■戦争にはいろんなモノが要るのだよ



で、こっちは最新式のリングレーザージャイロ。
これはただのジャイロスコープで、
船体などの傾きを計測するのものだと思ってたんですが、
話を聞いたら、ジャイロコンパスにも使われてる、との事でした。

リングレーザーは時間差から傾きを計測するもので、
基本的にどちらかを向き続ける、という事はできませんし、
当然、北を向く、なんていう特性もありません。
どうやってるんだろう、と思ったら、最初に起動した時、
北(とは限らないみたいな言い方だったが)の方向を原点として入力すると、
以後はその原点からどれだけずれたかをコンピュータで計算して、
正確な方位を維持し続けるのだとか。

リングレーザー装置は、その名の通り、レーザーを使って精密な傾きを計測するものです。
回転する(つまり慣性系ではない)光回路では、
右回りと左回りで、回路を一周するのに時間差が生じる、という
サニャック(Sagnac)効果を利用しています。

なんじゃそれ、というのを理解するために、最初に光ファイバーで光が1周する回路を考えましょう。
わかりやすく、とりあえず円で。
実際は、円でなくても、鏡の反射を利用してた正方形や正三角の回路でも同じことが起こります。


赤い点が発光点で、ここからレーザーは光ファイバーの回路を一周し、発光点に戻ってきます。
レーザーは当然、光ですから、そりゃもう高速なんですが、
現代の技術なら、極めて正確に計測できるため、問題なし。

このとき、左回りと右回りにレーザーを打ち出しても、当然、同じ時間で戻ってきます。
が、この回路を回転させる(傾ける)とどうなるか。

実は右回りと左回りで、かかる時間が変わってしまうのです。
なぜか、という説明によく用いられるのが以下の説明。

●発光点が右に回転する(傾く)なら、左回り(オレンジの矢印)は
本来の一周を終える前に、発光点にたどり着いてしまうから、距離は縮む。
右回りなら(赤い矢印)一周してもまだ発光点にたどりつけず、距離が伸びる。
光速は一定なのだから、移動距離が変わればかかる時間もかわる。
この差を計測してるのが、リングレーザージャイロである。

この展示の解説でも、この説明が行われてました。
なるほど、と思ってしまいます。
傾けば発光点は動くから、こうなるよね、と。

が、実はこの説明、正しくはないのです(笑)。
とりあえず、概念をつかむ分には十分ですし、
自衛隊の現場の皆さんがこれ以上、深入りする必要は無いでしょうが、
これではいくつもの矛盾が生じてしまい、正しくは理解できません。

そもそも、実際のジャイロの光ファイバー回路は三角形になってますから、
円と違い、回転で移動距離が変わる、というのは成り立たないわけで。

サニャック効果、回転する(傾く)回路内を移動する光は、
その方向により速度(距離/時間)が変わる、という現象は、
相対性理論で示された、時間と空間の相対性から考える必要があります。

最後まで証明するには一般相対性理論が不可欠で、
正直、私の手には余るのですが、
原理的な考え方の理解だけなら、特殊相対性理論のレベルでもできます。
ついでだから、ちょっとだけ、説明しておきます。

まず、複数の観測者の時間と空間が、同じ長さを持つのは、同じ慣性系にいる時のみです。
つまり空間を、同じ方向に同じ速度(等速)で直線運動してる場合のみ、となります。
それ以外の場合、必ず、時間と空間はお互いに同じ長さを持ちません。
これは絶対です。

なので、実は地球いる私達は、同じ時間の長さ、モノの長さを持ちません。
地球閣下は自転でブンブン回ってる上に、かてて加えて、公転で太陽の周りを回ってます。
しかも人間は歩くは車に乗るは、あげくに飛行機で時速数百kmで、
好きな方角に移動してしまうんだから、直線、しかも等速運動なんて、どこにもありゃしないわけで。

ただ偶然か、神の故意か、私達の感覚では、
相対性理論で予測されるほど、微小な時間差も空間差も感知する事ができません。
なので、人間が地球上で生活する場合、1mは地球のどこでも1mですし、
1秒はどこでも1秒で、問題は生じないのです。

もっとも、時間と空間のずれは、光速に近づくほど大きくなりますから、
ある日突然、南極大陸だけが光速の90%で回転し始めたりしたら、
ペンギンと我々は、お互いが異なる時間と空間の尺度にあることを知る事ができます。

さて、レーザージャイロに話を戻しましょう。
先に書いたように、光速レベルの微細時間でみたら、
地球中で慣性系は破綻してますから(自転半径による速度差もある)、
おそらく、最初にその誤差をデータとして持ってると思われます。

で、後は話は簡単で、常にその最初の数値が維持されていれば問題なし。
が、もし、船が傾いたら、この装置も一緒に傾きます。
ここでは、回転運動(角速度)で従来の誤差から、さらに誤差が生じますから、
その時間差を計測してやれば、いい、という事です。
光速は絶対ですから、極めて正確な傾きを計算で求めることができるわけです。

あくまで、原理的な話で、実際はさらに複雑なんですが、
とりあえず、非慣性系の時間差という現象を利用してるのだ、
というのがわかれば、という話で書いておきます。

最近では、民間の船や、航空機にも搭載されてるらしいので、
ある意味もっとも身近な相対性理論の正しさの証明でもありますし。



そのリングレーザージャイロの本体。
これに3枚の回路を入れる、ということなので、
3次元、XYZを計測してるんでしょうかね。

で、船を目的の港に導くだけなら、こんな正確な装置はいらんわけで、
おそらく、兵器の照準、誘導が大きくからんでるんでしょう。



その先にあったスペイなる展示室。
なんだこれ、と思ったら、ロールス・ロイスのスペイエンジンのことらしい。
あのブリティッシュファントム、イギリスのF4シリーズが積んでたエンジン。

それの艦船用となると、ガスタービンエンジンの実習室でしょう。



その展示棟にあった、ガスタービンエンジン消火機(笑)。
…ガスタービン、ですか…。
つーか、そんなハイパワー、消火機にいるんでしょうか(駄洒落)。



先端部を覗くとこんな感じ。
言われてみればガスタービン、という印象。

確実に2世代前のものですが、実習用なら十分なんでしょう。

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