■いろんな機体で冷たい戦争



ジェネラルダイナミクスのF111F CF。
たしかこの展示棟で唯一の米軍機なんですが、よりによってなぜこの機体…。

かつてイギリスに駐留していた部隊のF111で、
湾岸戦争にも派遣され、1995年に引退、その後、2005年にアメリカで保管されていたのを
この博物館に展示するため、運びこまれたものだとか。
これが、もらったのか、借りてるだけなのか、その点はよくわからず。

F111は、1960年代、あまりに膨大な数となっていたアメリカ空軍と海軍の戦闘機を
コスト削減のため、いきなり1機種に統合、これで航空優勢の確保から対地攻撃、
それどころか対艦攻撃から艦隊防衛までやってしまえ、という事で開発された戦闘機。

大変な意欲作であり、可変翼、そして従来より燃費が良いターボファンエンジンを採用した
まさに新世代の戦闘機で、そして当然のように失敗作となりました(笑)。

ちなみにコクピットの奥行きがないのに、複座戦闘機でして、
横に仲良く並んで座る、というステキな座席配置になっております。
周囲の視界はそれぞれが左右を担当して見なさい、という事なんでしょう(笑)。

最終的にアメリカ海軍は採用を拒否、押し付けられた空軍も、
これを戦闘機にするのは自殺行為以外の何者でもないですから、
その余裕のある巨大な機体を利用して、戦闘爆撃機として運用します。

現在では、実現不可能な理想を追いかけすぎて失敗した巨大軍事プロジェクトの
代表例、という扱いをされてる戦闘機で、まあ、実際、その通りの機体です。

ちなみに、例の疑惑の製造中断機、TSR2が採用中止になった後、一時、
イギリス空軍はこの機体の採用を考えていながら、果たせなかった、という経緯があります。

もしかしたら、以前欲しかったオモチャを今になって手に入れた、
という事なのかもしれません。



こちらはれっきとした冷戦期を代表する機体(笑)、ソ連のMig15 bis(ビス)。
ただし、ポーランドのライセンス生産版なので、Lim-2という名前も持ちますが、
MIg-15bidと全く同じ機体と考えて問題ないはず。

朝鮮戦争に初登場、その能力の高さで西側諸国に衝撃を与えた機体で、
ソ連よりも中国で作られた機体の方が世界的には出回ってる機体でもあります(笑)。

この機体の登場後、アメリカはF-86を投入することで何とか対抗するのですが、
停戦後、亡命してきたパイロットによって飛行可能な機体がもたらされ、
テスト飛行を行ったところ、多くの点でF-86を性能的に上回ってる事が判明します。
これにより、再度、関係者を驚かせる事になりました。

が、アメリカはその情報を生かせないまま、
やがてベトナム戦争に突入して悲劇的な結果を迎える事になるのです。

Mig21も15(bis)もアチコチの博物館で見かけるのですが、
なぜかMig15はコンディションのいい機体が多いですね。

展示の機体は1955年製で、ポーランド空軍が使用していたもの。
1985年に退役、1986年に当時の西側諸国のコレクター(笑)への転売目的で、
イギリスの業者が買い付けた中の一機だとか。
いるんですね、そういう業者が。

ちなみにこの機体はその会社から寄贈されたもの、となってます。
宣伝目的で贈ったんでしょうか。



これも首だけ展示となっていたF-4ファントムII。
フランスといい、イギリスといい、首だけ展示、スキですねえ…
ジェット機ならこれでいいんでしょうが、イギリスはゼロ戦もコクピットだけにして
展示してたりするので(後日登場)、こうなるともう何がなにやら、となります。

アメリカ製のオリジナルとは、いろいろな点で変更されているのが
このイギリスのファントムで、それらに2機種があり、
イギリス空軍の場合、さらに後から中古で買ったアメリカ式ファントムまである、
というのはロンドンのトコで説明しました。

でもって、ただでさえ見分けのつき難いこの機体、首だけになっちゃたらなおさらわからず、
これがその中のどれだかは、全くわかりませぬ。
FG-1じゃないかなあ、とは思うんですが。



確かヴィクターの下に置かれていたイギリスの戦術核爆弾、Red Beard(赤ヒゲ)。
1962年から運用が開始され、例のVボマーの3機からキャンベラ、
果てはバッカニアにまで積めたとの事。

このサイズなのでてっきりウラン235のガンバレル型核分裂爆弾だと思ったんですが、
これもプルトニウムとウラン235の混合弾頭だとか。
となると、なんらかの技術提供をアメリカから受けていた、という事ですかね。

ちなみに赤ヒゲ、という妙な名前は、この時代のイギリス軍は
各種兵器開発プランにレインボーコードと呼ばれる色のついた名前をつけており、
戦術核爆弾の開発プロジェクト名だったのが、そのまま爆弾の名前になったもの。

ちなみに黒澤映画の「赤ひげ」の公開は1964年なので、この爆弾のほうが先です。
(山本周五郎による原作は1958年でこっちが先だが、まさかイギリス軍部が、
山本周五郎を原語で読んでたりはしないだろう…)



そのとなりにあった多目的核兵器(Multi purpose nuclear weapon)という
よくわからん分類となってる戦術核爆弾、We177。
赤ヒゲから、いきなり無味乾燥な名前に変えてきました(笑)。
ここからは詳細な説明がないのですが、おそらくプルトニウム型核分裂爆弾でしょう。

1966年から運用が開始されたものですが、となりの子供と比べても極めて小型で、
シャグワやトルネード、さらにはシーハリアーにまで積めた、との事。
シーハリアーに積むのは、いろんな意味で無理があるだろう、
と思うんですが、まあイギリス人ですからね…。


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