■鋼鉄はステキだ



さて、お次はソ連の主力戦車、T-34の後期生産型であるT-34 85です。
これもまあ、超有名どころで、さらに世界中の軍事博物館(アメリカを除く)に
ゴロゴロと転がってる戦車でもあります。
ついでに、私が世界で一番美しい、と思う戦車はこれです。

このサブタイプの85という数字は85mm砲を搭載してるから85、
というさすが共産主義国家、というわかりやすさとなってます(笑)。
ちなみに初期生産型は76mm砲搭載で、T-35 76となっています。

1945年の終戦までに5万両以上が生産されたと言われてますから、
例のヤクトパンターの約125倍(笑)。
なんぼヤクトパンターが強力とはいえ、そりゃ勝負になりませんわね…。

ちなみに、戦後も生産が続き、さらにソ連以外でもかなりの数が製造されたため、
正確な総生産数は不明、というのが実情のようです。

展示の車両は、いかにも大戦中のソ連ぽい塗装がされてますが、
実際は戦後生産型で、1955年のチェコスロバキア製のもの。
中東戦争でイスラエルが鹵獲した中の一台のようで、
それをこの博物館が有料が無料化はわかりませんが、譲り受けたようです。



後ろから見たところ。

T-34は、車両全体を斜めの装甲板で覆うというアイデアで、より耐弾性を高め、
さらには発火しにくい軽油が燃料で、燃費も良好なディーゼルエンジンを採用するなど、
それまでの戦車に比べ、いきなり10年は先を行くような先進的な設計でした。

ホントにこれがソ連の戦車?という位に斬新でして(笑)、
以後の世界の戦車の基準点となってゆきます。
実際、ドイツのパンター戦車などは、これの影響で生まれたものですし。

この後ろに積まれているドラム缶のようなものは外部燃料タンク。
いくら燃えにくい軽油とはいえ、これは怖いと思いますが、
T-34の強みは、燃費のいいディーゼルエンジンと、大量に詰める燃料も含まれるのです。

条件にもよりますが、最大で400km近くまで行動が可能とされますから、
これはドイツの4号戦車よりも長く、パンターやティーガーでは勝負にならない、
という移動距離となります。

その軽快な足回りと、この行動半径が生み出す機動力は、
延々と広大な平原が続く東部戦線に置いては、大きな強みになったはずです。
とにかく常に補給と整備なしでは戦力にならないドイツ戦車は、
その点でも不利だったと思われます。



20世紀の奇跡の軍用車両、という説明がなされていた、おなじみジープ。
第二次大戦時の連合軍の脚とでもいうべき存在で、
当然、イギリスでも使ってました。
これは1943年製でイタリア戦線において、救護用に使われた車両らしいです。

ここら辺は、死ぬほどディープなマニアがいくらでもいますし、
私が余計な説明はしないでおきます(笑)。



すばらしい、というほか無いレストア。
このそっけないまでにシンプルなのが、ジープの魅力でしょうね。
戦後のデメキン(ライトがデカイ)より、やはりこの戦中生産型の方がカッコいいな。



イギリスの25ポンド速射砲。
第二次大戦期にイギリスが運用した主力砲との事ですが、
私はその方面はさっぱりなので、よく知りませぬ。

口径は3.45インチ、約8.7cmらしいです。
榴弾砲と野砲の両方に使える砲として開発された、との事。

余談ですが、以前にも書いたように、
日本語は戦争用の語彙が致命的に少ない言語です。
とくに火砲に関してはかなり貧弱で、これは結構、困るのです。

例えば、日本語では榴弾砲も野砲も“砲”なんですが、
ヨーロッパ系の言語の場合、榴弾砲には固有名詞があります。
英語だとHowitzer であり、砲を意味するGun とは別物扱いです。
で、この25ポンド砲は、GunとHowitzer の両方に使える兵器だ、
といった説明がされています。

基本的には、遠距離の敵に向かい弾を上向きに撃って
放物線状の弾道で遠くまで飛ばすのがHowitzer(榴弾砲)。
なので弾を撃ちだす力はやや弱くても可で、
砲身は短め、撃ちだす火薬も少な目の砲となります。

対して、近距離の敵に対し、水平方向(正確には少し上を向ける)
に向けてドカンとやるのがGun (野砲)です。
これは弾をほぼ水平(実際はゆるい山なり)に飛ばすため、
強力なエネルギーが必要で、さらに弾の運動エネルギーで目標を破壊する
対戦車弾などもあり、強力なパワーで撃ちだす必要があります。
なので、砲身も長めで、撃ち出す火薬も強力になります。
(密閉空間で圧力を逃がさないため、砲身は長い方が強力になる。
ただし、同時に反動も強力になる)

となると、両者の差は砲弾ではなく、その砲弾の撃ち出し方によります。
当然、野砲や戦車砲のGunだって榴弾は撃ちますから、
こうなると日本語で榴弾砲とわれてもわけがわからん、
という感じになるわけで。

ちなみに、榴弾と言うのは弾の中に炸薬が仕込んであり、
その爆発によって生じる衝撃波、飛び散る破片で目標に損害を与えるものです。
それに対して、炸薬はなく、純粋に砲弾の運動エネルギーだけで
目標に損害を与えるのが徹甲弾です。

Howitzer には、日本語の場合、曲射砲という訳語もあり、
こちらの方が実態に近いのですが、なぜか榴弾砲と呼ばれる事が多く、
正直言って、日本の大砲屋の皆さんが何を考えてるのか私にはわかりません(笑)。

よって、ここら辺をキチンと日本語にするのは一苦労でして、私には無理。
要するに、それまで榴弾砲(遠距離曲射用)と野砲(近距離水平射撃用)に分かれていたのが、
この砲のあたりから、一つの砲で両方できるようになった、という事だと
思っておいてもらえば、ほぼ間違いないかと思います。

ある意味、現代の野砲の流れに繋がる速射砲ではあるわけで。


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