■カメの力だ
その横から例の吹き抜け空間のホールへ。
入り口のある2階から降りて来たので、ここが1階になります。
で、このホールに置いてあるのが秀吉の朝鮮侵略を迎え撃った朝鮮水軍において、
大活躍した事で有名な亀甲船の復元模型。
ちなみに、解説板をよく見るとハングルでのみ、
実はこれ1/2.5のサイズなの、的な事が書いてありまして、
何と言うか、そういう大事な事はキチンと全言語で説明しましょうよ…。
ただし、これで1/2.5という事は現物は相当に巨大、という事になりますが、
次で説明するように、この大きさの根拠は不明です。
ついでに、この模型だと艦首に木製の枠に入った液晶のモニタが付いてますが、
いろいろ調べてみた限りでは、16世紀当時に液晶モニタは無かったようですから、
この部分は考証を間違えていると見ていいでしょう。
上から見るとこんな感じ。
ちなみに亀甲船の図面や絵は私の知る限りでは現存せず、
この船を使って日本軍を蹴散らした李舜臣の親族が書いた、
「李舜臣行録」におおまかな文章説明があるのみです。
(余談ながらこの博物館で李の英語表記がLiとYiの2種類あるのはなぜだろう…)
よく資料として使われる「李忠武公全書」は全く時代が違う書物で、
日本だと江戸時代後期の本ですから、基本的に参考になりません。
その「李舜臣行録」の説明を見る限り、天井が鉄板であること、
そこから槍の穂先のようなものが無数に飛び出していて、
ここに枯れ草などを引っ掛けて偽装したこと、
敵が飛び移ってきても、これが刺さって防げたこと、
艦首に竜の首が付いていたこと、ぐらいしかわかりません。
なので、この模型は活躍想像図といった範疇を出ないもの、
と考えておくのが無難であろう、と思われます。
実際、沿岸で活躍する軍船ですから、手漕ぎの櫓がもっとないと
素早く動けないと思いますし、
船のサイズからしてこの帆では小さすぎるようにも見えます。
ただし、韓国側の名誉のために言い添えて置くと、
日本はこれだけの海洋国家なのに造船技術は江戸時代が終わるまで、
世界的に見て常に後進地帯であり、
恐らく当時、海上戦では朝鮮側が有利であった、というのは事実でしょう。
さらに上を鉄板で覆ってしまう、というのは放物線を描いて飛んでくる
火矢を防げますから、木造船で最も恐ろしい火災を防ぐことができ、
それなりに理にかなった構造です。
なので、こういった船が実在したのは、ほぼ間違いなく、
後は細かい構造がわからない、
という問題だけが残る、と見るべきでしょうね。
その奥にあった帆船。
これも1/2.5の模型ですが、例によって朝鮮王朝時代のもの、
という解説しかなく、どんな船なんだかさっぱりわかりません(笑)。
…1910年までこれでした、って事はないよねえ…。
さて、そこから奥の展示室に向かいましょう。
左側に見えてるのが最初の展示室の入り口です。
まずは三国時代からスタート。
紀元300年辺りから600年くらいまで、
例の高句麗(こうくり)、そして後に半島を統一する新羅(しらぎ)、
さらに滅亡後に大量の亡命者を日本に送り込むことになる
百済(くだら)の3国が並存した時代です。
この時代の日本と朝鮮半島の結びつきは強烈なものがあり、
特に滅亡した王朝からの大量の亡命者を通じて、
日本は強烈とも言える影響を受けました。
最初にも書いたように、言語的、文化的な両者の類似性は、
おそらくこの時代に作られたものだと思われます。
例えば、秦(はた)、あるいは畑、羽田、という字が付く名前は
朝鮮半島先端にあった古代の王朝、三韓国家のひとつで新羅に滅ぼされたらしい
秦韓(辰韓)から日本にやって来た、王族を自称する亡命者たちの名乗りでした。
地名の読みで“はた”がつく場所、あるいは
京都の太秦(うずまさ)のように秦の字がつく場所は、
元はその入植地だったものがほとんどです。
特に関東地方では秦(はた)、羽田、畑の地名はが多く、
さらに高麗(こま)、狛(こま)、駒(こま/ただし元が牧場だった地名のケースもあり)
という高句麗由来文字が付いた地名もよく見ます。
(高句麗は一時、高麗を名乗っており、古代日本で高麗(こま)と書くと高句麗のこと)
脱線ついでに、山の名前に丸、駒、が付くのも、
朝鮮半島からの入植者が持ち込んだ山岳信仰によると思うのですが、
こっちは残念ながら証拠がありません(笑)…。
日本書紀などを見ると、朝鮮半島から亡命者が来ると、
片っ端から長野から関東平野に向けて送り込んでますから、
後の関東の武士の多くは、その末裔、と考える事もできるでしょう。
ついでに、現代日本につながる大和朝廷(王権)の発生と、
この三国時代の始まりはほぼ同時期であり、おそらく完全に無縁ではない、
という点にも注意が必要です。
が、この後、新羅が半島を統一、そこから高麗、朝鮮と時代が進むにつれて、
日本との関係は不思議なほど、希薄になってゆくわけです。
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