■我に実験を与えたまえ

さて、とりあえず前回の続き、実験機の失楽園から行ってみませう。



サンダーズ ロー(Saunders-Roe) SR53。
サンダーズ ロー(ソンダーズか?)というのはあまり聞かない会社ですが、
飛行艇を中心に製造してた航空メーカーのようです。

が、この機体は当然、飛行艇ではないわけで、ロケット戦闘機です、これ。
ナチスドイツのチョー秘密兵器、ロケット戦闘機のMe163と同じコンセプトで、
とにかくガーっとチョー高速で上空まで上がって、敵爆撃をブワー言わしたれ、という機体。

が、それじゃさすがに進歩が無いやん、という事で、
小型のジェットエンジンも積んであり、せっかく高高度まで上昇したんだから、
これで最低限の推力を得て高高度を飛び続けよう、と考えていたようです。
コクピット横の小さな空気取り入れ口は、多分、そのジェットエンジンのもの。

1952年から開発がスタート、例によっていろいろあって(笑)、
ようやく5年後の1957年5月に初飛行にこぎ着けてます。

ちなみに、このロケットとジェットエンジンを混合搭載、というアイデア、
我々は既にフランスのあの場所で見てるわけですが(笑)、
あちらも1953年初飛行、当時流行ってたんでしょうかね、このスタイル。

とりあえず、最大速度マッハ2まで達成、そこそこの性能を示したようですが、
試作2号機が離陸失敗による死亡事故を起してしまいます。

その事故原因がはっきりしなかったこと、さらに機体が小型過ぎて、
レーダーやら火器管制装置(FCS)を積めなかったことから、
大幅な設計変更を行ってやり直し、となるのですが、その機体も
例の1957年の有人飛行機絶滅計画に引っかかり、それまで、となりました。



1963年3月に初飛行した、ハンティング(Hunting)のH126。
ジェットフラップの実験機として知ってる人は知ってる機体かも。

ちなみに、この機体で試されたジェットフラップはイギリス以外では
噴出式フラップ(Blown flap)と呼ばれるタイプの装置です。

ジェットエンジンの推力を下に向けることで上向きの力を得る
推力偏向型のジェットフラップとは別物なので注意。

1950年代後半からの流行として、垂直離着陸(VTOL)機の開発があったのは
確か今回の旅行記のどっかで説明したと思ったんですが(無責任)、
それと平行して、短距離離着陸機(STOL)の開発も盛んに行われました。

STOLは、通常の機体より短い距離で離着陸できるので、
空港の建設、維持管理でもっともやっかいな滑走路が短くできるのです。
そのために、いくつかのアイデアが試されたわけですが、
この機体でテストされたジェットフラップも、そういったアイデアの一つ。

飛行機は主翼の上の気流の流れを速くする事で、主翼上の大気の密度と圧力を落とし、
それによって吸い上げられ(持ち上げる)ているのだ、
というのも、確か今回の旅行記のどこかで説明したと思います。

だったら、ジェットエンジンの排気を主翼の上面にそって噴出させれば、
その高速な排気によって、主翼に揚力が発生するのでは?という考えがありました。
コアンダ効果と言うアメリカの空飛ぶ円盤自動車でも話題になった(笑)現象を
利用するのですが、とりあえず今回は
主翼上面に沿って高速の排気を流して揚力を生むのだ、と考えてください。

このジェットフラップも、その考え方から派生したものです。
これは主翼の後端にあるフラップの上面に、
ジェットエンジンから導いた高速排気流を流がして
揚力を大幅に高めよう、というアイデアでした。

機体の速度に関係なく、高速流がフラップの上面を流れるので、
低速でも十分な揚力が得られ、離陸してしまえるわけです。
実際、この機体の最低飛行速度は約52km/hだった、とされますから、
滑走を始めたら、間もなく浮いてしまう、という事になります。

着陸時も一般道を走る自動車なみの速度で降りれますから、
停止するまでに必要な滑走距離を大幅に縮められるのです。

その代わり、エンジン出力の多くをフラップ上の高速排気用に持っていかれてしまうため、
機体を前進させる推力は通常のジェット機に比べかなり落ちます。
よって、離陸後もあまり速度は上がらない、という事に。

