■スーパーマリン スピットファイア HF.MK.VII(7)C
Supermarine Spitfire
HF.Mk.VII(7)C
スピットファイアは主に搭載エンジンによって各型番に分類されるのですが、
その中でも初期1段1速マーリン、後期2段2速マーリン、そして新型グリフォンエンジンの
3つの世代に大きく分かれます。
(グリフォンスピットもミッチェル設計世代と、完全新型世代に別れるが、
ほとんど無視していい機体なので、今回は考えない)
そのマーリン初期型から後期型に移る過程で、
スピットファイアの特異点、高高度型戦闘機が2つ製作されてます。
一つが初期型マーリン世代最後の機体、Mk.VI(6)で、
お次が型番の上では(笑)後期型世代の最初の機体となるMk.VII(7)でした。
今回紹介するのは、その後期マーリン搭載型の高高度戦闘機、Mk.VII(7)です。
本来なら高高度に強い2段2速マーリン60シリーズの搭載は、
ドイツのJu86P&R対策が最優先で、
このため高高度戦闘機のMk.VII(7)が最初に計画されていました。
さらにこれを改装して通常戦闘機型にしたMk.VIII(8)が
次の主力スピットファイアになる予定だったわけです。
が、例によって場の空気を読まないドイツ空軍ことルフトヴァッフェが
1941年秋頃から、いきなりFw190を投入してきたため、
その完成が1942年夏ごろまでかかりそうな両機を待ってるわけには行かなくなります。
このためMk.V(5)の機体ほぼそのままで、エンジンをマーリン60シリーズに換装した
急造の新型スピットファイアが開発される事になります。
が、既に7と8の型番は計画段階で使われてしまっていたため、
これがMk.IX(9)としてデビューする事になったようです。
で、こちらは従来の機体に簡単な改造をしただけですから、
初飛行から実戦デビューまで、全てMK.IX(9)が最初になってしまいます。
そして、このMk.IX(9)とアメリカ製パッカードマーリンを積んだ同型機、Mk.XVI(16)を
主力戦闘機として、イギリスはほぼ終戦まで戦い抜くことになるのです。
(MK.IX(9)が約5600機、Mk.XVI(16)が約1000機、計約6600機が約3年間で造られた)
こうして見ると、ミッチェルが開発を指揮した機体部分の基本性能は、
やはり相当優れていたんだなあ、という印象です。
結局、大戦前の1936年に初飛行しながら、1945年までの9年間、
機体の基本設計はほぼ変更なしのまま
主力戦闘機として活躍する事になってるわけです。
むしろその基本設計を大幅に見直した
グリフォンスピットの方が使い道に困ってしまうくらいだったわけで…。
というわけで、何でも屋戦闘機、スピットファイアの中でも、
特に変り種と言える、高高度戦闘機型のMk.VII(7)。
ところが造ったはいいものの、ドイツのディーゼル排気タービン搭載高高度爆撃機は
結局、ほとんど実用性が無かったため量産はされず、
待てど暮らせど肝心の敵機がイギリスまで飛んで来ませんでした。
(1942年夏から数回、数機単位の嫌がらせレベルの爆撃をやっただけで終わる。
あまりに少数で偵察機だと思ったイギリス側は迎撃機を発進すらさせない場合があったらしい)
さらには高度11000m位までなら同じエンジン積んでるMk.IX(9)で何とかなってしまったため、
このMk.VII(7)は結局、140機前後しか造られてません。
さらに初飛行した1942年8月からたった140機造るのに2年近くかかっており、
もはやイギリス軍も本気で使う気は無かったように見えます。
で、高高度戦闘機ってのは、通常の後期型マーリンスピットとどこが違うの?というと、
細かい部分がイロイロ違うんですが、一番判りやすいのが主翼でしょう。
基本的な構造は従来のC翼(武装変更ができるタイプ)なんですが、
それに付ける翼端部が延長されていて、
左右の主翼の端から端までの長さは1.01mほど長くなってます。
これで多少なりとも翼面積を増大させて空気の薄い高高度対策としたそうですが、
個人的には、この程度じゃ効果は微妙だと思いますが…
でもって1段1速過給器マーリンゆえに
事実上使い物にならなかった(涙)、初代高高度戦闘機Mk.VI(6)から、
適用高度による分類がスピットの名称に持ち込まれます。
これによって、従来は機体の型番と武装(主翼の種類)のみだった
スピットの型番に使用高度の分類が加わる事に。
この新しい呼び分けは三つあって、
LF 低空用
F 通常型
HF
高高度用
となってます。
(ただしMk.V(5)でも、翼端カット型の低高度用機をLF
Mk.V(5)と呼ぶ場合がある。
が、この呼び方はMk.IX(9)導入後に始まった可能性が高い)
これらは型番の前に入るので、高高度型のMk.VII(7)の正式名称は
HF.Mk.VII(7)で、展示の機体では主翼がC型ですから
その正式な呼称はHF.Mk.VII(7)Cとなります。
ここら辺りからイロイロ面倒になって来るんですよ、スピットファイアの名前…。
ちなみにMk.VII(7)はC翼しか搭載してないので、すべてCです。
余談ながらイギリスで出版されてる資料で見るとMk.VII(7)には
翼端を通常型にしてエンジンセッティングも変えた
F型もあったそうですが、ホンマかいな。
あるいは使い道の無い高高度戦闘機としてではなく、
通常戦闘機にして使うことにしたのか?
さらに余談ですが、Mk.VII(7)という呼称は最初偵察型スピットの
試作機に与えられていたため、高高度戦闘機ではないMk.VII(7)があるようです。
この試作機が実際に造られたがはっきりしないのですが、
とりあえず2機以下しか造られてないはずなので、忘れていいでしょう。
今回紹介するのはスミソニアンの航空宇宙館本館に展示されてる機体、EN474機で、
世界で唯一のMk.VII(7)の現存機です。
ついでに言うなら、使い道がないまま、ウッカリ100機ほど造られてしまった
MK.VI
(6)
には現存機がないので、高高度戦闘機型スピットファイアとしても、
世界で唯一の生き残りですね。
この機体は1943年3月に生産された後、そのままアメリカに送り出され、
5月にアメリカ陸軍が受領、高高度戦闘機の参考用に試験されたらしいのですが、
そもそも排気タービン搭載のP-47とP-38を持っていたアメリカは
それほど興味を持たなかったようで
(そもそもこの国は1920年代から高高度軍用機の研究をやってる)、
あまりキチンとテストした様子が無く
(すぐに星のマークを入れたがる陸軍が、最後までイギリスのラウンデル(国籍章)のままにしてた)
戦後の1949年にはスミソニアンに寄贈されてました。
その後、1976年の航空宇宙館の公開にあわせてレストアされた機体です。
一時、保存場所が無く雨ざらしになっていたため、多くのパーツが痛んでしまった結果、
レストア時に付け替えられている上に、
塗装の再現なんかはイギリス人にボロクソに言われてたりしますが、
(色がおかしい、という話で、塗装のパターンはオリジナルのものをキチンと再現してる)
それでも、後期マーリンスピットの中では、かなり状態が良いまま保存されていた機体でしょう。
でもってマーリン後期型のMk.IX(9)とXVI(16)は終戦時に在り過ぎたためか、
あまりキチンと保管されず、現状、イギリスでもまともな機体がほとんど無かったりします。
そう考えると、もしかすると後期型マーリンスピットでは、
ベストな状態にあるのが、この機体かもしれません。
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