■実験機で食いつなぐメーカーもあるんだよ、紳士淑女諸君
デルタ翼のカラスみたいなスタイルのフェアリー(Fairey)
FD2/デルタ2。
名前はFD2とデルタ2、どちらでもいいようです。
全部で2機造られたウチの1機。
超音速および遷音速における飛行実験用に造られた機体で、
これ、コンコルドみたいにコクピットから先が10度ほど下に傾けられるそうな。
離着陸時の視界確保用だったみたいですが、
このままでも、十分、視界はありそうな気がしますけどね。
1954年10月に初飛行、これは先に登場したライトニングのプロトタイプ、
イングリッシュ エレクトリック P1からわずか2ヶ月後ですから、
この時期のイギリスはフェスタ超音速機状態だったのでしょう。
1956年3月には1820km/hの飛行速度を達成、
当時、アメリカのF-100が持ってた最高速度の記録を破ったとのこと。
グロスター ミーティア(Meteor)のF.9/40。
F.9/40型は先行試作のプロトタイプで、全部で8機が造られました。
この機体は1942年7月に完成した最初のF.9/40です。
(6月の段階でほぼカタチになってたが、試験に入ったのが7月)
なのでミーティアの1号機であり、同時にイギリス最初のジェット戦闘機となります。
ただし、プロトタイプなので、武装はありません。
この一号機のシリアルはDG202/Gなんですが、最後のGは、
地上駐機中は、必ず警備用の人員をつけること、という意味だそうな。
まあ、最高機密の一つですからね、この機体。
で、ミーティアのプロトタイプは12機計画されましたが、結局8機のみが完成しました。
その中の5号機が、1943年3月5日、デ・ハビラント社の
ハルフォードH1(ゴブリンエンジンのルーツ)を積んで初飛行に成功しています。
ただし、このエンジンは量産型には使われませんでした。
展示の1号機はそれに遅れること約4ヶ月、43年の7月に初飛行したようです。
ミーティアは、戦後、かなり大規模な改修を受け、本格配備が始まるのですが、
現在、多くの博物館に残ってるのは戦後改修型で、戦争中の機体はほとんどありません。
このプロトタイプは、空気抵抗なんざ知るか、という切り立ったコクピット前の風防、
胴体下に飛び出してる垂直尾翼、短いエンジンナセルなど、
初期のミーティアのスタイルを知るにはとてもありがたい資料となってます。
はい、でもって、これもミーティア(笑)。
一応、戦後型のF8なんで、上の写真と
コクピット、エンジンナセルの形状などを見比べてみてください。
結構、変わってるでしょ。
ただし、機首から先を見比べちゃダメよ(笑)
この機体はミーティアを改造した試験機で1954年2月に初飛行、その後実験に使われた、
Prone
Position(うつぶせ姿勢)という、なんだそりゃ、といった名前の機体。
とりあえず、この角度だと何が何だかわかり難いですが…
前の方から見るとこんな感じ(笑)。
なんぼ広角16:9カメラでも、限界はありました…。
まあブリテン島におけるキング オブ なんじゃこりゃで、
この展示棟の裏番長、というとこでしょうか。
この蛇に飲み込まれるアヒルみたいな構造の機体は、
通常は後部のコクピットで操縦してます。
まあ、そこまでは普通なんですが、その先が普通じゃないわけで(笑)。
この延長された機首の先に付いた事実上の懲罰室は
うつぶせになって乗る、特殊なスタイルのコクピットが搭載されているのでした。
ちなみにこっちからも操縦は可能だったようですが、
最後まうつぶせ状態の操縦だけで、飛ばすことはしなかったようです。
で、そもそもなんでこんな機体がつくられたか、というと、
1950年代に、うつぶせになって操縦する、という設計が
本格的に検討されるようになっていたためでした。
理由の一つが、空気抵抗の削減です。
パイロットは寝てしまうのだからコクピットは上に飛び出さない、
機首内部にパイロットを収納可能で、機体に生じる空気抵抗は大幅に減る、という事。
(通常の戦闘機のレーダーは射撃補助用の小型なものだった時代なのに注意)
ここら辺は、戦争中の段階で、アメリカがすでにXP-79という実験機をとばしてます。
もう一つの理由は、本格的な耐Gスーツが開発される前だったため、うつぶせなら、
より高い旋回時のG(加速度だがこの場合は遠心力と思ってもらっていい)に
耐えられるのではないか、と考えられていたのがありました。
ジェット戦闘機のような高速での旋回でかかるGに対して、
座った状態では人間の肉体は耐えられないのではないか、
と考えられていたわけです。
背骨はなんとか耐えるにしても、血液や内臓が強烈に下方向に押し付けれるため、
よくて失神、悪けりゃ死ぬんじゃないかと。
それを避けるには、胃袋の位置をなるべく下に、というレポートがあったようで、
それならうつぶせにしてしまえ、というわけで。
その対策が、まあ、このスタイルによる操縦です(笑)。
どこの南米古代文明だ、というような絵ですが、本人達は大真面目でした。
ちなみにこのテストを主導したのは、空軍の医療部門であった
英空軍 航空医療機関(The
RAF Institute of Aviation
Medicine)。
人体にかかるGの影響を懸念し、このスタイルなら行けるかも、という事で実験に踏み切ったようです。
が、この機体で高いGのかかる機動をやったら、そもそも機体の方がもちませんから、
実験の目的は、うつぶせで操縦することは可能か?というところまでだったみたいですね。
そんな感じで、この機体、医療機関が主導して造った実験用戦闘機という珍しい存在となってます。
ああ、ホントに飛んでたんだねえ、これ(涙)…。
うつ伏せ用コクピットのパイロットはほぼ全身が見えてますね。
…その後ろのコクピットのパイロットは、飛行中に笑いをこらえるので、
結構、大変だったのではないか、という気がします。
ついでに、下の写真のモデルさんに微妙なテレが感じられるのが残念なところ(笑)。
説明によれば、やたらと姿勢調整用の機能が付いてるようですが、
やはりいろいろ大変だったんでしょうね。
ちなみに、調整は電動式で、ボタンを押すだけ、とされてます。
結局、55時間のテストの結果、うつ伏せで操縦は可能、となったようですが、
前以外の方向を見れない(そりゃそうだ)といった不具合が生じたほか、
耐Gスーツの実用化のメドが立ったこともあり、そこまでで終わったようですね。
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