■世界は実験から始まる



はい、そこから中に入ると、こんな感じ。

全く見たこともないような飛行機ばかりが並んでますが、
これは我々が無知ゆえではなく、普通の人は知らんような実験機ばかりだからです(笑)。

ちなみに、ここでも天井から、これでもか、まいったか、とばかりに
テスト フライト、試験飛行と書かれた看板がぶら下げまくられてます。
実は超大型ハエ取り紙になってる、とかなのかもしれません。

さて、覚悟は終わったので(涙)、各機体の説明に行きましょうか。
イギリスの場合、フランス、アメリカに比べると、
比較的控えめ、といっていい感じですしね。

あくまで、比較的、ですが(笑)。





さて、最初に参考資料として、ロンドンの方の博物館にあった
BACライトニング戦闘機の写真を載せときます。
もちろん、これは実験機ではなく、キチンとした戦闘機。

なんでこれを?というと、この開発に関係する実験機がいくつか登場するから。
その完成形をアタマに入れておいていただきたいわけで。

ちなみに、以下の記事ではメーカー名をイングリッシュ エレクトリック社と
してますが、これはまだBAC社に統合、合併される前だからです。



とりあえず、入り口の右側から見てゆきましょうか。
まずは、ショート SB5。

これがライトニング製作用実験機、その1。

ライトニングはイギリス初の本格的な超音速戦闘機として計画された機体ですが、
当時はまだ、超音速戦闘機と言われてもよう知らんがな、
という時代であり、その技術的なデータはあまりありませんでした。

なので、この設計にあたり、主翼の後退角度と水平尾翼の位置をめぐり、
王立航空庁(Royal Aircraft Establishment これも何度も名前が変わるので要注意)と、
メーカーだったイングリッシュ エレクトリック社の間に、
機体設計をめぐって、いくつかの意見対立が発生。

こうなったらどっちが正しいのか、キッチリ決着付けようじゃないか、
という男気あふれる理由から造られた機体がこれだとか。
1952年12月に初飛行、55年ごろまでデータ取りのための
実験飛行を続けていたみていですね。

ちなみに、博物館の説明によるとイングリッシュ エレクトリックの考えが
基本的には正しかったそうです。

主翼の後退角度と水平尾翼位置の各種データ取りを目的として作られた機体なので、
主翼の取り付けを3つの角度でできるようになってます。
ただし、飛行中の角度変更はできないので、可変翼ではありません。
また、この機体そのものは超音速飛行不可でした。
固定脚ですしね(笑)。

ちなみに、固定脚で収納不可なのは、実験機だからというのもあるでしょうが、
この主翼で、どこに脚を収納するんだ、という問題もあったはず。

で、その問題は最終形態であるライトニングにも付いてまわり、
結局、主翼下に収容したら、その関係で主翼下面には
何も搭載できない、といった他にあまり類を見ない欠点を抱える事になります。



さらにこの機体、水平尾翼の位置も変更可能でした。
胴体下面、そしてその正反対の垂直尾翼の上、
という二つのタイプが試され、これに関しては胴体後部を2種類製作、
それらを交換することで対応してます。

写真は水平尾翼を一番上につけちゃった方の後部胴体の交換用パーツ。
三角定規をそのままデザインとして採用してしまったような水平尾翼のカタチとか、
ああ過渡期なんだなあ、という感じでしょうか。
でもって、やっぱり、という感じにで、ライトニングには
胴体下取り付け尾翼の方が採用されることになります。

余談ながら、超音速で中翼というとF-104もそうですが、
あれは、この写真のような頂上型水平尾翼ですね、そういや。

ちなみにエンジンは一基のみですから、
胴体内の排気口はご覧のように円形のものが一つだけ。
よって、こんな縦長な胴体にする必要はないはずなんですが、
最終形態であるライトニングの縦2段積エンジンボディに合わせたのかも。
空力特性を見るなら、形状は似てた方がいいですから。



余談ながら、ショート社の正確な社名はShort Brothers and Harland Ltd で、
ショート兄弟とハーランド(重工業の会社)の有限会社、といった感じになります。
(ここも何度も名前が変わっており、1935年まではハーランドの名は入らない)

さすがに、あんまり長いので、日本ではショートと書かれる事が多いのですが、
本国のイギリスでも、ショートとしか書かれてませんでした。あれま(笑)。

ついでに、機体横の白い枠内には、
この機体は王立航空協会によって歴史的な価値があると認められたので保存する、
といったような事が書かれてます。

どっかの倉庫に入れてあった時代、間違ってスクラップにされないように書かれたのか?



ライトニング用実験機、その2 イングリッシュ エレクトリック P1。
金属で作った鯉のぼりみたいなデザインですね。

上のショートSB5で、後退翼の角度と、水平尾翼の位置が決まったことを受けて、
イングリッシュ エレクトリック自らが製造した、ライトニングのプロトタイプです。

生産型に比べると、機首の空気取り入れ口にコーン(三角錐)がない、
胴体下もすっきりしてるなど、かなりの差異があり、
これもどちらかと言えば、実験機に近い感じがします。

1954年の8月4日に初飛行、11日には水平飛行による音速突破に成功してます。
この機体では最終的にマッハ1.53が限度だったようですが、
ライトニングはさらに強力なエンジンが搭載され、マッハ2クラスの戦闘機になりました。


NEXT