さて、まずは横から。
やや後方から撮影してるため、手前側が大きく見える、という部分もありますが、
それでも尾翼がかなり大型化して、後方に伸びてる、という特徴はよく判ると思います。
例によって胴体中心部分は従来の機体、Mk.IX(9)の後期生産型から多くを流用してますが、
全体の構造が強化されてもいるようです。
ちなみに、どういうわけか、世界中の航空博物館で展示されてるスピットファイアは
右側面を撮影できない事が多いので(航空機愛好機関のスピットファイアの写真を見よ)、
せっかくの機会なので、この写真で幾つか解説をして置きます。
まず、ちょっと見えにくいですが、
タイのラウンデル(国籍マーク)の左上に薄っすらと見えてるハッチが
より後部に設置位置が移された無線機の点検、交換用ハッチ。
従来のマーリン スピットでは機体左側面、コクピットすぐ後ろにあったもので、
これがこの位置にあるのがMk.XIV(14)の特徴の一つ。
その後ろ、白帯の所にあるハッチは後部胴体内の点検ハッチで、
ここから整備員は上半身を機体内に入れて整備作業をやります。
ハッチそのものは初代スピットMK.Iからこの位置にあったもの。
大柄なアングロサクソン系の皆さんにとって、
少なくとも楽な作業ではなかったように思われます、尾部の整備作業。
反対側から。
主翼は基本的に従来のe型翼と同じで、武装も両翼で20mm×2+12.7mm×2ですが、
内部構造には補強が入ってる他、翼面下のラジエター用の容器も大きくなってます。
ついでに、水平尾翼も、基本的には従来のままのものが使われてます。
(ただし後で見るように昇降舵が金属外皮になったほか、補強が入った可能性もあり)。
真正面から。
とうとう5枚にまで増えたプロペラがグリフォンスピットの特徴で、
プロペラ枚数がドンドン増えてゆく(試作機と初期生産型ではそもそも2枚だった)、
というのが、スピットファイアの宿命なのかもしれませぬ。
プロペラ機ではどんなにエンジンの能力が上がっても、
これをキチンと推力に変換できなければ意味がないわけで、
こうして見ると、2000馬力でプロペラ5枚、といった辺りが進化の終着点のような感じも受けます。
当然、これも木製プロペラ。
ついでに言うと、グリフォンはマーリンに対してプロペラ軸の回転方向が逆で、
このためプロペラピッチ、すなわち回転方向への迎え角が異なっています。
でもってプロペラ機では回転方向と逆に機首が振られる、という特徴があるため、
離陸時など大出力時には、方向舵で調整する必要があります。
グリフォンスピットではその向きがいきなり反転してしまったわけで、
マーリンスピットに乗っていたパイロットは当初、相当に驚いたようです。
ついでに上のプロペラの隙間から、機首部の上の凸部が飛び出してるのがわかります。
あれはグリフォンエンジンのシリンダーヘッド部が
収まり切れなかったために追加された張り出しで、グリフォンスピットの特徴の一つです。
ただし先に書いたように、エンジンのサイズはそこまで大きくなってないので、
普通に考えると、こんなに大きな出っ張りはできないはず。
で、先に書いたようにグリフォンはマーリンより出力軸(プロペラ軸)が低い位置にあり、
エンジン上部から見てプロペラ軸までの距離が長くなってます。
さらに正面から見るとよくわかりますが、Mk.XIV(14)は機首部は、
従来のマーリンスピットのように四角張っていません。
スピナーに向けて滑らかに絞り込まれるように変更されていて、
全体が丸く整形されているのです。
このため、ほとんど同じサイズのエンジンでも、
丸まった機首に、より上部の高さがあるエンジンを詰め込んだ結果
シリンダーヘッド部が機首上に飛び出す形になった、
というのが正解のように見えます。
少なくともエンジンがグリフォンになって大型化した結果の凸部だ、
というのは事実では無いでしょう。
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