■飛行機で高飛びしても、どこまでも行けるわけではなし
さて、このレポートで取り上げるデータでは最も意外な結果になったのが、今回の航続距離の比較。
後で出てくるグラフは、機体内燃料タンクを満タンにした状態で
どこまで飛べるか、を示し(機外燃料タンク(増槽)は使用しない)、
単純に航続距離の長い順に上から並べてあります。
これもメートル法に換算してあるので、横軸の単位はKmです。
軍用機には機内のタンク以外に、主翼下にぶら下げる外付けの燃料タンクが使える。
増加タンクとか、増槽とか呼ばれるものだ。
写真はP51D用の75gal(283.5リットル)を2個ぶら下げた状態。
当然、これは巨大な空気抵抗源なので、いざ空中戦に入る、という時は切り離して捨ててしまいます。
が、そうそう空中戦なんてあるもんじゃないので、通常は付けたまま基地まで持って帰ってました。
未だに報告を見たことないんですが、これにあたって死んだ兵隊さんとか、いるんじゃないかなあ。
半分近く燃料が残った状態とかで、高度1万メートルから落ちてきたら、事実上、砲弾と変わらないですぜ。
まあ、これが本格的に運用されるようになるのは1940年以降くらいからなので、
開戦当初にヨーロッパ戦線を戦ったスピットファイアやMe109の初期型など、
これが使えない機体も結構あります。
F4F-3もどうも使えなかったように見えなくもなくもなく…。
ただし、いくつか注意事項がありにけり。
まず、P51Dは胴体内にある長距離飛行用の320リットル予備タンクを「使わない」データとなってます。
これを使うと重量バランスが崩れて飛行中に機体が傾いてしまい、まっすぐ飛ぶのがやっと、
という状態になるようで、通常は空にして飛びます。
が、長距離任務に就く場合は、当然ここにも燃料をいれます。
実際は280リットル以上は危なくて入れてないようですが、
それでも燃費から逆算すると、航続距離は2100kmを越えてくるはず。
なので、グラフにはその推定値も入れてあります。
同じくP38Jにも、通常は使用しないタンク、主翼前縁部タンク(Leading
edge wing
tank)があるんですが、
これがある機体とない機体が存在するような説明があり、どうにもはっきりしないので、
ここでは「無い方」を基準とし、念のため使用した場合の距離も入れて置きました。
これは推測値ではなく正規の数字です。
ちなみに「予備」の主翼前縁部タンクは124ガロン、468.7リットル入り、
これだけで、すでに雷電のメインタンクよりも大きい容量だったりします。
やっぱりお大臣様専用機なんですよ、P38。
実際、星の王子様のパパが乗ってたらしいので、星の王子様のパパなら、多分王様だと思いますから、
まあ、そういう機体なんでしょう(あれはF-5やん)。
もう一つ、今回最大のダークホースとなった飛燕ですが、米軍テストデータでは、
ガソリンタンク容量は199ガロン、752.2リッター搭載、となっています。
が、関連書籍等を見る限り、1型の機内燃料タンクは、600リットル前後らしい。
うーむ。
よって、テスト機は改造が施されていた、あるいはホントは760リットル位まで
入れることができたのに恥ずかしくて言い出せなかった、のどちらかだと思われるのですが、
正直、よくわからなかったりします…。
とりあえず、今回はその試験データを素直に載せることにしておきますが、
何か情報をお持ちの方がいましたら、連絡くださいませ。
(極初期に造られた型のみ750リットル前後積めた、との情報をいただきました。
もしそうだとすると、通常生産型は380km近く航続距離は縮みますので、F4Fと屠龍の間くらいとなります)
ではさっそく見て行きましょう。
大型で燃料のタンクも大きい双発機が上位を独占、と思ったのですが、意外や、そうでもなく、
月光が1位にはなったものの、以降は2位に超ダークホース飛燕、
3位はこれも意外な機体で、F6Fとなりました。うーん、完全に予想外でやんす(笑)。
