■今回のまな板の故意な機体たち アメリカ海軍■
■F4Fワイルドキャット
アメリカ海軍の山猫。
日本機の初期のライバルとして名高いが、なにせ初飛行が1937年で、完全に一世代前の機体。
もっとも、スピットやMe109と同世代なのだから、完全な旧式機というわけでもない。
日本側の戦記を読むと、ゼロ戦にケチョンケチョンにされた「やられ役」という印象があるが、
実際は互角に戦えるだけの性能を持っているし、その戦果も互角だろう。
実際、開戦以降、2年近くにわたり、アメリカ海軍で矢面に立っていた制空戦闘機は本機である。
特に4回もの(そして事実上全ての)空母同士の機動部隊決戦、航空戦が行われた1942年に、
アメリカ海軍を支えたのはこの機体であることは紛れもない事実だ。
ヘルキャットが前面に出てくる43年の後半には、すでに太平洋の戦いの決着はほぼ付いていおり、
太平洋からゼロ戦を一掃したのは、このワイルドキャットの力だった。
しかもこの機体、1939年に作られた最初の量産型からすでに
2段2速スーパーチャージャーを搭載(量産機では世界初?)、当時のライバル、
ゼロ戦21型を圧倒する高空性能を持っていた。
制空戦闘機として考えた場合、このアドヴァンテージは大きい。
というか、データ的にはゼロ戦を上回ってる部分の方が多かったりするってのも、
今回のお話のひとつだったり。
え?ゼロ戦の航続距離?ウハハハハハハハ…
■F4U-コルセア
アメリカ海軍の海賊。
高速性を目指して巨大なプロペラ、絞り込んだ胴体、中翼構造にこだわった結果、
高い位置の主翼と地面との距離がえらく離れてしまった。
だが、艦載機としては長い主脚は構造的に弱くなるので避けたいぞ、
じゃあ、ってことで主翼を下向きに捻じ曲げる逆さカモメウィングこと逆ガル翼を採用した機体。
その結果、脚は短くでき、かつアメリカ海軍初の時速400マイル(約644km/h)突破機となったが、
失ったものも多く(笑)、本来約束されていた米海軍主力戦闘機の座を補欠だったF6Fに奪われてしまう。
ドラマだねえ…。ついで言うと、時速400マイル出たのは試作&非武装機の話で、
実は実戦配備後の機体では、大戦には間にあわなかった4型が登場するまで、
時速400マイルは出てなかったりする。でもカッコいいから、私は許す。
ちなみに2000馬力、それどころか1500馬力くらいからプロペラは4枚にするのが普通なのだが、
海軍のR2800エンジン搭載機、F4U、F6F共に3枚プロペラなのは、何か宗教的な理由でもあるんだろうか。
(F4Uは途中から4枚プロペラ)
同じエンジンを積んだ、陸軍のP47は4枚プロペラなので、エンジンの特性ではないと思うのだが…。
■F6Fヘルキャット
アメリカの青いデブことヘルキャット。
ヘルキャット、ネコが削減される、という意味ではなく、暴れん坊といったニュアンスらしい。
本来は海軍の計画から消えた機体なのだが、F4Uが意外に開発に手こずったため、
急遽、保険として生産が決定、さらにはそのまま、アメリカ海軍主力機の座を射止めてしまう。
「フフ、こんなデブで醜い私なんて、海軍さんに声をかけていただけただけでシ・ア・ワ・セ」
とか言っておきながら、美人で聡明で大金持ちで画鋲を常に持ち歩いてるライバルを蹴落として、
いつの間にやらあこがれの海軍さんとゴールイン、という
一昔前の少女まんがの主人公みたいな機体なのだ。
F4Uと同じエンジン、同じ車輪なのだが、ここまで違う機体になってしまったのもすごい。
コルセアが避けた中翼、長い脚をあざ笑うかのごとく採用、実際、実用性には問題がなかったのだから、
物事をあまり複雑に考える必要はないのかも。
性能的には全般的に平凡、F4Uと比べても劣っていた、とされますが、
実は…ってな感じの話をする予定。
もっても海軍さん飽きられたのも早く、1943年9月にデビューして、
終戦直後には事実上、お役ゴメンとなっているから、その活躍機はわずか2年前後に過ぎず、
事実上の使い捨てに近い使われ方だった。
特に一度は勝ったはずのライバル、F4Uがパワーアップして朝鮮戦争まで現役だったことを考えると、
その悲劇性が強く感じられる。
「ああ、海軍さんたら、昔の女にまた…」
