にするか、
あるいはパゴダやピラミッドのように
中まで石とレンガで埋めてしまうしかありません。
アユタヤの遺跡ではまさにその通りの建物ばかりなのです。

中世から近世にかけての文明といっていいアユタヤですが、
どうもアーチ構造は知らなかったように見えます。

まあ、日本人だって偉そうな事は言えませんけどね(笑)。


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