■そして演算するのだ



イギリスのフォランティ社(Ferranti)が1956年に開発した真空管コンピュータ、ペガサス。
初期型のペガサス1が26基、改良型のペガサス2が12基売れた、
との事なので、当時としてはそれなりのヒット作だったのかもしれません。

ちなみに、1956年に完成という事は、例のイギリス政府が作ってたACE完全型より1年早いことに。
ACEの開発でもたもたしてる間に、民間企業に追い抜かれてしまった、という事でしょうか…。

この展示のペガサスは1959年に製造された分で、現在でも可動状態で保存されてます。
でもって、現在、キチンと動作するデジタルコンピュータとしては、これが世界最古なのだとか。



こちらはコンピュータのメモリーの歴史。

どうやってデータを保存するか、はえらく苦労した所だそうで、
ここに展示されてるのは、初期の記憶装置たち。

左側のは魚焼きの網みたいですが、これも記憶媒体なのだとか。
何バイト入るんでしょうね、これ…。



次はちょっと変り種のイギリス製のデジタル装置、アーニー(Ernie)1。
これも1956年製造で、この年はイギリスのコンピュータ元年と言う感じがしますね。
ただし、これは厳密にはコンピュータとはされてません。
汎用性が低い、と言うか、特定の目的にのみ使われたからです。

この機械、中身はほぼコンピュータなんですが、
実は乱数の発生専用、という変わったシロモノです。
なんのために?というと、日本にはない割増債券(premiun bond)というもののため。

割増債券は国債などで、利子をつける代わりに、
抽選で大金が当たるようにしたもの。
要するに、全員がチマチマと利息を受け取るのではなく、
大きくまとめて、当たりナンバーの債券を持ってる人にあげちゃおう、というシステムです。

国債買ったら、利息の代わりに宝くじが付いてくる、といったようなもんですね。

で、イギリスの場合、これがかなり浸透してまして、結構売れてたらしい。
その抽選専用に造られたのがこれで、毎回、ランダムに当選番号を選んでたそうな。

おお、電子の力で抽選とは、公平じゃん!とイギリスの皆さんは驚き、
このアニーの名は、当時もっとも知られたデジタル機器だったとか。

が、ダマされてますよ、イギリスの皆さん(笑)。
イギリスですから、これもチューリングの流れをくんでると思われますが、
デジタル演算において、ランダムは最も苦手な世界となります。

全てがキチンと数値化(0と1)され、それが論理的なプログラムによって
動かされるのがデジタルコンピュータです。
つまり、論理的でない事は、本来できません。

たとえば1〜10までの数字を全て数えろ、とかは簡単にできますが、
1〜10までの数字の中から、好きな数字を選べ、となると
“好きな数字”という判断材料をプログラムで造り出すことはできませんから、
お手上げ、となります(造れる、という人は連絡ください(笑))。

乱数も同様で、何の規則性も無く続く数字、というのを
論理のカタマリであるプログラムに落とし込むのは困難です。
そこで通常は、中心極限定理を使って、擬似的な乱数を作り出すことになります。

が、これはあくまで擬似的な乱数なのです。
とりあえず、本物(天然)の乱数というのは“自由に絵を描いてごらん”
と100人の子供達に自由に絵を描かせるようなものだ、と思ってください。

対して、コンピュータで産み出す乱数は
“好きなお手本を選んで写してごらん”と50枚位の絵のお手本を
100人の子供達に渡すようなものなのです。

両者をどうやって描いたか知らずにパッと見ると、
なんとなく、どちらも好きに絵を描いてるように見えますが、
前者は無限に近い多様性が生じるのに対し、
後者はお手本の数以上の多様性は産まれませんから、
多くの絵を見ていれば、やがて両者の違いに気が付くことになります。

当選番号の抽選くらいなら、これでやっても害はないでしょうが、
本格的な科学実験のシミュレーションとかを
コンピュータの造り出す乱数でやってしまうと、エライ事になるわけです。

以上、ちょっと脱線でした。



はい、いよいよやって来ました。
皆さん、覚えてるでしょうか。

チャールス・バベッジ(Charles Babbage)のディフェレンス・エンジン(Difference engine)。
いわゆる差分機関ですね。
以前にグランドフロアで紹介したのは、先行試作型で、
こにに展示されてるのは完成バージョンの2号機です。

こっちは1847年に設計までは終わってたものの、
バベッジは最後までこれを完成させること無く終わるのでした。
なので展示のこの機械は彼の没後100年を記念して、
1991年にこの科学博物館で造られたものだったりします。

これの設計は本格的な機械式計算機の登場とほぼ同時期なんですが、
計算ができる数式がはるかに高度でして、多項式をこの機械だけで解けるとされます。

果たしてちゃんと動くのか、と疑問視されてた部分もあるのですが、
一応、これで試したところ、完全に作動したとの事。
しかし巨大ですよね、これ。
まあ、この後出てくるものからすれば、まだ小型なんですが(笑)。

ちなみにここの博物館ではコンピュータの一種として展示してましたが、
その構造も動作原理も、現代のデジタルコンピュータとは全く異なります。

ちなみに左側に見えてるロール状のパーツはプリンタ部で、
計算結果を印字することが可能でした。



本体内部のアップ。
こんなの設計する方も、造る方もどうかしてると思います、はい(笑)。


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