といった、昼のメロドラマ的展開「良妻賢母型のまじめな女を襲う悲劇、家政婦とネコとカラスが見た!」
ってな感じの機体でもあった。
第二次大戦でもっとも活躍したアメリカ海軍機といった印象があるが、
そのデビューはほぼ戦争の行方が見えた1943年後半で、実はそれほど大きな活躍はしていない。
空母による機動部隊決戦の経験も、そう呼ぶにはあまりにアレなマリアナ海戦しかなく、
意外に実戦でのドラマ性に乏しい機体でもある。
■今回のまな板の故意な機体たち アメリカ陸軍■
■P-38 ライトニング
一時は世界中で造られた双発戦闘機、その多くはエンジン2個で単発機よりも低性能、
となってしまったのだが、ターボチャージャーという必殺技で唯一成功例となった機体がこれ。
ルパン三世が持ち歩いてたらしいが、ヤツの背広のポケットは4次元ポケットなんだろうか。
が、実際それなりに高性能とは言え、その開発費、そこから出て来た機体価格、
さらには燃費、維持費、あらゆるものがベラボーに高くつく、お大臣様専用機体で、
こんな機体、日本にあっても使いこなせなかったろう。金持ちのアメリカならではの戦闘機だ。
また、寒い環境には弱かったようで、太平洋戦線では全米軍を通じてナンバー1&2のエースパイロットを産みながら、
ヨーロッパ戦線のパイロットからの評価は散々だったりする(人にもよるが)。
ある意味、太平洋戦線の米軍向け専用の機体ではあった。
もっとも、高速偵察機を持たなかった米軍にとって、神の恵みのような機体でもあり、
かなりの数が偵察機として改造され、そちらでの活躍実績も評価が高い。
でもって、この機体、山本五十六機撃墜のエピソードなどで、長距離戦闘機といわれてますが、
実は…というのも、今回のお話の一つです。
■P-47 サンダーボルト
単発戦闘機に、当時の巨大なターボチャージャーを積み込んでしまった、これまたアメリカ式デラックス戦闘機。
ベラボーな数が生産された機体で、太平洋戦線では影が薄かったが、
事実上、アメリカ陸軍の主力戦闘機である。実機はまあ、巨大としか言いようがない迫力を持ちます。
しかしライトニングにサンダーボルトと、アメリカ陸軍は、よほど雷さんが好きなんですな。
米軍の最優秀戦闘機、というとP51が思い浮かびますし、実際そうなんですが、
単に「最強戦闘機」という基準で考えた場合は、コイツではないかなあ、と思ったりもします。
これもデブな機体ですが、機体下面に、排気タービン用のダクトなどを搭載してるためで、
エンジンの巨大さだけによるものではありません。
どうもF6Fの印象が強く、R2800エンジンというとやたらとデカイ、と思いがちですが、
エンジン単体で見れば、F4Uの機体サイズがR2800エンジンの普通サイズなのです。
■P51ムスタング
第二次世界大戦時における最良の戦闘機、との評価を与えられる戦闘機で、
実際、その性能は全てにおいてずば抜けて高く、しかもバランスが取れているという、奇跡のような機体。
しかもカッコいいんだから、完璧すぎてイヤミとも言え(笑)、
実際、日本人でこの機体がスキ、と言うのには結構勇気がいる。
ちなみに、私は愛してると言っておく(笑)。
それゆえ、やたら意識されて「P51と互角」「P51を上回ると言われた」などなど、
やたらと「P51より高性能だった」ということで引きあいに出されることが多い悲劇の機体でもあります(笑)。
が、実際には、1943年、マーリンエンジンをその心臓に得てから1945年8月の終戦まで、
本機はあらゆるジェット機と比べても、最良の制空戦闘機であり、最強でもあり続けました。
インターセプター、戦闘爆撃機などの視点から見ると、ムスタング以上の機体も多いですが、
やはり総合的なバランスでは一歩も二歩もムスタングが上。
ある空域の制空権を確保する、という目的において、この機体以上の存在は戦争が終わるまで現れてません。
その性能の秘密は、エンジンもさることながら、
やはり空力設計の奇跡だったんでないかな、というような話をして行く予定。
はい、といった、機体が今回、データ比較を行うメンバー。
アメリカのP40、日本の紫電改がいないのが残念ですが、それはまたの機会、ってことで。
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