■スーパーマリン スピットファイア Mk.IX(9)&Mk.XVI(16)
Supermarine Spitfire Mk.IX(9)&Mk.XVI(16)
今更、という気もしますが、どうも分かりにくい気がするので、
スピットファイア博士への道への第一歩、ローマ数字の読み方の確認を最初に少しだけ。
ローマ数字は漢字と同じくゼロの概念が無い、5が一つの区切りになってる、
5と10の左にある数字が
-1、右にある数字が +1 を意味する、という3点をまず覚えてください。
あとはスピットファイアに必要な20以下の数だと、
I、II、III / 漢字と同じく棒線で数を示すのが1、2、3
V
/
Vの字で5
X/ Xの字で10
これだけが必要な数字で、後は最初に見たルールにより、
I II III IV(5-1=4) V(5) VI(5+1=6) VII VIII IX(10-1=9) X(10)
XI(10+1=11) XII XIII XIV(14) XV(15) XVI(16)…
となります。
さて、今回の記事は後期型マーリン搭載スピットを代表する
MK.IX(9)シリーズなんですが、ただでさえ形式名が多いスピットで、
この機体はさらにヴァリエーションが多く、特異点とでも言うべき存在となってます。
逆に言えばマーリンスピットの最難関がこの機体で、これさえクリアすれば
所属地方自治体内でのナンバー1 スピットファイア博士も夢ではありませぬ。
まず2段2速のステキなエンジン、マーリン60シリーズを急遽、
既に生産中だったMk.V(5)の機体に積み込んだのがMk.IX(9)でした。
で、さらにMk.IX(9)のほぼ同型機と言っていい機体、Mk.XVI(16)が存在します。
Mk.XVI(16)は、アメリカ製のパッカード マーリンエンジンを積んでる機体なんですが、
それ以外の部分は、ほぼMk.IX(9)そのまんまです。
ついでにパッカード社製の2段2速マーリンはアメリカでの名前はV1650系ですが、
イギリス空軍での呼称はマーリン266系です。
その程度なら、これもMk.IX(9)でいいじゃん、と思ってしまうところですが、
イギリスとアメリカでは工業規格が異なるため、パッカード製のマーリンエンジンは
イギリスの工具では完全な整備ができず、逆もまた真なり、という事情がありました。
なので、使用するのがイギリス式の工具か、アメリカ式の工具かで混乱が起きないように、
別の機種として現場に配備されるようになったわけです。
(基本的に同じ部隊には同じ機種が配備されるが、全く混在が無かったかは確認できず)
ちなみに、エンジン故障で工場送りになった機体がエンジン差し替えの結果、
昨日までMk.IX(9)だったのに今日からMk.XVI(16)として帰ってきた、
といった事もあったようです。
番号が9から16と飛ぶのはアメリカ製エンジンの採用に踏み切るまでに、
偵察型やらグリフォンエンジン搭載型スピットがバカスカ造られてしまったため。
さらにその間にMk.IX(9)もいろいろ進化してしまったため、
Mk.XVI(16)にはいわゆる初期生産型(後述)がありませぬ。
そもそもMk.IX(9)は、とにかく細かい改修が多い機体です。
既に生産ライン上にあったMk.V(5)にエンジンと大型ラジエターを搭載しただけ、
といった最低限の改修だけの初期型から、防塵フィルターの内蔵、
Mk.VII(7)の設計を基にした全面枕頭鋲の採用と、外板の継ぎ目を滑らかにする工夫、
そして大型垂直尾翼への変更と、生産中にも多くの改変が行われており、
最終的には水滴風防型まで登場します。
このため、その分類がちょっと面倒な機体でもあるのです。
それらの追加修正が加わったものを後期生産型(Later
production Mk.
IX)などと呼びますが、
実際、どこまでが初期型でどこからが後期型か、というと個人の趣味で決めるしかない、
といったレベルの話になって来ます。
そこに加えて、バトル オブ ブリテンで活躍したMk.Iに比べると
イギリス本国でも機体の扱いがゾンザイで(笑)、
正直、まともな現存機は私は見たことがありません。
なので、今回の記事は最低限の写真による最低限の説明に留まります。
最初の写真は帝国戦争博物館ダックスフォードにあるMk.XVI(16)、シリアルTE184。
パッカード社製、アメリカン マーリン積んでますから16です、
と言われたって外見からわかるわけないので、
9か16かは、シリアルナンバーとリストをつき合わせて判断するほかありません。
ただし、この写真の機体は本来、水滴キャノピー型のスピットでした。
つまり、後のグリフォンスピットやF-16戦闘機のようなキャノピーを持った
後期生産ローバック(Low
back)の機体だったのを、
強引に従来のハイバック(High
Back)型にしてしまったもの。
なんでそんな事を、と思いますが、
どうも戦後に映画 空軍大戦略(Battle of
Britain)に使われる事になり、
さすがにローバック(Low
back)のスピットがバトル オブ ブリテン時の映画に居てはまずい、
という事で改造された、という説がありにけり。
なんともはや、という感じですが…。
さらに言うならこの機体はフラアブル、つまり飛行可能な状態で維持されており、
その状態の維持のために徹底的に補修されてしまっていて、資料的な価値はほぼありません。
なので、ここでは全体の雰囲気を掴んでもらうために、この写真だけ載せて置きます。
ちなみにハイバック→ローバック(呼び方はいろいろだが)によって水滴風防になる、
というのはアメリカ陸軍の単発戦闘機の典型的な進化コースですが、
イギリスではスピットだけがこれをやってます。
ちなみにイギリス空軍公式のスピットファイア操縦手帳(Pilot's
Note)では
こういった水滴キャノピー型の機体を
後方視界胴体型(Rear view
fuselage)と呼んでますが、
じゃあ、従来のハイバック型はなんて呼ぶんだろう…。
本来は写真のMk.XIV(14)のようにグリフォンエンジン搭載スピットファイアから
本格採用されたものなんですが、大戦末期まで生産が続いてたMk.IX(9)&XVI(16)では
マーリンスピットながら、最終段階の生産型で、この水滴風防型が造られました。
今回は残念ながら、それらの機体の写真はありませぬが…。
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