さて、何度も書いてますが、Mk.IX(9)は
状保存態のいい機体に恵まれてません。
そんな中、私が見て来たMk.IX(9)シリーズの機体の中では、
比較的まとも、と言えるのが今回紹介する
フランスの航空宇宙博物館にあるMk.XVI(16)です。
この機体は低高度型なので、LF
Mk.
XVI(16)e となります。
ここで最後の eって何?
と思ったあなたは既にスピットファイア博士助手の資格はあります(笑)。
これはLF
Mk.
IX(9)以降に登場した主翼形式で、C型翼の7.7mmはもう使えん、と廃止、
代わりに20mm機関砲×1 + 12.7mm機関砲×1という武装にした主翼です。
逆にMk.
IX(9)とXVI(16)は全てC翼であり、A型翼とB型翼はないので、
このe型以外の場合、特に主翼型の文字は型番に入りません。
(ただし例外があってどうも極少数、A型翼とB型翼のIX(9)が造られたらしい。
その理由は不明かつ、これらの呼称に主翼の型番が入ったのかも不明)
ただしこの機体も1970年代にフライアブルにしてしまったことがあるようで、
現状の維持という点ではいろいろ疑問符が付くのですが…。
なんでそんなに片っ端から飛ばしたがるんだ、イギリス人…。
機体にはTB597と書かれてますが
これは自由フランス空軍の機体に化けるための大嘘で(笑)、
実際のシリアルはRR263。
さすがにシリアル書き換えちゃうのはやめて欲しいなあ…。
RR263機は1944年製造で、後期生産型に属するもの。
とりあえずツルピカになった機体表面、垂直尾翼のトンガリ帽子型の大型舵面など、
後期型のMk.IX(9)&Mk.XVI(16)の特徴が、ほぼ全て揃ってる機体です。
従来のスタイルのマーリンスピットの完成型、
と言えるのがこの時期の生産型だと思います。
(この後は水滴キャノピー型になってしまう)
なにせフランス(笑)、この機体も大戦中にイギリスへ亡命して戦った
自由フランス空軍(FAFL)の塗装にレストアされてます。
もっとも、強引に自国に関連したレストアをやる、
というのは、後で見るようにアメリカもやってるんですが…。
が、実際は最初から最後までイギリス空軍によって使用された機体です。
1954年ごろまで、空軍に籍を置いていて引退後、
ゲートガード(基地の入り口に装飾代わりに置かれた機体)などに使用された後、
1970年代に期限付きでフランスの博物館(航空宇宙博物館?)に貸し出されます。
その後、理由は不明ながら、最終的にフランスに寄贈そうな。
(寄贈前に一度イギリスに戻って、フライアブルに修復されてしまったらしい(涙)…)
例によって、ちょっとピカピカにしすぎ、という感じがしますが、
実際にMk.IX(9)は後期製造型になるほど、ツルピカになってゆく、という特徴があります。
Mk.IX(9)の場合、最初は文字通りの緊急改造で、Mk.V(5)の胴体に延長した
機首と尾部(尾翼の手前から別パーツで分離できる)をくっつけただけ、という機体だったんですが、
徐々にMk.VII(7)で採用した枕頭鋲&滑らかな継ぎ目の技術を投入、
最終的にはほぼMk.VII(7)なみのツルピカボディを手に入れてしまう、
というエステ好きのOLみたいな機体でもあるのです。
ちなみにMk.IX(9)より遅れて生産にはいったMk.XVI(16)は最初から
このツルピカタイプだったと思われます。
20mm機関砲のカバーの下奥に見えてる、機首部の下の長い管は
防塵フィルタを内蔵してる過給器の空気取り入れ口。
Mk.VIII(8)用に開発されたものを、Mk.IX(9)の生産途中から取り入れたもので、
Mk.XVI(16)では、これも最初から搭載済みだったようです。
これによって全ての機体に防塵機能が搭載されたので、Mk.IX(9)では、
特に熱帯型(Trop)というものが存在しません。
というか、こんなに小さくできるなら、
あのMk.V(5)のアゴスピはなんだったの、とも思いますが…。
ちなみに通常はフィルターを迂回して空気を取り込める用になってます。
正面から。
プロペラが4枚、主翼下のラジエター類が左右に分かれる、
といったMk.IX(9)以降の特徴がわかります。
ラジエター容器の中に左翼にはオイルクーラーが、右翼にはインタークーラー冷却器が
それぞれ入ってるのは、この構造の元になったMk.VII(7)と同じ。
機首下の防塵フィルタ付き空気取り入れ口も大きくなってるのを見といてください。
これは2段過給気になって吸気量が増えたためだと思われます。
主翼の付け根のガンカメラ用の穴が右翼側に移ってるのも
Mk.IX(9)後期型とMk.XVI(16)の特徴です。
ついでに、こうし見るとスピットの主脚はラジエター正面を塞いでしまってるのが判るかと。
航空機で最も高い出力を出すのが離陸時で、しかも温度が高い地表付近ですから、
少しでもラジエター、インタークーラー、そしてオイルクーラーで効率よく冷やしたい時に、
そのラジエターにまともに空気が入らないのです、この機体。
このため、イギリス空軍(RAF)発行のスピットファイア操縦手帳では、
離陸後、しっかりと脚が上がったかを確認せよ、という項目に
速度ではなく、冷却のために確実に行え、
さもなければ温度上昇でエンジンが壊れると警告してます。
斜め前から。
Mk.VII(7)式の4枚プロペラとスピナーを見ておいて下さい。
機首部全体も、後期生産型らしいMk.VII(7)式の
継ぎ目がほとんど目立たない滑らかな構造のものになってます。
さらに注目は矢印の部分。
実は現地で見たときは気がついてなかったのですが、これ木製プロペラです。
黄色い部分を良く見ると本体部分に対して右側にカバーのようなものが付いてるのが判ります。
(右上のプロペラでも同様の構造が確認できる)
これはプロペラ根元まで続いてます。
プロペラ回転方向(コクピットから見て右)に付けられたカバーであり、
おそらく衝突の際に破断した木製プロペラが飛散しないようにしたものだと思います。
イギリス機の場合、資材不足なのか重量対策なのか、
あるいは金属製プロペラの量産が追いつかなかったのか、理由は不明ながら
いくつかの機体でジャブロ(JABLO)社製の木製プロペラを採用してます。
スピットではMk.V(5)の一部から採用が始まり、Mk.IX(9)&Mk.XVI(16)
さらにグリフォンスピットファイアでも使われてますね。
グリフォンスピットの場合、おそらく重量対策ではないか、と思うんですが、
マーリンスピットの場合のメリットはよくわかりませぬ。
飛行中は主翼の揚力を重心に水平を保ってる以上、
機首部の重量が変わったら尾部も軽くしてバランスを取る必要があります。
木製プロペラ機は尾部のオモリを抜いて調整したのか、あるいは他の方法があったのか、
この辺りは資料が無いので、なんとも言えませんが…
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