■ガソリンは正義だ
航続距離を考える場合、当然、その燃料搭載量が問題になります。
なので、ここで意外に見かけない、燃料タンクの容量比べをやってみましょう。
このデータは、各試験で「実際に目いっぱい積んだ量」なので、タンクそのものは
もう少し大きい可能性があります。
が、実際にはこれ以上積めないわけなので、事実上の「タンク容量」と考えてよいかと。
やはり、図体のでかい双発機はこの点で有利でした。
トップ4の内、3機までが日米双発機となっています。
例の予備タンクしだいなんですが、実質的にはP38がトップでしょう。
で、ここで今回のビックリ大賞。なんと機体内燃料搭載量で2位は、単発のP47Dなんですね。
胴体でかいからねえ、というのはその通りなんですが、ここで再度、航続距離グラフ
を見てください。
P47Dって「実質的」には米軍機の中で航続距離、ビリなんですよ。
ゼロ戦32型と同じレベルです。
で、そのガソリンの搭載量で比べると、1400リットルのP47Dに対し、ゼロ戦32型は532リットル、なんと1/3です。
逆に言えば燃費は3倍悪い。3倍ですぜ(笑)。
テキサスに油田でもなければやってられませんな。
P47D、敵と地球環境とおサイフに厳しい機体であります。
まあ、せっかくだから大サービスで、燃費のグラフも載せときます。
1リットルでどれだけ飛べるか、を現してます。
こちらもトップは米軍機でF4F-3。リッター3.5kmを越えてますんで、下手なレーシングカーより燃費はいい。
もっとも、何度も書くようにF4F-4になってからは重量が増えて、これも2.7km/h程度まで下がります。
が、それを除けば日本機の天下でして、トップ5中、4機までが日本機です。
ここで、ゼロ戦のデータに注目してみましょう。
よく言われるように32型は燃費が悪く、実際52型より落ちます。
が、32型がリッター3km、52型が3.1kmなので、500リットルの燃料で、航続距離にして50km前後の差にしかなりません。
これをどう見るか。実際はタンクの容量が小さいので、32型の方が200kmほど航続距離は短いんですけどね。
21、22型あたりのデータも欲しいところですが、今回は見送り。
そして、注目したいのはP51DとF6Fの燃費のよさ。
特に「大食い」で鳴らしたマーリンの60系を積んでリッター2.6kmの燃費を実現したP51Dは見事で、
同じエンジンのスピットファイアMk.IX(9)が2.2kmで、しかも試験時重量で、P51Dの方が1トン以上重いのです。
これはもう空力の優秀さ、という他ないでしょう。
高速飛行とは関係の無い、巡航飛行の場合、スピットの楕円欲は誘導抵抗を減らして燃費をよくできるはずなんですが。
この数字を見る限り、ムスタングの前には何の効果もないようです。
ほんと、スキのない機体ですねムスタング。日本じゃ人気出ないわけだよ(笑)。
また、デブだビヤ樽だメタボリック戦闘機だといった印象が先走り、
アメリカンマッチョパワー全開な印象のあるF6Fですが、
その燃費は疾風と互角で、さらに同じエンジンを積んで、よりスマートなデザインのF4Uを上回ります。
つまり、メタボリック症候群の疑いはF4Uの方が高い(笑)。
正直、なぜあの機体がここまでの数字を出せるのかよくわからんのですが。
まあ実際、F6FとF4U、見かけ上はF4Uの方が圧倒的にスマートですが、
実は重量的はほとんど同じ(試験時重量で60kg差)なんで、そこら辺の関係と、
あのビヤ樽型のボディは、未だ知られぬ誘導抵抗の軽減効果とかあるんですかねえ…。
いずれにせよ、2段2速スーパーチャージャー、燃費的には極めて良好ですね。
最後にいくつかの突っ込みを(笑)。
まずは飛燕で、8位の燃料搭載量で2位の航続距離を叩き出したわけですから、
当然、ごらんのように燃費もかなりいい。
隼に僅差で敗れて3位ですが、試験時重量で両者600kgの差がありますので、これはかなり立派な数字です。
が、見方を換えれば、それだけパワーが出てなかったわけでもあり、その結果があの速度と高度性能。
ある意味「地球環境にやさしく、アメリカ軍にまでやさしい」という天使のような機体ですが、
残念無念、エコで戦争には勝てないのでした。
あと、最下位とブービーの機体にも注目。
P38JとP47D。そう、両者とも排気タービン搭載機。
やはり、ターボ、燃費はむちゃくちゃ悪いですね。その分、確かにエンジンパワーは全高度で発揮されるんですが…。
もう一つの過給システム、スーパーチャージャーはエンジンのパワーを使って
過給用の羽根車を回すので、当然、エンジンパワーを食います。
これが結構でかくて、マーリン60系に積んでた2段2速だと、10%近いエンジン出力のロスとなってます。
この点、エンジン排気、本来捨てられるエネルギーを使って動く排気タービンは有利なわけですが、
これだけ燃料を食うエンジンになる、となるとさすがに単発機では厳しいですね。
実際、ウルトラ超絶戦闘機、という印象のP47も、航続距離だけは泣き所で、
米軍パイロットがもっとも燃料を食わないセッティングを必死で探す話とかを読んだことがあります。
はい、今回はここまで。
次回は上昇力と、余裕があればロール性能まで行きます。
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