■エンジンだっていろいろあるんだ
1923年製のイギリスエンジン、ブリストルのジュピター。
ようやく空冷星型エンジンの登場です。
ただし、生産したのはブリストルですが、設計は別の会社で、
そこが経営破綻した時、ブリストルが買収したらしいです。
現代の自動車のエンジンと基本的に同じ構造の液冷エンジンと違い、
空冷エンジンは冷却液の循環とラジエターが無い分、シンプルなんですが、
全シリンダに効率よく風を当てないと、あっという間にオーヴァーヒートとなります。
なので、ご覧のように、全シリンダーを円周形に配置、均等に風が当たるようするわけです。
9本の気筒がありますから(ニ本は隠れて見えてない)9気筒エンジン。
奇数なのは、この手のエンジンの構造上避けられないのですが、
後により発展すると、この円周配置のシリンダーを2段重ねとしたので、
9+9で18気筒、というエンジンも出てきます。
イギリスを代表する傑作空冷エンジンで、第二次大戦に続く、多くのエンジンが
このエンジンから派生して産まれる事になり、
日本やソ連でも、ライセンス生産が行われてます。
ロールス・ロイスのRエンジン。
RAF博物館のロンドンにも同タイプのエンジンの展示があります。
(今回の旅行記では未登場)
シュナイダー杯の最終戦で優勝(一機しか出てないんだけど(笑))する
1931年製造のスーパーマリン社の水上レーサー、S.6B(後で登場)に搭載されてたエンジン。
当然、レースの間だけ回ってりゃいいので、ムチャクチャなチューンがされてます。
ちなみに1929年のレースで使われた初代S6にもほぼ同じタイプのエンジンが搭載されてました。
でもってこれ、白い名札がぶら下がってるあたりまでがエンジン本体で、そっから後は
全て出力アップのための過給器関係ですから、いい感じに狂ってますね(笑)。
1931年で、この過給機と特殊燃料を使って、実に2530HPを絞りだしたってんだから、
レース用のスペシャルエンジンとはいえ、時代の10年先を歩いてた、という世界でした。
実際、レースによる技術の進化ってのはバカにできないものがあって、
このシュナイダートロフィーを通じて得たものが、
スーパーマリン社はスピットファイアに、ロールス・ロイス社はマーリンエンジンに繋がって行きます。
余談ながら、Rエンジンは全部で19台が製造されたのですが、
一部はシュナイダー杯が終わった後に造られてます。
これらは、航空機以外での使用を目的としており、
例えばグランドフロアで紹介したスピードレース用のモーターボート、
ミス・イングランドの二代目、ミス・イングランドII、その後のIIIともに、
このRエンジンを搭載していたそうな。
さらにはレーシングカーに積んじゃった人も居たそうで、
イギリス人、よい感じに狂ってますね、はい(笑)。
これも有名どころ、日本の2000馬力級エンジン(一応)、誉(ほまれ)。
陸軍での呼称はハ45となります。
海軍だと紫電改、陸軍だと疾風(はやて)のエンジンとして知られてますね。
ゼロ戦などに積まれていた栄の後継エンジンだったんですが、
戦争中に十分な熟成が進まず、ほとんど欠陥エンジンという状況で
終戦を迎えてしまう事になるのでした。
これも空冷エンジンですが、上のジュピターに比べてえらくゴッツイ感じがするのは、
これが例の9気筒二段重ね、前後で2つの9気筒エンジンをくっつけてしまった
18気筒エンジンだからです。
まあ、有名どころでもあるし、日本語の資料もいくらでもあるから、
ここでは深く解説しなくてもいいでしょう(手抜き)。
ちなみに裏から見るとこんな感じ。
このエンジン、非常にコンディションはいいのですが、
この反対側にある気筒のヘッドの一つが、残念ながら潰れてます。
スミソニアンやアメリカ空軍博物館で、紫電改に積んだ状態のを見れますが
(日本でも知覧にある疾風が積んでるはずだが未見)
エンジン単体で、これだけのコンディションで見れる、というのは貴重かも。
ただし、このエンジンの出所は全く不明。
誉搭載の機体はかつてイギリスに持ち込まれたことがないので、
エンジンだけどっからから持ってきたのか、アメリカからもらったのか、よくわからず。
さて、またもやって来ましたよ(笑)。
コスフォードで紹介したブリストルのスリーブヴァルブ空冷エンジン、
ハーキュリーズを皆さん、覚えてますでしょうか。
その次に登場した空冷スリーブヴァルブエンジンが、
このセントーラス(Centaurus/ケンタウロスの英語読み)なのでした。
まあ、なにがどうなってるんだよ、という密度でして、
これも9気筒2段重ねエンジンですから、後ろの段の冷却には
相当な苦労があったんじゃないですかね…。
ちなみにこれ、誉よりわずかに前の世代のエンジンですが、
より強力な2500馬力級エンジンとなっております。
ただ、実際に配備が始まったのは意外に遅く、終戦近くになってから、
RAFロンドン博物館に居たテンペストIIなどに搭載されました。
ここらアタリは、ロールス・ロイスのグリフォンエンジンも事情は一緒で、
マーリンと言うあまりに優秀なエンジンがあったゆえの不遇でしょう。
そのセントーラスのスリーブヴァルブシリンダー部のアップ。
いや、ほんとにもう、何がなんだか…。
あの不思議なフィンの数々は、冷却に関する苦労を忍ばせます…。
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