コクピット部を斜め後ろから。

手前にデーンと立ってるのはアンテナ線用のポール。

大戦期の航空機用無線は波長の長い短波(波長10〜100m前後)が多かったので、
送受信にはそれなりの長さのアンテナが必要でした。
が、小型の戦闘機にそんな長いアンテナは積めませんから、機体のどこかにポールを立てて、
そこから尾翼までアンテナ線を張って送受信に使う、という方法が一般的だったわけです。
なので、大戦期の機体の胴体には、アンテナ線を立てるためのポールが付いて回る事になります。

が、例外がありにけり。
Fw190が最初にやったと思われるのですが、パイロットの背もたれを防弾板にするなら、
これ鋼板ですからアンテナポールに使えるじゃん、とタンク博士は思ったわけです。

この結果、Fw190からはアンテナポールが消えます。
その代わり、キャノピーの上に、アンテナ線を取り込む穴を開け、
ここを通してアンテナ線が背もたれまで延びることになります。



参考までに、FW190Aの背面。ね、アンテナポールないでしょ。
で、キャノピーの白い矢印のとこに穴が開いており、
ここを通じて、アンテナ線は背もたれの防弾鋼板につながります。
ナイスな設計です。

で、じつは世界で一番ドイツ機のデザインをパクってるアメリカ(笑)、
こりゃいいアイデアだわい、と水滴風防になったP51Dから、同じような設計にしちゃうのでした。
ただし、P51Dの場合、より波長の短いVHF無線も積んでいたので、
その小さなアンテナが、胴体の上に取り付けられています。

さらに余談ながら、P51Dの場合、キャノピーの開く方向がちょっと特殊なので、
アンテナ線を痛めないようここに滑車が付いてます。
このため、このキャノピーはかなり再生産が難しいようで、
この部分をキチンと再現してる現存機は、
私の知る限りではスミソニアン航空宇宙間の本館にあるのと、
アメリカ空軍博物館にある機体くらいだと思います。

かなりレベルの高いロンドンRAF博物館の機体もこの点はダメで、
アンテナ線を胴体横に引っ張って行ってしまってます。
これはP-47やP-51H型以降のやり方でして、間違いです。



コクピット後部。

気分は鳥かごの中、ですね。
中は機体上部そのまま、胴体の上にキャノピーを載せただけ、という構造です。
特に創意も工夫もありません。
…だったら、キャノピー、もっと短くできるでしょうに。意味があるのか、この長さに。

手前に見えてるのは例のアンテナポール、奥のほうにバベルの塔のように立ちはだかっているのは、
背もたれ&機体が地上で転倒したときに、パイロットが押しつぶされないように支えるところ。
なので、十分な強度がいるんですが、いいのか、あんなに穴開けちゃって…。

欧米機だと、この部分が防弾板をかねるんですが、ゼロ戦の場合は、ただの箱です、はい。



真後ろから内部全体を見てみる。

まあ、とりあえず驚くほどきれいな状態で残ってまして、見事と言うほかありません。

注目は手前、主翼後部では胴体内に食い込んでおらずただの空間で、
その奥、コクピット下部の主桁部分のみが胴体を左右に貫通してる、という点。
で、この貫通してる主翼の上にコクピットを乗っけてしまうことで、
座席の位置を高くしてるわけです。

他に気になるのは、左右対称ではない内部構造になってる点。
右の三角のパーツとか、何のためのものやら…。
とりあえず、床に転がってるのがパイロット用の酸素ボンベ、
奥に立ててあるのが、エンジンの消火剤のボンベだったはず。

一番上には例のアンテナポールが胴体内に入ってるのですが、
これ、どこにも接続されておらず、さらにはどうも木のような材質感。
いわゆる軽量化で無線を降ろして、
怒られないようにダミーのアンテナポールをつけてた、というヤツでしょうかね。
これを見たイギリス人、どう思ったのが、興味があるところです(笑)。

**追記
そもそもゼロ戦のアンテナポールは最初から絶縁体の木だった、
という指摘を掲示板でもらいましたので、どうもこれでいいみたいです。


ついでに、機体の底って水平ではなく、微妙に下に飛び出してるんですね、これ。



もうちょっと近くから。
この機体、座席は外されてしまっているので、コクピットのパネルが見えてます。
操縦桿と、ラダー操作用のペダルもキチンと残ってますね。

で、その下、床の上に縦方向に置かれた棒は操縦桿から伸びてるもので、
この下で主翼のエルロンを動かす軸に繋がってます。
そこからさらに機体後部の昇降舵(エレベーター)を動かすワイアが伸びてるはずなんですが、
この胴体後部を失った状態では、その確認ができませんでした。

手前で左右に渡されてる棒の左側に、なんだか浮き輪みたいなものが付いてたり、
その上にオタマみたいなものが飛び出してたりしますが、なんでしょうね、これ。


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