■おフランスのエア・パワーを見るザンス
とりあえず、入り口から右に向かって進み、
最初の展示コーナーへ入ると、いきなり、これ(笑)。
フランスのジョン・マリー・ルブリ(Jean-Marie
Le
Bris)によるグライダーだとか。
ルブリは世界で始めて、動力(この場合は馬で牽引)によって
人が乗った物体を飛行させた人物、という事になってます。
特にフランスで(笑)。
1856年12月に馬に引かせたグライダーの飛行に成功した、
とされるんですが、私の知る限り、これ、自己申告でしかなかったはず。
後にフランス軍の援助を受けてつくったグライダー2号機では、
多くの人が実験に立ち会うのですが、
ほとんどまともに飛ばすことができずに終わってます。
さらについでに、最初の飛行に使われたグライダーというのは謎が多く、
まともな資料を見たことがないのです。
この博物館の機体は、後に彼が飛行機械で特許を申請した際に
添付していた図面を元に製作されたものだと思われます。
おそらくこれに近いものなのでしょうが、確証はありません。
つーか、そもそも、ホントに飛ぶのでしょうか、これ(笑)
一体、重心がどこにあるんだ、という感じですし、
主翼と胴体の接合部に、まともな剛性があるようにも見えません…。
まあ、最初の展示がこれ、ってのは
おフランスは世界イチの航空大国ザンス!という遠まわしな
主張なんでしょうが、どうなのかなあ(笑)。
その隣にはモンゴルフィエ兄弟による熱気球の模型が。
これは間違えなく、人類初の“飛行”で、
1783年11月21日に人を乗せての浮上に成功します。
(ちなみに初飛行に乗ったのは兄弟ではなく、別の二人組み)
しかし、このド派手な塗装、色塗るだけでもかなり大変だったんじゃ…
でもって、この博物館でも、そして世界中のどこでも無視されがちですが(涙)、
実はこのわずか10日後、12月1日に同じくフランス人であるシャルルと
(気体の体積に関するシャルルの法則の発見者)
その協力者であるロベール兄弟による水素ガス気球が
これも人間を乗せての初飛行に成功してます。
石油すらまともに無い時代ですから、当然、水素ガス気球の方が
利便性は高く、あっという間に気球の主役はこちらとなるのです。
いずれにせよ、この結果、フランスは世界の空の中心地となり、
20世紀に入る頃まで、その地位を保ち続ける事になりました。
ちなみに熱気球がスポーツなどで盛んになるのは、第二次大戦後、
簡易ガスバーナーなどが発展した結果で、
実に200年近く眠っていた気球が復活した、という事になります。
さらについでに、熱気球の発明はモンゴルフィエ兄弟、
シャルルのガス気球の実製作を担当したのがロベール兄弟、
さらに飛行機の発明はライト兄弟ですから、
空を飛ぶのに兄弟は必須条件なのか、という気がしてきますね。
その先に申し訳程度に天井からぶら下げられてたドイツのリリエンタールのグライダー。
普通に考えると、ルブリよりこっちがメインなんじゃないかなあ、と思いますが…。
彼の生み出した理論の流れはライト兄弟へと直結してるわけですし。
それ以外にもフランスで造られたと思われるビックリドッキリメカの数々の模型展示が。
当然、全て飛びませんでした。
ちなみに、プロペラに注目。
冗談みたいな構造ですが、ライト兄弟がその飛行機のために、
現代のプロペラに通じる木製の削りだしプロペラを発明するまで、
ほとんどの機体が、こういったオランダの風車のようなプロペラを搭載してました。
ライト兄弟のスゴイところは、初めて飛行機を飛ばした、というだけでなく、
それに必要な十分な推力を得るプロペラ、軽量なガソリンエンジン、
そして空の上で機体をコントロールする原理を
すべて一気に造り上げてしまった点にあります。
(人間的には問題の多い人たちでしたが(笑))
それらは偶然の産物ではなく、彼らが“なぜそうなるのか”を
徹底的に考え、そして実験によって膨大なデータを収集し、
その上でカンや思い付きではなく、かならず明快な理論的な裏付けを
持って設計していたからこそ、可能なことでした。
動力を使って空に浮くには、動力を利用して自重より大きな、
上向きの力を生み出さなければなりません。
機体を持ち上げる力が、機体重量を下回ってる限り、飛行はできないのです。
1890年代に入った段階で、リリエンタールの功績により、
主翼の上面にゆるいカーブをつけると、
平面翼より大きな力が得られる、というのは既に判ってました。
この点を徹底的に追求し、納得がいかない部分は自分達で
風洞まで作って実験し、理論的に空飛ぶことを完成させたのがライト兄弟でした。
彼ら以外の多くの機体は、この“浮くための理論的な追求”をあまりマジメにやってません。
ご覧の機体も主翼は平面のまんま。
これらを飛行と言う“人類の夢へ挑戦であり、ロマンである”と考えるか、
非生産的な一発ギャグと見るか、ですが、私は後者の立場を取ります。
自重より大きな力を翼で発生させない限り飛べない、
という明快な基準が既にあるのに、カンと根性で挑むのはロマンではなく、無策でしょう。
このフランスの博物館の展示を見ていて、つくづくそれを感じました。
とうぜん、こんなのも飛ぶわけがない。
当時の科学知識でも、動かす前から浮くはずが無い、
というのは予測可能だったはずです。
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