で、F6Fにも長距離飛行用の予備タンクがありまして、これに283.5リットル入ります。
このテストはこのタンクを使った状態の数字です。
巷に出回ってるF6Fの航続距離1750kmは、この予備タンク無しの航続距離、1770.2kmが
日本にきたらキリのいい数字にされてしまったものでしょう。
さて、2000kmを一つの基準として見た場合、上で説明した通り、P51Dもこれを越えて来るので、
全部で7機種がそのラインを越えます。日本機3機に米軍機4機。
が、単発戦闘機という点から見ると、日本機は唯一飛燕のみ、一方、米軍の4機種は全て単発戦闘機なんですね。
正直、意外だったのですが、米戦闘機の航続距離は、完全に日本機を凌駕しているのです。
なんで、日本の航空機が航続距離で世界トップレベルだったんだよーん!ヒャッホー!という話は、
極東の島国に伝わる、ほのぼのとした民間信仰にすぎないんだなあ、と言わざるをえません。
そう考えたい気持ち、わかりますし、なごみますが、それよりも泣けますね(涙)。
まあ、ヨーロッパ式戦闘機の鍾馗、インターセプターの雷電が最下位とブービーなのは、
ある意味しかたの無いところなんですが。
うーん、伝え聞くところによると、我らが帝国海軍閣下は
「米軍機の航続距離の外から、航続距離に優れるわが軍の機体を飛ばして、ケチョンケチョンに攻撃したれ」
というアウトレンジ戦法なるのものを使ったらしいとか。
が、このデータを見ると、どこからその自信が出てきたのか、理解に苦しみます。
また、長距離戦闘機、と言えば日本はゼロ戦、アメリカはP38という印象だったのですが、
両者とも中位から下位のランキングとなりました。この点で、きわめて平凡な機体となってますな。
では、今回の意外大賞その1、ゼロ戦を見てみましょう。
よく言われるように、やはり32型はかなり見劣りがしますが、その改良型の52型でもこんな感じです。
疾風より少し長い程度で、これ以下の航続距離しかない機体は、米軍機では事実上P47のみです。
初期の21型はもう少し航続距離が長かったのですが、それでも1900-2000km前後らしいので、
まあ、やっぱりちょっと厳しいことに変わりはありません。
また、328.8リッターの増槽を積むと2550.7kmまで航続距離は延びるのですが、これも
増槽付きで3851km飛ぶムスタング、同じく3636kmのP38Jから見ると、
残念ながら、やはり勝負になっていないという印象が残ります。
特に、航続距離でもF4-F3に及んでいないのは注目でしょう。
もっとも、速度の所で書いたように、F4F-4では防弾装備による重量増で航続距離も落ちました。
なんと1488kmにまでガタ落ちしますので、この段階では逆転。
ただワイルドキャットの増槽は438.5リッター積めて、実に2580km近くまで飛べますので、
再びゼロ戦と互角になります。まあ、いいライバルですね、この両機は。
次のビックリ大賞はP38。
山本長官機撃墜や、ヨーロッパでの長距離任務など、「長距離戦闘機」という印象がありますが、
実は、航続距離で2000kmを越えておらず、主翼前縁部タンク無しだと、
ほとんどインターセプター機のような航続距離となります。
前縁翼部の拡張タンクありでも、せいぜい1890kmまで。
ヨーロッパならともかく、太平洋戦線では、とても恥ずかしくて長距離戦闘機は名乗れません。
が、実はこの機体、その大きな図体とターボチャージャー付き双発エンジンのパワーにモノを言わせ、
なんと600ガロン、2268リットルの増槽をつめます。ゼロ戦の328.8リットルに比べ、約7倍。
ワンカップ大関かかえてるゼロ戦と、一升瓶かかえてるP38、といった感じでしょうか。
もう空飛ぶガソリンスタンド状態ですから、そら航続距離も伸びますね。
そんなわけで、P38の航続距離は、事実上、増槽の助けによるものなのでした。
ずるいよね(笑)。
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