お次は、コクピット周辺。
上に飛び出てるアンテナ支柱(アンテナ線を張る支柱。アンテナ本体ではない)の根元に
細かい穴が開いてますが、少なくともMkI
には無かった加工で、何のためのものかは不明。
で、空気の薄い高高度に対応するために与圧式コクピットを搭載した
Mk.VII(7)では、開閉するキャノピー(天蓋)の接合部からの空気漏れを防ぐ必要があり、
従来のままのスライド式開閉装置では無理があります。
この点は、たいていの英語圏の資料によるとレール部が密封されてる
ロベル式スライディング キャノピー(Lobelle sliding
canopy)を使っていた
とされますが、この機体、そのレールが見えませぬ(笑)。
というか、そもそもキャノピー(天蓋)部が浮き上がってしまってます。
その横には明らかに固定用らしいツノ型レバーが見えており、あれでガシっと固定したんだと思われます。
このレバーはレストア前のオリジナル状態の写真でも見受けられるので、単純なレストアミスでは無さそうです。
さらに当時の写真を見ても、スライドレールが見当たらないMk.VII(7)が他にも確認できます(BS142号機など)。
どうもこれ、Mk.VI(6)に採用されていたのと同じ留め金式(Clamp
on)のキャノピーですね。
接合部にはゴムパッキンがあり、これをギュッと押しこんで留め金で固定することで空気漏れを防ぎます。
初期生産のMk.VII(7)にはロベル式キャノピーが間に合ってなかったのかも知れません。
…と思って確認してみたら、発明者のロベルがアメリカで特許を申請したのが1943年4月ですから、
1942年8月の初飛行後に生産に移ったMk.VII(7)の生産には間に合ってません。
実際は、かなりの数がMk.VI(6)と同じ留め金式だった可能性がありそうです。
イギリスの資料も40年前の出版物の話を平気で孫引用とかしてますから、
結構、あてになりませんしね。
もしかすると、その遅れで、あんなに生産期間が長引いたのかしらむ?
この固定方式だと、緊急脱出がかなり困難で
(左右の固定レバーを持ち上げてから押し上げる)
どうにも危険ですから。
ついでにキャノピーの透明アクリル部、これの左右の膨らみが無いようです。
与圧コクピットなので、掛かる力が複雑になる形状を嫌ったのか、とも思いますが理由は不明。
レストアのミス、という可能性もありますが(笑)、当時の写真で見ると、同じ与圧コクピットを搭載してた、
Mk.VI(6)も左右への膨らみが無いので、これで正解なのでしょう。
ついでに書くと、通常型のスピットにも、この膨らみが無い機体があり、
どうも1940年前半辺りまでの生産機(Mk.I)にはキャノピーに膨らみがないのでは?
と思ってるんですが、ここら辺り、まだキチンとした資料を見つけてないので
断言はしないでおきます。
さらにコクピット周辺部のアップ。
初期型マーリン スピットに比べて、イロイロ異なるのが見て取れます。
まずはコクピットの前、風防部にオニギリ型の小さな開閉式の窓があるの、わかるでしょうか。
あれはスライド式でないこのコクピットで一度キャノピー(天蓋)を閉めてしまうと、
何かあったとき、外にいる人間とすぐには会話ができないので、その対策用のものだと思われます。
エンジン始動までは、あの窓を開けて、外部の整備員らと話ができる工夫でしょう。
パイロットがなんか楽しそうに手を振ってるけど、声が聞こえないので、
まあとりあえず、こっちも手を振り替えしておくか、と思ったら火災で助けてと言ってたのだった、
といった悲劇を避けるための工夫で、スライド式キャノピーが少ないドイツ機などによく見られるものでしょう。
ちなみにこれ、良く見ると上部がごく普通の蝶型ナットで止めてあります(笑)。
まあ、これしかやりようがなかったんでしょうが、他の部分で徹底的に気を使ってる分、
なんか手抜きな印象がありますね…。
さらに背もたれ式防弾板に支柱のような細い棒が繋がってますが、正体は不明。
そしてここにあるはずの無線機用電源の変圧器と、その黒い円筒形カバーがありませぬ。
まさか無線を積んでない、という事はないと思いますが…。
ちなみにこれレストアのミスでは無く、Mk.VII(7)は変圧器がここに無い、で正解のようです。
なぜかは全くわかりませぬ。
そして、この機体、後ろから操縦席に繋がってるはずのシートベルトが見えません。
当時の写真で見ると、シートベルトの取り付けは初期型スピットと同じはずなので、
どうもこれはレストアミスじゃないか、という気がしますが…。
前部の防弾ガラスがMk.Iのように外にはみ出してるのではなく、
風防の内側に取り込まれてるのも見ておいてください。
こもMk.VII(7)以降の後期型マーリンスピットの特徴です。
キャノピーの枠沿い、そして風防下の左右に走ってる管は与圧用の空気の送風管。
機首部の空気取り入れ口の直後に与圧用の圧縮機があり、
そこで高高度の薄い空気を高圧にしてコクピットに送り込んでます。
この辺りはおそらくMk.VI(6)で開発された装置をほぼそのまま使ってますね。
良く見ると、左右下のパイプは防弾ガラス下で噴出すようになっており、
高温(圧縮されて温度が上がってる)の高圧空気をここで噴出させ、
正面ガラスの曇り止めにしていたのだと思います。
でもって、さらによく見ると、キャノピー枠のパイプにも小さい穴が開いており、
これもたぶん、曇り止めじゃないかなあ、と。
軽くマイナス数十度になる成層圏下層で、一定の温度に保たれた操縦席内ですから、
こういった工夫が無いと、あっというまに透明アクリルは曇ってしまうのでしょう。
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