このH126でも推進用ジェット排気口は主翼下の胴体部に見えてる
極めて小さい後ろ向きのノズルだけですから、その出力は察しがつくでしょう。



これがそのジェットフラップ部分。
高温のジェット排気に耐えるためか、何か特殊な材質で作られてるようで、黒い板となってます。
このフラップの上にジェット排気を流しだす排気口があるはずなんですが、ギリギリ見えません。

でもって、これもこの写真だとギリギリ見えてないのですが、
一番手前、翼端部には下向きの排気ノズルがあります。

あまりに低速になってしまうと、機体周囲の空気の流れが止まってしまい、
尾翼の舵もエルロンも効かなくなります(停まってる船で舵を曲げるようなもの)。

なので、ジェットエンジンから引っ張って来た排気を
翼端から噴出させ、それでバランスを取った、との事。
さらに、どうも機首部にもノズルがあるらしいので、
こうなると垂直離着陸機のハリアーと同じような構造ですね。

が、良く見るとこの機体、エルロンと思しき手前の部分まで真っ黒ですから、
ひょっとして離着陸時にはエルロンまでフラップとしてしまい、
その間の姿勢制御は尾翼とそのノズルからの排気で行っていたのも。

でもって、低速での飛行が目的ですから、これもジェット機ながら、
固定脚となっております。

1967年まで約100回の飛行試験を行ったのですが、最終的には
構造が複雑過ぎるし、速度も遅すぎる、といったとこで
ジェットフラップの開発は、キャンセルとなりました。

ちなみにこの機体、ほとんど飛行試験が終わった段階で、
NASAの風洞で空力データを取るために、一度アメリカに送られてます。
これがアメリカ側からの要請なのか、イギリスがお願いしたのかはよくわからず。

さらに余談ながら、ジェットフラップは、
後に改良型が風の谷のガンシップに積まれています。
あれはドイツのMe109のE型以降で採用されたラジエター排気部と
フラップを一体化させる構造に、このジェットフラップを組み合わせてるように見えます。

あのガンシップが異常に分厚い主翼を持つのは強度の確保、さらに主脚の車輪を
垂直に立てたまま収容する、というチャレンジャーな構造のためだけでなく、
エンジンからの排気を主翼後部に導くダクトが入っているからだと思われるわけで。

残念ながら、聖都シュワの最終攻防戦で着陸に失敗、
機体は失われてしまっていますので、推測の域を出ませんが。



アブロ707C。
横からだとわかりにくいですが、三角翼、デルタウィングの機体です。

この707Cはどうもよくわからん部分があるんですが、以下のような機体らしいです。

1. アブロ社のデルタ翼爆撃機、ヴァルカンの製作にあたり、
例によって技術試験用の機体が造られる事に決定したよ。
ちなみに、今回は先行試験機も、同じメーカーのアブロが開発する事になるんだ。
で、それが707AとB。

2.707Aの墜落とかもあったけど(涙)、とにかく、技術的なデータは取れたから、
デルタ翼爆撃機、ヴァルカンの開発は進めてしまおうね

3.ヴァルカンはイギリス初のデルタ翼ジェット機だから、操縦に慣れるための機体が必要かも。
だったら、実験機を元に造っておこうよ。

4.でもって、この機体、707Cができました。
実験機のAとB、どっちを原型にしたのかわかりませんが、練習機として複座に改造されたよ。
当初は4機つくる予定だったんだけど、1機だけしか造られませんでした。
ちなみに初飛行は1953年7月だよ。

…といったことらしいんですが、1機だけ造られた練習機なんて造って意味あるんでしょうか。
そもそもの計画でも4機だけってのが、どうも微妙ですが、
これは実験機と言うより、製造がキャンセルされた練習機ってのが正しいような。

さらになぜか世界でも最も早いと言っていい時期に、フライ バイ ワイア、
操縦系統の電子化が行われた機体でもあるとされてますが、1953年初飛行の機体で
フライ バイ ワイアなんてできるのかいな、といった気も。
そもそも、なんでこの機体でフライ バイ ワイア?
正直、よくわかりません…。

もしかしたら、いわゆる予算消化用に造られた機体かも。



ちなみに、その完成形、ロンドンの方に置かれてたヴァルカン爆撃機。
主翼前縁の空気取り入れ口とか、なるほど、707シリーズは先行実験機だ、という感じです。



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